第13弾

パラアルペンスキー × 江口寿史

チェアスキー選手・村岡桃佳さんインタビュー

“怖くても滑りきったら気持ちがいい!”

今回の作品に限らず、「アニ×パラ」を見た感想はいかがでしたか。

村岡 他の競技は知らないこともあるので、見ていて勉強になる部分もありましたし、選手それぞれのバックグラウンドや競技のよさが5分という短い中でクローズアップされていてすごいなと思いました。そんな中で冬季のスポーツというのは夏季のスポーツと比べて日本人にはあまりなじみがないものだと思いますし、趣味としてスノーボードやスキーを楽しんでいる人はいても、「競技ってなにするの? どういう種目があるの?」と思われてしまうような、結構マイナーなスポーツだと思います。なので、こういう機会にアルペンスキーという種目をいろんな方々に知ってほしいなと思いますし、チェアスキーはパラスポーツの中でも独特な世界のものだと思うので、そういったところがぜひ伝わったらうれしいなと思います。

チェアスキーを始めたきっかけを教えてください。

村岡 私は4歳で歩けなくなってからずっと車いすで生活をしているんですけど、小学2年生のときに初めてパラスポーツというものを体験して、そのときは、車いす陸上と車いすバスケットボール、車いすテニスをやりました。そのあと陸上競技をメインでやっていたときに友達から「チェアスキーの体験会があるみたいなんだけど、一緒に行かない?」って誘ってもらってやってみたのがきっかけです。

初めて体験した感想はどうでしたか。

村岡 その当時、車いすに乗っている子どもでチェアスキーをやる子なんてほとんどいなくて、大人用の「お風呂につかっているんですか?」ってくらいぶかぶかのシートしかなかったんですよ。今考えたらそれでやっていたのが信じられないんですけど、その状態で平地を移動するとか、後ろを押してもらって傾斜を滑って止まるとか、そういう練習から最初は始まって、翌日くらいには緩やかな斜面なら滑れるようになっていました。
それで楽しくなって調子に乗って滑っていたんですが、体験が終わる1~2時間前くらいに、そのときにしてはちょっと痛い転び方をしてめっちゃ泣いて、怖くなってしまったんです。それまでひょうひょうと滑っていたのがうそのように全然滑れなくなっちゃって。ちょっと苦い思い出の中、初めてのチェアスキー体験は終わりました。

それでもチェアスキーを続けようと思ったのはどうしてですか。

村岡 やっぱり結局は、「楽しい」という思い出の方が強かったからですかね。“非日常感”や、陸上競技で体験したのとはまた違う“スピード感”が楽しかったんだと思います。最初は、「ふだんやっているもののほうが上手になるだろう」と思っていたんですけど、スキーは陸上競技よりもシーズンが限られているスポーツだから、「今しかできない」「もっと滑りたい!」という気持ちが強くなって、年々スキーに行く機会が増えていったという感じですね。

先ほど、「痛い転び方をして怖くなってしまった」というお話がありましたが、そこから元のコンディションにはどうやって戻していくのですか。

村岡 結局、怖いと思いながらも攻め込むしかないんですよね。ものすごいスピードの中でブレーキをかけたりとかすると逆に危なかったりするので、「いける! 絶対にブレーキしない」と自分に暗示をかけながら切り込みます。自分を奮い立てないとやってられないという感じです。「怖い」と思っていても、滑りきったら気持ちがいいですし、アドレナリンもブワーッって出るんです。

今回のテーマは「恐怖と闘う」ですが、やはり選手になった今でも感じることはありますか。

村岡 そうですね。時速100キロとかで滑っているときはやっぱり、「気持ちいい」よりも「怖い」しかないです。私たちの場合、目線が低いので、健常者の方が立って滑っているときよりも地面に近いですし、先が見えにくいんですよね。なのでいつも、「本当にここで合っているのかな? 大丈夫かな…よし!」という気持ちです。転倒したら大きなケガにつながることももちろんありますし、本当に命がけでやっている種目もあったりするので。

アルペンスキーってコースの中には自分ひとりしかいないし、コントロールしているのも自分なんですよ。例えば陸上競技の場合は、横に人が並んでいて同時にスタートして、ゴールに行くまで自分がどのあたりにいるかわかるじゃないですか。でもスキーの場合はずっと自分だけの時間で、ほかの選手のタイムはもちろん、自分のタイムも滑り終わるまでわからないんですよ。そういう状況の中で、「ここで自分が気後れして、減速してしまったら負けるかもしれない」と思ったり、ゴールするときに「自分の納得いく滑りができなかった」と思うのが嫌だから怖い中でも突っ込む。そういう「恐怖に勝ちたい」という気持ちとはずっと闘っているかなと思います。

「恐怖に打ち勝たないと負けるかもしれない」という感覚なんですね。

村岡 そうなんです。また、スキーって旗を目印にその場その場で滑っているように見えるかもしれませんが、実はかなり一発勝負なんです。「インスペクション」という、レース前にコースの下見ができる時間があって、「ここに旗がある」っていうのを確認できるんですが、試しに滑ってみるということはできないんです。なので、下見をしながら頭の中で滑り方を組み立てて、それをレースでドーンと発揮しなきゃいけないということで余計に怖さが増すし、頭の中の組み立てが本当にちゃんとできているのかっていう不安もあったりします。あとは、全体を通して滑るラインを組み立てているので、思っていなかったところで減速してしまったりすると、次につながらなかったりとか、そのあとにも影響がでてしまったりするので、本当に怖い種目だなと私自身思っています。

“怖い種目”と感じても「楽しい」と思える部分はどのようなところにあるのでしょうか。

村岡 私はずっと埼玉県育ちで、あまり身近なところに雪がなかったのですごく新鮮でしたし、その中でスキーは季節が限られているスポーツということで、その“非日常感”みたいな楽しさがすごくあります。また、車いすで雪の上に行くとタイヤが埋まっちゃって全然動けないんですよね。でも、チェアスキーに乗れば雪の上でも自由に動けるし、ふだんあまり感じることのできないようなスピードもチェアスキーに乗れば感じることができるんです。
ただ、競技スキーは旗どおりに滑らなきゃいけないという制限があるので、実は最初はそれが全然楽しくなくて…。「これは私の好きなスキーじゃない」と思ってしまったんですよね。できるようになれば楽しいんですけど、自分の思っているようにできないと楽しくないと思って、最初は嫌々滑っていました。でも少しずつ、「あっ、このターンうまくできた」とか、「タイムちょっと縮まった」とか、そういう自分の成長や上達を感じられるようになってから競技スキーもすごく楽しいなって思えるようにはなってきましたね。

村岡選手にとって、チェアスキーとはどのような存在ですか。

村岡 体の一部です。脚がないと歩けないのと一緒で、私はスキーがないと滑れないんです。なので、チェアスキーは私にとっての脚ですね。膝から下の部分という認識でしょうか。人間にとって、歩くにしても走るにしても、スキーを滑るにしても、膝の動きって重要ですよね。それをチェアスキーというあのメカニックな機械の中で補わないといけないわけです。「難しいな」とも思いますけど、逆にいろんな可能性を秘めているものだとも感じます。私たちは時速100キロとか出るところに自分の命を預けているので、それだけチェアスキーに対する信頼がなければやっていけないし、自信がなければ安心して乗ることもできないものだと思うので、“いろんな可能性を感じるもの”だと思っています。

本日はありがとうございました。