第11弾

車いすバスケットボール × DEAR BOYS

テーマ曲・三浦大知さんインタビュー

“「絶対勝つ」じゃなくて「負けるのは今日じゃない」”

テーマ曲のオファーを受けたときに、どんなことを伝えたいと思われましたか?

三浦 今回のテーマである車いすバスケットボールの試合の中の描写を、歌詞に入れ込めたらおもしろいかなと思いました。アスリートの方たちが持たれている“試合に臨む瞬間”。例えば車いすバスケットボールであればティップオフ、つまり、ボールが上に上がって今まさに試合が始まる瞬間です。そこには、本当に震えるような興奮と、とても静かで穏やかな精神みたいなものが共存しているんじゃないかと僕は思うんですね。“情熱”と“冷静さ”みたいなものが同時にアスリートの中にあるというか、その先に「ゾーン」みたいなものがあるんじゃないかと。それをこの楽曲の中で表現できるといいなと思いました。

車いすバスケットボールという競技はご存じでしたか?

三浦 実際に試合を見に行ったことはなくて、井上雄彦さんの漫画『リアル』で少し知っているくらいです。けれども、健常者のバスケットボールと同様に、車いすバスケットボールも激しいぶつかり合いがある結構ハードな競技なんだというイメージはありました。

パフォーマーとして、アスリートの方たちとご自身で通じるものを感じたりしますか?

三浦 音楽とは違い、車いすバスケットボールであれば得点というものがありますし、スポーツはとてもシビアな世界だと思うんですよね。なので、僕がたやすく語れるものではないと思うんですけれども……。でも、歌って踊って体を動かしてパフォーマンスをする身としては、“ステージに臨むときの心境”と“試合に臨む心境”は、もしかすると少しリンクしたりするのかなと思います。
アスリートになったことがないので僕の勝手な想像ではありますが、すごい歓声に包まれながらも、自分の心臓の鼓動を数えられるくらい冷静なもうひとりの自分がいる感覚というか。興奮すればするほど全神経に意識が行き渡って隅々まで研ぎ澄まされていくようなことは、アスリートの皆さんが感じていることだろうし、そういう感覚をとても大事にされているのではないかと思います。

今はなかなかできませんが、僕はライブのときにダンサーやバンドのみんなと円陣を組んで、「思い切り、丁寧にやろう!」って言うんです。この2つが両立したときが、自分の中でのベストパフォーマンスなんじゃないかなと。ただ熱くやればいいとか、丁寧にやればいいということではなくて、全力できっちり届けることができれば、いいパフォーマンスにつながるんじゃないかと思っています。

車いすバスケットボールのイメージを歌詞に込めたとおっしゃっていましたが、特に注目してほしいキーワードなどはありますか?

三浦 どこの歌詞ももちろん必要なものしか書いてはいないのですが、「アニ×パラ」さんとのコラボレーションじゃないと、きっとサビの最後の部分の歌詞は生まれなかったと思います。ですので、そこはこの曲が持っているスペシャルな部分かなと思います。

タイトルの「Not Today」に込めた思いについて聞かせてください。

三浦 逆説的な、ちょっと回りくどい言い方ではあるんですけれど、「絶対勝つ」じゃなくて「負けるのは今日じゃないよね」という意味の「Not Today」。最初から勝つつもりで臨むと思うんですよね、アスリートの方たちは。それまでのたゆまぬ努力や練習量があって、それに裏付された自信というものがある。でも、それだけ頑張っても、いつかは負けることってあるわけじゃないですか。その努力が必ずしも報われるわけではないシビアでハードな世界だし、未来のことだからわからない。そんな中で、「負けるのは今日じゃない」っていう言葉を自分の中で思いついて、とてもいいなって思ったんです。なので、「Not Today」というタイトルにしました。

完成した「アニ×パラ」の映像をご覧になってどうでしたか?

三浦 車いすバスケットボールが健常者のバスケットボールとどう違うのか、どんなテクニックがあるのかということが短い時間でわかりやすく描かれていますし、とても見やすいと感じました。和やかなムードでありながら、スポーツの奥深さも感じられました。ちょうど物語が加速していく試合のシーンで自分の曲がかかってきて、とてもうれしかったです。

アスリートが「少しでもうまくなりたい」と思う気持ちは、三浦さんがパフォーマンスや歌で、新しいものを生み出そうと努力を重ねていることに通じる部分はありますか?

三浦 そうですね。モノづくりにおいても、自分に足りない部分やまだまだ必要な部分を伸ばしていったり、自分にしかできない表現やプレーがあるんじゃないかと模索していったりと、スキルアップを図ります。それはきっと、どのスポーツでも言えることだと思うんですよ。壁にあたったときにどう乗り越えていくかを考えて自分と向き合うというのは、スポーツもモノづくりも同じなんじゃないかと思います。
僕は6歳のときに歌って踊るというモノに出会って、嫌いになることもなくずっと続けて来られたので、とても恵まれていると思うんですよね。ただそんな中でも、ライブの演出や楽曲などのクリエイティブなことをしていると、うまくいかないこともたくさんあるし、自分のやりたいことをやろうとすると一筋縄ではいかないことも多いです。でも、そうやって壁にぶつかったときに、その状況をいかに楽しむかということがとても重要だと思っています。ほかの職業をやったことがないので一概には言えませんが、うまくいかないときや苦しいときに、「どうすればもっと楽しいだろう」とか「どうすれば自分が楽しめるのか」と常に考えて、全力で楽しむことを忘れずにモノづくりをすることを大切にしています。そして、その楽しい気持ちが受け手側にも伝わっていたらうれしいなと思います。

どんなときでも、楽しいことに気づく力が大切だということですね。

三浦 自分の中で“しんどい”が大きく膨らんでいくと、「あの人、きょうはちょっと優しかったな」「家族とこんな話ができてよかったな」というような小さな“愛”みたいなものに気付きにくいと思うんですよね。でもそんなときに、例えば車いすバスケットボール編のテーマ曲である「Not Today」を聴くことで、「小さな“愛”みたいなものが自分の心の中にもあるんだ」って思ってもらえたならば、それはひとつの“気づき”だと思います。物事を多面的に捉えられるようになると、とても楽になるんじゃないかなと思うんですよね。
自分も音楽を聴いたり、いろんなエンターテインメントを見る中で、自分にない価値観や考え方に出会ったときには、とても世界が広がった感覚になるんですよね。誰かの価値観と共鳴し合って、新しい価値観を共有し合うことができることはとても幸せなことだと思います。誰かの人生と少し関わることが出来る、というか。そういう“気づき”がある音楽を生み出せたらいいなと思っています。

本日は、ありがとうございました。