第17弾

パラアーチェリー × うしおととら

原作・藤田和日郎さんインタビュー

不安や絶望に立ち向かう強さ ~『うしおとととら』とパラアーチェリーの親和性~

今回、『うしおととら』とパラアーチェリーのコラボというお話を聞いた時はいかがでしたか。

藤田:パラアーチェリーのお話がこちらに来るということ自体がちょっとびっくりしましたね。スポーツじゃないものを描いてましたから、意外でした。でも『うしおととら』とパラアーチェリーというのを組ませてみようと思ったその発想がすごくありがたかったです。

(パラアーチェリーの)弓矢と『うしおととら』の「悪い妖怪をやっつける」という話が、すごく食い合わせがよかったんですよね。だからイマジネーションが湧くというのか、おそらくこういうことを望んでらっしゃるんじゃないかなと思ってすぐ取りかかりました。悩む時間はなかったですね。

もともと(『うしおととら』の)物語の中で「白面の者」は“人の恐怖を食べる”というような、概念的なものを食べて元気になる悪いやつでしたから、こういう話には結びつきやすいんです。今回は人の不安とか絶望を食べて元気になるという設定になっていますけど、「白面の者」はみんなのマイナスな気持ちを食べて大きくなっていくから、マイナスな気持ちよりもどっちかっていうと「いいところ見つけようや。そしたら君たちだって戦えるぜ」みたいな形をやりたくて描きました。

以前からパラスポーツにはなじみがありましたか。

藤田:なじみがないんです。スポーツ全般あんまり詳しくないんですけど、特にパラ競技というのは知らなかった。知らなかったんですけど、企画をいただいて資料を読んで、そして自分でも調べて「知っていった」という喜びがあります。だからその喜びの共有でもありましょうね。自分が原案を描いていた時に「こういうのがあるんだ」というふうに驚いていた気持ちが、おそらく物語の中にも出ていると思いますし、アニメを見てくれた方たちにも「ああ、こういう競技があるんだ」っていうのが分かるみたいな、いいシンクロだったような感じがします。

パラアーチェリーのどんなところをおもしろいと感じましたか。

藤田:『うしおととら』とすり合わせをしている時って、おもしろさはまだ分かってないんですよね。そこにあるのは「おもしろい」以前の岡崎愛子選手の“目”かな。真剣に引いてるときの集中力というか緊張。漫画でいうところの「集中線」が入っているみたいなんですね。空気がすごく固まっている、冷たくシーンとなって。そして、矢ばなれというのでしょうか、あの時の開放感、もしくは、一番集中力の高まっているところを見た時に「わあ、すごいな」と思ったんです。
やっている人たちがありとあらゆるところを使って矢をつがえて引く、もしくは、異様な形の弓で矢を引く空気感が印象的でした。「これはたいそうなスポーツだな」と。

岡崎選手のキャラクターはどういった意識で作っていったのですか。

藤田:写真とか動画で試合中の岡崎選手を見ていたんですけど、意志だったり、的を狙う時の我々には想像もできないような集中力とか、そういうものがきっと目に表れていたんだと思うんですよね。だからキャラクターデザインはちょっと厳しめに作ってあるような気がします。戦うヒロインのイメージで作りましたから。「ぐるぐる目」という言い方してるんですけど、何かに向かって集中してるときの顔が出てるんで、描いた時は「これちょっと、ご本人は嫌かな」とか思ったりしてたんですけど、岡崎選手と会ったら喜んでくださってたのでほっとしました。

アニメの収録の時に初めて会ってお話ししたんですけど、優しくて穏やかな方でしたから、本人に会わないでキャラクターデザインを作れてよかったと思います。いったん会っていたら、その魅力とか穏やかな感じが(キャラクターに)出てきちゃうから。

今回の話は人間の弱さと強さの部分、両方描かれていると思うんですけど、パラの選手って、障害があって一回は絶望のふちに立った経験がある方が多い。だからこそ、うまく『うしおととら』とシンクロできたのかなと思いました。

藤田:岡崎愛子選手の談話や話を見て、全然ファンタジーの必要がないというか、現実のほうがファンタジーを上回っているぐらい強いことだと思いまして、これは一緒にやらせてもらうには最適だなと。岡崎愛子選手の意識とか、「残念な事故からこういうふうになっていったんだよ」っていうことに『うしおととら』が後ろからちょっと寄り添っている感じで十分だと思いましたね。だって、事故で体が不自由になってから短い間に(パラアーチェリーに)出会って訓練していって、こんなに集中力を増して意志を持ってやっていくのかっていうのは本当に驚きですもの。

ただ、岡崎選手の談話に、「“事故のこととかそういうようなことから(立ち)上がってきた自分”という話ばっかりマスコミでは取り上げられるんだけど、選手としての成績をもっと言ってほしい」みたいなことがあったんですよ。(それを聞いて)「ああ、そうか、そうだよね。アスリートとしての岡崎選手もやっぱり重要なんだ。その人は選手で戦っているんだから」と。それであんまり(障害の)原因となるようなことは描かないで、戦う意志というような部分を描くことになりました。

「ワンちゃんがいつも私と遊んでくれたんだ」とかご家族のフォローもあって、「背筋も腹筋もそんなに衰えていなかったから、それを鍛えるところからやっていって、地道に訓練していって…」というような、スーパーヒロインではない、ちゃんと練習があって心の動きもあっての今の岡崎選手だっていうような“変化”を描きたかった。どんなことやるにも不安はありましょうから、それを集中と今までの練習で吹き飛ばすっていうような部分に焦点を当てて描くのが一番いいかなと思ったんですよね。

今回のアニ×パラを通して伝えたいテーマは何ですか。

藤田:「何かが無くなっても何かはある」っていうふうにセリフで言わせていますけど、「ダメだと思ってもダメじゃなかった人たちがいるよ」っていうことを伝えたいんだと思います。「こんなに人ってできるもんなんだな」「すごいな」と純粋に思う心って元気を与えてくれるんです。いろいろ大変なことあるんだけど、やっぱり「これだけのことが人間できるんだったら、なんかちょっと前を見ようか」みたいな。

漫画家は現象を起こせばいいと思って描きますから、俺は最初の起爆剤というか、絵を描いた、物語を作ったというだけで。みんなに見てもらいたい、何回も見てもらいたいな。「ここ、かっこいいね」「ここのところがステキだな」とか、「こういう選手がいるのか」「もう一回見てみたい」、それが起きれば仕事は終わったようなもんだと思います。

ありがとうございました。