今回のおはなし

― 果実の生る木 ―

それに、リンゾーが手を伸ばす。
だが届くようでなかなか届かない。
リンゾー「(木の実を取ろうとしている)」

引いたカメラになると、森の中(小さな沼の畔)のリンゾーが、つま先立ちで果実を取ろうとしている。

リンゾー「(木の実を取ろうとしている)」

大きな枝まで折れてきて、リンゾーの頭に激突!
リンゾー「いだっ!」
時間経過、あってーーー。

それでも果実をむしゃむしゃ頬張っている。
リンゾー、果実を食べ終えると、
リンゾー「(食べている)」
リンゾー「(ゲップ)げぇ~っぷ!」

と、足元の沼の水面に、何か棒のようなものが立ったまま浮かんでいる。
リンゾー「(手繰り寄せている)」
折れた木の枝でその棒状のものを手繰り寄せてみる。
だが泥がついて、はたして何なのかすぐに分からない。
リンゾー「?」

沼の水面の水でそれを洗うと、なんとそれは自分の鼻の中にある楽器と同じクラリネットだった。
リンゾー「(喜ぶ)」
拾ったクラリネットを吹いてみる。

と、泥水がぴゆ~っと出るのと同時にドジョウが飛び出した。
リンゾー「! ドジョウ?」
ドジョウをつまみあげ、拡大鏡でじっと見る。

拡大鏡の中のドジョウ、ほっぺを膨らませて怒っている。
リンゾーの腹が鳴る。
それでつまんだドジョウを開けた口に持っていく。

が、意外やドジョウ、ムーンサルトのように華麗に宙返りすると、パシッ!とリンゾーの頬に尻尾で平手打ち(?)を決め、沼に逃げてしまう。
リンゾー「あ!」
取り残されたリンゾー、別段悔しがるでもなく、今度は水で洗ったクラリネットを吹いてみる。
と、クラリネット本来の音がする!

リンゾー「(嬉しく)ふがぁ~~、クラリネットぉぉぉ~!」
またそれを吹く。
リンゾー「(また嬉しく)ふがぁ~~~、クラリネットぉぉぉ~~~!」
興奮して、何かのメロディを吹いてみる。

とリンゾー、鼻がムズムズしだし、大きくクシャミ。
と同時に、ゾウの鼻がクラリネットになる。
自分のクラリネットからはフガァ~という情けない音が出る。
リンゾー「(がっくりで)ぶぅぅ・・・」
もう一本のクラリネットから良い音が出る。

一方、自分の鼻からは音痴な音が出る。
リンゾー「(がっくりで)ぶぅぅ・・・」
そして拾ったクラリネットをバッグに仕舞う。
だがバッグを開けた途端、数枚のスケッチが零れ出てくる。

それらは皆、キャラを描いた絵だ。

これらは、リンゾーのキャラへの秘密の印象画なのだ。
その絵を見つめるリンゾー、ほっぺが朱に染まる。

そしてズズッと鼻を鳴らすと、
リンゾー「(なぜかキャラを真似て早口で)キャラさまだぞキャラさまだぞ。正義のホントホント剣!」
呪文のように言い終えると、じっと絵を見つめる。
カァ~とカラスが鳴く。

とリンゾー、ゆっくりと遠くに見える岩山のほうを改めて眺めた。
彼なりに、キャラのことが気になっているのだ。
リンゾー「(くしゃみ)」
クラリネットの鼻が元に戻った。
リンゾー「キャラさまだぞ」

― キャラのクローズアップ ―

キャラ「ぜったい・・・・おんかん?」

引いたカメラになると、ドラムスコの岩場。
キャラとドラムスコが話している。
ドラムスコ「(こっくりと頷き、笑んで)・・ある音の高さを、ほかの音と比べることなく・・ああ、これはこの音だ、と分かる、・・そういう音感のことさ・・・」
キャラ「(すぐには理解できず)・・・・・オンカン?」

ドラムスコ「(やさしく微笑んで)ベイベー・・。たとえばピアノのラの音があるじゃろ?」

ドラムスコ「色々な楽器を持ち寄る場合、そのピアノの音の高さに、それぞれの楽器の音を合わせるわけさ」

ドラムスコの声「合奏では、まずそれをやって、音を揃える・・」

ドラムスコ「音叉も・・そういう時のために、あるんだ」

キャラ「・・・・!」

はっと思い当たることがある。

― キャラの回想・インサート ―

音叉の音を聴くヒュン。
そして、
ヒュン「♪ラー・・・」

― もとのところ ―

キャラ「あの時・・・たしかヒュンも音叉の音を聴いて・・・」
ドラムスコ「(頷き)音を正確に言い当てたはずじゃ」

ドラムスコ「ヒュンはなぁ、正確な楽譜を頭の中で描くことができるんだ。ここにピアノが入っているようなもんさベイベー」

キャラ「・・・・!」

ドラムスコ「(ニコリとして、思い出すように)・・・そう。・・ヒュンはな?」

― ドラムスコの過去・イメージ ―

幼少のヒュンが皆と離れ、隅っこでひたすら太鼓を叩いている。

それを、遠くから愛情たっぷりに見つめているドラムスコ。

それらに、
ドラムスコの声「リズムを刻み・・頭の中で湯水のごとく湧いてくる音たちを繋ぎあわせ・・・」
ドラムスコ「あの子にしか聴こえていないメロディを・・・紡いでいたんだ・・・」

― もとのところ ―

キャラ「ヒュンにしか・・・聴こえない?」
ドラムスコ「(大きく頷き)たぶん・・、この島がこんなふうになってしまった今でも・・・あの子は、・・・ヒュンは、そんなふうに音楽を探しているんだよ」
キャラ「たった・・・ひとりで?」
ドラムスコ「・・・ああ」

少し間がある。
―――だがキャラ、思わず、
キャラ「(ぽつり)・・でもなんだか・・・・、・・可愛そう・・・(呟く)」

キャラ「だってそれって・・、自分の中だけで・・対話してるってことじゃない?」
ドラムスコ、意外なことを言われ、大きく目を剥く。
ドラムスコ「!」

キャラ、少し涙がこみ上げてくる。

キャラ「・・・ホントは・・ヒュンだって。自分で一生懸命に作った音楽・・・きっと誰かに聴いてもらいたいはずだもん」

ドラムスコ「(嬉しく)ほう・・(笑む)。ベイベー・・・、たしかにお前さんは、この島が待ち望んでいた戦士、・・・いや天使のようだね?」

キャラ「え? ・・あ、あやぁ?」
その照れたような、困ったような、なんとも言えないキャラの顔・・・。
ドラムスコ「わっはっは」

― 風の谷“ウル” ―

そこは風が吹きすさぶ丘の上。
ヒュンが踊るようにして、全身で感じ取った音楽を中空に描いている。
それは彼なりの至福の時のようにも、また孤独の中、必死にもがいている姿のようにも見える・・・。

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