番組活用コラム~しまった!を教科等の学習で効果的に活用するために~

プレゼンテーションの指導

東京学芸大学 准教授 高橋 純

(1)学習指導要領とプレゼンテーション

プレゼンテーションとして表現する力が、重要な資質・能力であることはいうまでもない。現行の学習指導要領解説では、国語や総合的な学習の時間などにおいて、相手意識や目的意識を明確にしてまとめたり表現したりする方法としてプレゼンテーションを行うこと、その方法を身に付けること、プレゼンテーションソフトを利用することなどが記述されている。小学校における記述も多いが、より中学校に多い。
また、プレゼンテーションという用語が直接使われていなくても、相手意識や目的意識を持って表現する活動は、様々な教科に書かれている。これらもプレゼンテーションの一形態であると見なせば、本番組の考え方は、様々な教科で活用可能といえる。

現行の学習指導要領解説での記述例

小学校国語 第5学年及び第6学年 「A話すこと・聞くこと」(2) 内容 言語活動例
ア 資料を提示しながら説明や報告をしたり,それらを聞いて助言や提案をしたりする言語活動

準備した説明や報告の発表原稿にふさわしく,相手の理解を深められるような資料を提示することを求めている。適切な資料の選択や作成と,それらを活用した話し方が重要となる。
資料としては,本や文章,実物や映像,リーフレットやパンフレット,図表などから適切なものを用いることになる。また,話す内容と資料との整合,適切な時間や機会での資料の提示,スピーチ原稿や資料への目配りの仕方,相手の反応などに注意しながら話させるようにすることが必要となる。ここでは,コンピュータのプレゼンテーションソフトなどを利用して発表することなども考えられる。

中学校 総合的な学習の時間 総合的な学習の時間の学習指導 総合的な学習の時間の学習指導のポイント 学習過程を探究的にすること ④まとめ・表現
調査結果をレポートや新聞,ポスターにまとめたり,写真やグラフ,図などを使ってプレゼンテーションとして表現したりすることなどが考えられる。相手を意識して,目的を明確にして伝えたいことを論理的に表現することで,自分の考えは 一層確かになっていく。

(2)プレゼンテーションの学習指導

プレゼンテーションは、複合的で総合的な活動である。さらに、その後の質疑応答まで含めれば、より複雑な活動になる。したがって、上手なプレゼンテーションを行うためには、複雑な活動を分割して、繰り返し練習をしていくことになる。
プレゼンテーション時の行動は、主に、1)話す 2)スライド(情報提示) 3)アクション(指し示しやアイコンタクト等)に分けられる。それぞれが充分に準備されると共に、本番では、適切に組み合わされ発揮される必要がある。以下に、それぞれについて最も重要と考えられる点を説明するが、さらに詳細は数多くのプレゼンテーション指導の解説本をご覧いただきたい。

1) 話す

緊張すると早口になったり、自信がないと小声になったりする。そこで、最初の頃は、よく検討したスライドに基づいて、話す内容を全て紙に書き出し、紙を見ながら何度も練習する。5回、10回と練習を続けていくと、次第に紙を見なくてもスラスラと言葉が出るようになり、適切に間を取れたり、自然と感情を込めたりできる。練習回数と上達の関係、練習時間の確保の工夫は、合唱や楽器の練習と似ている。練習の際は、この経験を活かすとよい。番組中でも、練習の重要性が指摘されている。練習を重ねながら、話し方のレベルアップを図っていく。

2) スライド

スライドづくりで、最も大事なことは、話す順序、つまりスライドの順序を決めることである。スライドの流れが自然であれば、仮に話し方がうまくなくても、意図はある程度伝わる。英語など不慣れな言語でプレゼンテーションをする場合は、特に気をつけたい。
順序の原則には、A)結論や重要なことから伝える、B)全体から部分へ、C)具体例から抽象的・汎用的な内容へ、D)易しいことから難しい内容へ、などがある。児童生徒は一枚一枚のスライドの完成度にこだわるあまりに、肝心の順序に気が回らないことがある。見出しを中心におおよそ各スライドができたら、まずは原則に基づいて、順序を検討させることが大切である。不要なスライド、必要なスライドなどの加除も起こるだろう。その後に、一枚一枚のスライドを詰めていく。
各スライドでは、たくさんの事を伝えたくても、あえて、情報量を絞り、構造的に見せていく。具体的な方法として、番組では、写真やグラフを絞り込むことやキーワードで書くことが紹介されている。

3) アクション

図【アイコンタクトの例】一文字で Z字で

原稿を見ながら話すのではなく、手振り身振り、聴き手へのアイコンタクトが重要と指導する授業は多い。しかし、先に述べたとおり、最初は原稿を見て練習をする段階が必要である。徐々に慣れてきたら、手振り身振り、アイコンタクトなどが可能となる。アイコンタクトをするための工夫として、聴き手に対して左から右に一文字に視線を配る、さらに人数が多いときは折り返してZ字に視線を配るといった具体的なアドバイスをすること(図)で、大勢とアイコンタクトするための方法が伝わる。

また、スライドの指し示しも重要となる。特に、写真、図、グラフ、表などは、聴き手に着目して欲しい箇所を丁寧に指し示しながら伝える。例えば、グラフであれば、縦軸・横軸の単位も含め事実関係を指し示しながら説明した後に、意見を主張する。実は、練習を繰り返していくと、逆に、当たり前といった思い込みが起こり、事実関係や着目点の説明を省いてしまうことが起こりやすい。丁寧に指し示しながら説明する癖が付いていれば、こういった問題を防ぐことができる。

プレゼンテーションが成立する要件から考えれば、1)が最も重要と考えられるが、それぞれ個別に準備、練習する際は2)→1)→3)の順となるだろう。限られた時間であることを考えれば、児童生徒自身が見通しをもって準備ができるように指導していく必要がある。

(3)おわりに

プレゼンテーションは、探究的な学習の学習過程の最終段階といえる。つまり、良いプレゼンテーションをするためには、「情報の収集」の段階(第1回「インタビュー」など)、「整理・分析」の段階(第4回「情報を整理する」など)がしっかりと行われていることが前提となる。その結果、学習指導要領解説にあるように「目的を明確にして伝えたいことを論理的に表現することで、自分の考えは 一層確かになっていく」といったプレゼンテーションの成果が「まとめ・表現」の段階として得られる。さらに、その後の質疑応答で、聴き手から質問や意見を頂戴することで、新たな疑問や課題が生まれ、新しい探究的な学習のスタートにつながる。つまり新たな「課題の設定」の段階につながっていく。こういった好スパイラルを起こすために、プレゼンテーションを上手に学習過程に位置づけることが重要であろう。