携帯(けいたい)電話会社のコマーシャルに出てくる人間型ロボットPepper(ペッパー)を見たことがあるかな?2014年に発表されてから、コマーシャルの中だけでなく、ホテルで受付をしたり、コーヒーメーカーの販売員(はんばいいん)をしたり、いろんなところで実際に働いたりもしている。そのペッパーはパソコンやスマートフォンのように「アプリ」を入れることで受付の仕事をしたり、お客さんの相手をしたりできるようになるんだ。
柴原さんは、このペッパーアプリ、特に人間の感情をわかるようにする部分に関わってきた。どんな夢を持ってロボットを作ってきたのかな?お話を聞いてみたよ!
柴原さんが ペッパーの開発に関わったきっかけは?
3年前までぼくはスマートフォンのアプリを作っていたんです。ある日、会社で「秘密(ひみつ)のプロジェクトがある」と会議室によばれて、何かな?とドキドキしながら中に入ると、ならんでいたえらい人たちから「おめでとうー!」って言われて…(笑)。はじめは全く何の仕事だか分かりませんでしたが、「ロボット」を作るということだけはなんとなく伝わってきました。でも、ロボットといっても色々あるので、工場とかにあるような人間の形でない産業用ロボットのことかなと思いました。でも、話を聞いていくと、人間型ロボットのアプリを作るんだとわかってきました。
秘密プロジェクト!かっこいいですね(笑)。人間型ロボットって、小説やアニメなどでずっと語られてきたけど、「まだまだ先」って感じでしたよね。秘密プロジェクトの仕事を聞いてどう思いましたか?
ちょっと大丈夫(だいじょうぶ)かなと心配もあったのですが、それよりも、きっと面白いぞ!と思いました。ほかではやっていない新しいことをやるって、自分がパイオニア(=ほかの人よりも先に物事をする人)になれるので、とっても気持ちいいですし、やりがいもあるんですよね。でも、やってみると大変でした。
柴原さんは、ペッパーのどの部分を作ったんですか?
ペッパーの大きな特ちょうの一つは、人の表情や声から人の感情をわかって、それに合わせて行動できることです。ぼくは、その中の「人の表情から感情がわかる仕組み」のプログラムを作りました。
え!? かなしかったり、うれしかったり、おこったり、という感情ですよね。ロボットにそんなことがわかるんですか? 一体、どうやって!
ペッパーは頭についたカメラで人の顔を見ることができます。その人の表情(ひょうじょう)から、「よろこんでいる度」「おこっている度」「かなしい度」「たのしい度」を1度から100度として読み取るんです。
例えば、その人が口のはじっこを上げていると「よろこんでいる度」と「たのしい度」は高くて、「おこっている度」と「かなしい度」は低い。目をふせて、まゆ毛をハの字にしていると「かなしい度」は高く、それ以外の度数は低い。目の間にしわがあると「おこっている度」は高くて、それ以外は低いです。
このように人の表情から、度数をはかる仕組みはすでに作られていたんです。
でも、その組み合わせがどのようになると、その人が本当によろこんでいるとペッパーが思うのか、は決まっていなかったので、その部分をぼくがプログラミングしたんです。
人によって表情ってさまざまですよね。おこっている顔をしながらないている人とか……。わたしでも顔を見て気持ちをわかってあげるのってむずかしいです。
そうなんですよ。「おこっている度」が80度だから、「この人はおこっているんだ」で、すませられるほど、人間の感情はたんじゅんではないので、何度もテストをくり返して調整していきました。
感情を読み取るテスト? テストってどんなことをするのですか?
実際にペッパーの前で自分でわらったり、おこったりするんですよ。ペッパーの前で笑ってみると、ある度数の組み合わせが出てきます。少しわらうぐらいだと度数がこれくらい変わるんだな、など、いろんな表情でのデータを取るために、ひたすらテストをする毎日でした。
赤ちゃんは母親の顔を見て、人の感情を理解するようになると聞きますけど、柴原さんがペッパーの母親がわりですね(笑)。
でも、ぼくはあまりうまく顔に表情が出せないみたいで、とくにかなしい時の表情が苦手なんです。なので、ペッパーがうまくわかってくれなくて……。
それは大変だ!
そのとき裏技(うらわざ)としてやっていたのが、インターネットで「かなしい」って言葉で写真をけんさくして、出てきた人の顔の写真をペッパーに見せるんです。
ほかの鳥に子どもを育てさせるカッコウみたいですね(笑)。
今までプログラミングの仕事をしてきた中で、自分の体を使うのってなかなかなかったので、すごく新しい体験でしたね。
ペッパーに向かってずっとおこったり、わらったりしていると、ペッパーを人間のように感じてしまうことはないですか?
思わず人間のようにせっしてしまうことはよくあります。
ぼくが仕事をしている横でペッパーが「何かききたいことある?」ってよく聞いてくるんです。そんなのかまわなくていいのですが、つい「いや、ないよ」と答えちゃうんですよね。むいしきに人間として見ちゃっているんでしょうね。
おもしろいですね!
ぼくがペッパーに見ている夢(ゆめ)は、まさにそこなんです。ペッパーには人間によりそうコミュニケーションロボットになってほしいと思っているんです。人の感情をもっとちゃんと分かって、自分の感情も表現して、人間のいやしになるロボットになれたらいいなって。今の産業用のロボットって、すごく性能が良くて、きれいにきちっと言われたことをやりますよね。でも、ペッパーは人間型です。当然言われたことをやるんですが、それ以外にも時には「いやです」とことわったり、少し勝手なことをやってみたり。そうなるとわたしたちも「なんで?」ってかまいたくなる。こんな風にもっとペッパーが人間的なものになるといいなって思います。
柴原さんがプログラミングを始めたきっかけは何ですか?
もともと、算数とか数学が好きだったんです。それと同じで、プログラミングをすると「アハ体験」って言うんですかね?“自分が思った通りの答えが出た”、“論理的(ろんりてき)に作ってきれいな処理(しょり)ができた”っていうのがすごく楽しかったんです。プログラミングを仕事にしたらもっと楽しいかもなって思っていました。
それで、今の会社に入ってスマホアプリ作りを経験し、スマホアプリ作りをしていたら、ペッパーアプリを作るプロジェクトに選ばれて、気づいたらなぜかペッパーの前でわらったりおこったりしていた(笑)。プログラミングをしてきた経験が今につながっていて、良かったなって思います。
ペッパーに関わるようになって、変わったことってありますか?
自分の性格も少し変わったかも知れません。ペッパーのプロジェクトでいろいろな多くの人と関わったのが関係しているのかも。
以前は、あまり家でも仕事の話をすることはなかったのですが、ペッパーが有名になってからは仕事の話を聞かれるようになって、ペッパーをやっているんだよって言うだけで、すごく興味を持たれるようになりました。相手に興味を持たれて聞かれると、ぼくも話したくなって、オープンな性格になったって感じます。
ロボットという最先端(さいせんたん)の技術にふれられる場所にいることで、見える世界が変わりました。
プログラミングが好きでその仕事をしているうちに、いつのまにか考えてもいなかった最先端(さいせんたん)のロボット作りに関わっていたという柴原さん。1才の息子にも大きくなったらロボットに関わってほしいと目をかがかせて語っていらっしゃったのと、そばにいたペッパーに向けたやさしいまなざしがとても印象的でした。柴原さんのお話を聞いていると、人とロボットが仲良くくらす未来がすぐ近くまできているんじゃないかと思ってドキドキしてきました。いつか、ペッパー君にインタビューしてみたいです!