2017年01月10日 (火)"原発からの避難"いじめを考える


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 原発事故から避難した中学校1年生の男子生徒が、小学校時代に同級生たちから執ようにいじめを受けていたことを、横浜市の第三者委員会はいじめと認定しました。そのうえで、学校と教育委員会を「教育の放棄に等しい」と厳しく非難し、横浜市はさらに事実の検証をすることになりました。

■ 気づくチャンスは何度も

 この生徒は、2011(平成23)年8月、小学2年生の時に福島県から家族とともに自主避難し、横浜市の小学校に転校しました。その後、いじめにあい不登校を繰り返してきました。第三者委員会は「学校がいじめに気づくチャンスはたびたびあった」と指摘します。
 まず、転校してきた直後です。生徒は同じクラスの2人からしつこく追い回されたり、名前にばい菌の「菌」をつけて呼ばれたりしました。担任は、本人からの訴えで、そのつど注意していました。
 次は、半年近く不登校になった3年生の時です。学校側は不登校を「震災被害の影響」と受け止め、市の専門相談員につないで震災トラウマの治療にあたりました。この時学校がいじめを意識して調べていれば、ほかの対応がとれたかもしれません。
 3度目は、学校に通うようになった3年生の秋から4年生にかけてです。このころ再び、鉛筆を折られたり、ノートをなくされたりするといういじめを受けるようになったということです。第三者委員会は「本人からの訴えがなかったために、学校は適切な指導を怠っていた」と指摘しています。
 4度目は、5年生になってまもないころの金銭トラブルの時期です。生徒は10人くらいの子どもたちとゲームセンターなどで遊び、5万円から10万円の費用を払わされるようになります。それが10回程におよびました。「賠償金をもらっているだろう?」「次の金もよろしくな」と言われ、親の金を持ち出していたということです。「おごる」こと引きかえに、プロレスの技をかけられることはなくなったそうです。
 5度目は、その後、再び不登校になった時期です。両親は加害者の名前をあげて学校に訴えましたが、学校も教育委員会も、加害者側の「おごってもらっただけ」という説明を真に受け、重大な事態ととらえませんでした。

■ 見過ごしたのはなぜ

 その点は調査でも明らかになっていません。しかし最初の不登校の段階で学校が子どもと向き合っていれば、これほど長引くことはなかったと思われます。少なくとも、金銭が絡みだしたころには、積極的な対応に乗り出さなくてはいけないはずでした。というのは、いじめはこうした金銭のやり取りから表面化するケースが、たびたび報告されているからです。

■ 「正常化の偏見」の怖さ

 今回のケースでは、学校側は、事態に気づいていながら何も対応していませんでした。いじめられている子が苦しんでいるのに、そんなにたいしたことではないと思いたい、多額の金銭のやり取りがあるのに、たいした額ではないと思いたい・・・。本当は大変なことなのに、たいしたことではないと目を背けたいという心理は、だれしもあるのかもしれません。学校に限らず、私たちの心の中にもあります。しかし、だからこそ日頃から自分をいましめておかなければなりません。
 実は私も、北海道での駆け出し記者時代に経験したことを、今も自分のいましめとしています。
 出先の先輩記者から、夕張の炭鉱でガス爆発事故が起き、トロッコが倒れていると連絡が入りました。放送局内は、取材の指示や中継車の手配などで、しばらくけん騒が続きました。そんな中、ある記者から「けが人はいるが、死者の報告はない」という連絡が入りました。それを聞いた、中継車と連絡をとっていた職員が「それはよかった。撤収だ」と喜びました。その様子を見たベテラン記者が「そんなわけはないだろう。トロッコの重さを考えてみろ。それが爆風で倒れるほどの事故だ。死者がいないわけはない!」と一喝。みんなで我に返りました。結局、この事故は62人の犠牲者が出る大惨事でした。
 大事故であってほしくないという心理がその職員に「撤収」を叫ばせたのかもしれません。それ以降の記者生活で私は、第一報はほんの小さな情報として入ってくるということを、頭に置いて考えるようになりました。
 今回のことでも、この時のベテラン記者のようにもう一度ちゃんと調べてみようと呼びかける先生がいなかったのか、たとえいたとしても、それが声にならなかったのはなぜなのかと思いをめぐらせました。その点を検証することで、今後こうしたことがないように、警鐘を鳴らすことができるように思います。

■ 原発事故からの避難者への配慮を

 福島県から県外に避難している子どもは9千人を超え(2016年10月1日現在)、その避難先は全国に広がっています。いじめにあう、あわないにかかわらず、避難生活が長期化する中で、どの子どもたちも大きなストレスを感じながら生活しています。今回のケース以降、各地でいじめの報告が相次いでいます。しかしその一方で、周囲のあたたかい配慮の中で無事に卒業できたという話もたくさん聞きます。要は学校の対応しだいです。この子たちがいじめにあいやすい環境にあることを頭に入れながら、最大限の配慮で見守ってほしいと思います。あわせて、原発事故からの避難者への偏見や差別をなくすための努力を怠ってはなりません。
 今回の事態を受けて、横浜市の林市長は「私自身が責任をもって検証し、再発防止策をまとめたい」としています。今後の教訓を導き出すためにも、釈明に終わらせず、さらに徹底した調査を求めたいと思います。

 

hayakawa.jpg 早川信夫(はやかわのぶお) 

1953年福島県生まれ。教育・文化担当の解説委員。

臨時教育審議会以来、20数年にわたり教育一筋に取材を担当。解説番組 時論公論 や おはよう日本「ここに注目!」、「暮らし◇(きらり)解説」などの番組で、教育問題のエキスパートとして活躍中。関西地方向けの番組 学校再発見バラエティーあほやねん すきやねん にも出演、“のぶにぃ”の愛称で若者に人気上昇中。

投稿者:解説委員 | 投稿時間:13:00

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