これは、視線やしぐさを使って次の場面に進めさせる、当時の絵巻によく見られるテクニックです。
右から左へ流れていた場面の中に、とつぜん現れる左から右へのウサギの動き。見る人を楽しませる仕かけです。
現在の鳥獣戯画(甲巻)の前半と後半は、もともと別の巻物でした。同じテーマの絵巻が別々に作られ、のちに、ひとつの絵巻へと合体したことがわかっています。
うしろ足で立ち、手を目の上にかざして見る姿が「イタチの目陰(まかげ)」といわれ、うたがわしげに人を見る様子を表しているとされます。
紙の特性を生かした表現
動物たちの描(えが)き方と、絵巻に使われている紙の意外な関係について、鳥獣戯画(ちょうじゅうぎが)にくわしい井並林太郎さん(京都国立博物館 研究員)にお話を聞きました。
「通常、絵巻物には、良質な紙が選ばれ、絵が描(えが)きやすいように表面をなめらかにする加工がされます。しかし鳥獣戯画(ちょうじゅうぎが)に使われているのは、手紙など日常的に使われる紙のため、本来絵画には望ましくない墨(すみ)の「にじみ」や「かすれ」が生じています。この作者は、むしろ「にじみ」や「かすれ」を生かして、動物の毛皮のやわらかさなど質感を表現しているようです。特に注目は、墨(すみ)がにじんだサルの顔。サルがほおを赤らめて気持ちよさそうにしている様子が、よく伝わってきますね。」
秋の草花に注目!
この場面に描(えが)かれているススキ、オミナエシ、キキョウなどは昔から日本を代表する秋の草花です。ハギ、ナデシコ、クズ、フジバカマを加えて、今も「秋の七草」と呼ばれています。
52個のはんこのなぞ
なぜ絵巻にたくさんはんこがおされているのでしょうか?鳥獣戯画(ちょうじゅうぎが)を研究する土屋貴裕さん(東京国立博物館 絵画・彫刻室長)にお話を聞きました。
「絵巻におされている「高山寺(こうさんじ)」のはんこ。実は5種類のはんこが使われていることがわかっています。さまざまな時代におされてきたようです。こんなにたくさんのはんこがおされた絵巻は、ほかにありません。昔から、鳥獣戯画(ちょうじゅうぎが)が多くの人を魅了(みりょう)し、大切に守られてきた証拠(しょうこ)だと思います。」
賭弓(のりゆみ)
この場面で動物たちが遊んでいるのは、「賭弓(のりゆみ)」と呼ばれる当時のゲームです。平安時代の宮廷(きゅうてい)で行われる年中行事で、当時の貴族の行事を描(えが)いた絵巻にも見られます。
平安時代、カエルは人気者だった!?
2013年、岩手県平泉町の「柳之御所遺跡(やなぎのごしょいせき)」で擬人化(ぎじんか)されたカエルの絵が発見されました。鳥獣戯画(ちょうじゅうぎが)とほぼ同時代に描(えが)かれたとされています。平安時代の「カエル人気」を思わせる、興味深い資料です。
前半と後半で描き手がちがう?
ウサギの描写(びょうしゃ)に注目。絵巻の前半のウサギに比べると、後半のウサギのほうがせん細に描(えが)かれているようです。
線でわかる!描き手の超絶(ちょうぜつ)テクニック
日本画家の武田裕子さんは、カエルのおなかの線から描(か)き手のたくみさがわかるといいます。
田楽(でんがく)
平安時代を表した絵巻には、びんざさらを持っておどる人々が描(えが)かれています。これは田楽(でんがく)と呼ばれ、びんざさらや太鼓(たいこ)などをにぎやかに打ち鳴らしながらおどる芸能です。平安時代に都の人々に大流行しました。
アニメーションのような効果
相撲(すもう)をとる2ひきと、その直後の展開が、並べて描(えが)かれています。時間の経過を表すアニメーションのような効果を生み出しています。
双六(すごろく)
平安時代、貴族たちの間で双六(すごろく)が大ブームになりました。豪華(ごうか)な装飾(そうしょく)をした双六盤(すごろくばん)も作られました。
※当時の双六は「盤双六(ばんすごろく)」というもので、ふたりで対戦するボードゲームです。現代に伝わる絵を用いた双六とは異なります。
鳥獣戯画とは?
鳥獣戯画(ちょうじゅうぎが)は甲巻(こうかん)、乙巻(おつかん)、丙巻(へいかん)、丁巻(ていかん)の四巻が伝わり、すべて国宝に指定されています。思わずクスっと笑ってしまうようなユーモアあふれる表現がいっぱいで、今も子どもから大人まで大人気の絵巻です。今回は、動物が人間のようにさまざまな遊びをくり広げる「甲巻」を鑑賞しましょう。
一番人気の甲巻
甲巻(こうかん)が描(えが)かれたのは、平安時代の終わりごろ(およそ800年前)。平氏や源氏など、武士たちが力を持ち始めた時代です。この頃、絵巻がたくさん作られ、あたらしい表現がつぎつぎと発明されました。
甲巻(こうかん)には人間の姿は一切なく、11種類の動物がいきいきと描(えが)かれています。中でもたくさん登場するのが、ウサギ、カエル、サル。これらの動物は、平安時代のさまざまな物語にも描(えが)かれ、当時の人々にとって身近で親しみやすい存在でした。
登場回数
なぞだらけの絵巻
【だれが なんのために描(えが)いた?】
800年あまり前の平安時代に描(えが)かれたとされる甲巻(こうかん)。しかし、だれが、なんのために描(えが)いたのか。確かなことはなにもわかっておらず、「なぞの絵巻」と言われています。
【失われた本当の姿】
甲巻(こうかん)は23枚の和紙をつなぎ合わせた巻物に描(えが)かれ、その長さはおよそ11メートルもあります。しかし、元はもっと長い絵巻だったと考えられており、ところどころ絵のつながりが不自然なところがあります。絵巻からぬけ落ちた絵(断簡(だんかん))が、今も残っています。
ふるさと高山寺
鳥獣戯画(ちょうじゅうぎが)は京都の高山寺(こうさんじ)という寺に伝わってきました。鳥獣戯画(ちょうじゅうぎが)のふるさとを訪ねてみましょう。
たくみな技に注目
一見、ゆるくてカワイイ鳥獣戯画(ちょうじゅうぎが)。でも、よく見ると描(か)き手の細かいこだわりや、たくみな技があちこちに散りばめられています。それゆえに、「描(か)き手は何を描(えが)こうとしているのか」私たちの興味をますます引き付けます。「ジョジョの奇妙な冒険」でおなじみの漫画家・荒木飛呂彦さんの目にはどう映るのでしょうか。(2019年放送8K『謎の国宝 鳥獣戯画 ~楽しいはどこまで続く?~』インタビューより)
絵巻をより深く楽しむ!ふきだしにせりふを入れてみよう
絵巻には一切言葉が書かれておらず、どういう物語を描(えが)いているのか、よくわかりません。ウサギやカエルはどんな会話をしているのか?見る人が自由に物語を想像できるのも、この絵巻の魅力(みりょく)です。動物たちのせりふを想像しながら、鳥獣戯画(ちょうじゅうぎが)を楽しんでみましょう!
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