思考ツールで“考える”授業をつくる
鳴門教育大学 泰山裕
考えることを補助する思考ツール
思考ツールとは考えたこと見えるようにし、考えることを助けるための道具である。
「考える」ことはとても難しい。
その「考える」を助けるためのツールが思考ツールである。頭の中に浮かぶたくさんの情報をある特定の枠に沿って書き出させることで「考える」ことを助けてくれる。
番組の中では、考えを整理するポイントとして
- 何かと比べて理由を考える
- 理由を具体的に説明する「根拠」を考える
- 理由と根拠を複数書く
が挙げられている。
これは「なぜスマートフォンは便利なのか」を「考える」際、つまり、「スマートフォンが便利な理由を複数の視点から挙げる」際に必要になるポイントである。そのための思考ツールとしては、フィッシュボーン図が有効である。フィッシュボーン図に頭の中にあるいろんな情報を書き出すことで、色々な視点から根拠を持って自分の考えを伝えることができるからだ。
そして、このような考え方が必要になる場面は各教科等の学習場面にある。
国語で「筆者の意見に対する自分の考えを整理するとき」(図1)、社会で「自分たちの住む地域の特徴を整理するとき」(図2)、学級活動で「クラスの課題を整理するとき」(図3) などのように「ある事象を複数の視点からみる」場面では教科等横断的に活用することができる。
図1【 筆者の意見に対する自分の考えを整理する 】
図2【 自分たちの住む地域の特徴を整理する 】
図3【 クラスの課題を整理する 】
その他の思考ツール
「考える」は「ある事象を複数の視点からみる」ことだけではない。思考ツールにたくさんの種類があるのは、「考える」ことが場面によってその意味が変わるからだ。
「第一場面と第四場面の登場人物の違いを考える」ことと「友達の発表の改善点を考える」ことでは、「考える」の意味は全く違う。前者では登場人物の様子や心情について“比較する”ことが必要だし、後者では友達の発表を“評価する”ことが求められる。
“比較する”ためにはベン図が適しているし、“評価する”ためにはPMIが有効である。
そのほかにも“イメージを広げる”とき、“理由を説明する”とき、“分類する”とき、“関連づける”ときなど、それぞれの考え方に応じた思考ツールがある。
このように授業中に子どもに求める「考える」を明らかにした上で、それに適した思考ツールを選択する必要がある。
授業で思考ツールを使うために
思考ツールはその名の通り、道具である。
子どもに求める「考える」に応じた思考ツールを選ばなければ、子どもの思考を邪魔してしまう。ノコギリでは釘が打てないように、比較させたいときにイメージマップを渡してしまうと、子どもはうまく考えることができなくなる。
これを防ぐためには、「どの思考ツールが使えるか」ではなく「どのように考えさせたいか」から授業を作る必要がある。
泰山ほか(2014)は学習指導要領において求められる思考の種類を以下の19種類に整理している。
多面的に見る | 変化をとらえる | 順序立てる | 比較する |
分類する | 変換する | 関係づける | 関連づける |
理由付ける | 見通す | 抽象化する | 焦点化する |
評価する | 応用する | 構造化する | 推論する |
具体化する | 広げてみる | 要約する |
この視点を参考に、授業で求める「考える」が“比較する”ことなのか“理由付ける”ことなのか、それとも“構造化する”ことなのかを明らかにしてから、それに適した思考ツールを選ぶことが大切である。
そして、思考ツールは考えることを助けるための道具であると同時に、考える方法を身につけるための道具でもある。
思考ツールは教科に限定されることなく、どの教科でも活用することができる。様々な場面で思考ツールを繰り返し使っていくことで、思考ツールは教科の学習を超えて、考えるための道具として子どもたちの中に入っていく。
思考のための道具をもち、場面に合わせて自由に使って問題解決ができる子どもを育てるために、まずは様々な場面で適切な思考ツールを選び、活用させることが大切である。
参考資料
- ・泰山裕、小島亜華里、黒上晴夫(2014)「体系的な情報教育に向けた教科共通の思考スキルの検討」
- ・シンキングツール~考えることを教えたい
http://www.ks-lab.net/haruo/thinking_tool/short.pdf ※NHKサイトを離れます