第8弾

パラバドミントン × 瀬尾公治

原作・瀬尾公治さんインタビュー

“「翼と龍之介」 通じ合う二人の普通の恋を描きたかった”

瀬尾先生は以前からパラスポーツにご関心をお持ちで、「アニ×パラ」も見てくださっていたそうですね。

瀬尾 学生時代に陸上をやっていたので、パラ陸上競技をよく見ています。中西麻耶選手とか、かっこいい選手がいっぱいいるんですよ。パラスポーツは健常者のスポーツよりレベルが低いと思っている方もいますが、実際はとてもレベルが高いです。健常者の使わない筋肉を目いっぱい使ったりしていて、「人間の能力はここまで進化できるんだ」と驚かされます。

「アニ×パラ」に関しては、第2回を担当された窪之内英策(くぼのうち・えいさく)先生と交流があるので、以前から見させてもらっていました。世界に向けて配信するということで、このプロジェクトをきっかけに、パラスポーツに関心を持つ方や、競技人口が増えたらいいなと思っています。日本のアニメの魅力も伝わったらうれしいですね。

今回、「パラバドミントン×瀬尾公治」の制作にあたり、世界選手権シングルス(WH1/車いす)で金メダルを取った里見紗李奈選手のプレーを見に行かれ、取材もされたと聞きました。

瀬尾 車いすバドミントンを生で見るのは初めてで、「こんなにのけぞるのか」「あんなに遠いシャトルにも届いちゃうのか」と、まずは驚きずくめでした。相手がどこに打ってくるのか、予想して動いているんだと思います。僕も車いすに乗って体験してみましたが、全然、思うように動かなかったです。
取材させてもらった里見選手は、すごく明るい方でしたね。普通の女子大生といった感じで、苦労話も明るく話されるんですよ。特に、「なんとなく生きてきたけど障害者になったからこそ夢が持てた」という言葉にはビックリしました。そこは、今作のストーリーにも影響していると思います。

瀬尾先生は今回、キャラクターデザイン、脚本、ネーム*まで、ゼロから担当されました。いちばん最初に考えた部分は、どんなところでしょうか。

瀬尾 僕は恋愛ものが得意で、かつ、いままでの「アニ×パラ」では恋愛メインの作品がなかったということで、障害のある主人公が普通に恋をする話をやりたいと思いました。
以前、パラバドミントンの男子選手にインタビューする番組で、「恋愛とかはされているんですか?」という質問に、「いまは彼女いないです」と答えている姿を見たことも影響していると思います。障害者も普通に恋をするし、普通に生きているんだよ、といったことを表現したいなと思いました。

* 構図やセリフなどをコマ割りの中に描き込んだ、漫画制作の設計図。今作では、絵コンテの前段階として瀬尾先生のネームが用いられた

翼と龍之介は障害のことも自然に言葉にできる、とてもいい関係になっていますね。

瀬尾 仲のいい二人なら、変に気を使わないだろうと思ったんです。「俺は歩けるからよくわかんねえや!」(龍之介)みたいな、周りの人が聞いたらちょっとドキッとすることも当たり前に言える仲ですね。それを聞いて本当に落ち込む子が相手ならダメですけど、翼はそうじゃないぞと思って、組み立てていきました。

試合のシーンでも、「もっと足を使え!」という龍之介のセリフがありました。

瀬尾 翼の足が動いていた当時にも、こういうやりとりがあったんじゃないかな、と思ったんです。二人の関係を端的に表す意味でも、あえてこういうセリフにしました。やっぱり、普通の人が言ったらびっくりされるし怒られるのかもしれませんが、この二人の中では冗談になっている。誰にでも通用するセリフにはしたくなかったというか、その二人ならではのやり取りにしたいと思いました。

そして、龍之介の言葉を受けて翼が放った一打は印象的でした。

瀬尾 障害があろうがなかろうが、心が折れそうなとき、誰かに応援してもらえると頑張れたりする。それが好きな人からの応援なら、なおさらだろうと思いました。物語の流れとしては予想どおりかもしれませんが、やっぱりそうあってほしいんですよね。諦めたら終わる“スポーツ”を描くうえで、そういった気持ちの流れは大事に描きたいと思いました。
翼は試合に敗れましたけど、この経験を経て、ここからものすごく頑張ると思いますよ。

本日は、ありがとうございました。

瀬尾先生から直筆メッセージが届きました!

障害者であれ健常者であれ、生きていれば同じように
誰かを好きになり、うれしいこと、楽しいこと、苦しいことは当然あると思います。
パラバドミントンを始めた翼、それを知った龍之介。
作中での2人の会話を聞いて、障害がある人に対しその言い方はひどいと感じた方もいるかもしれません。
ですが仲のいい幼なじみだからこそ平気でそんな冗談を言えるし気にもしない。
だけど好きだからこそ怖くて相手になかなか自分の本当の気持ちは伝えられない。
僕がこのアニメで描きたかったのは、そんなどこにでもいる高校生の心の機微と一歩前に踏み出す勇気でした。

この2人を通して、今何かに悩んでいる方の背中をほんの少しでも押すことができたなら、それは僕にとって何よりうれしいことです。