2015年05月08日 (金)教科書検定はどう変わったのか


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 来年4月から中学校で使われる教科書の検定が終わり、4月6日に開かれた審議会で、検定に申請したすべての教科書の合格が決定されました。

■ 今回の教科書検定は

 おもに来年4月から中学校で使われるすべての教科の教科書など104点が対象になり、いったん、不合格になった「社会」の2点も含めて、最終的にはすべてが合格になりました。検定の結果、どう修正されたかはのちほど述べますが、「社会」のすべての教科書に尖閣諸島や竹島の記述が盛り込まれ、領土に関する記述の量は2倍に増えました。

■ 今回の検定、どう変わった?

 2点の変更がありました。一つは、新しい検定基準が初めて適用されたことです。論議を呼ぶことの多い「社会」で見てみますと、これまでの検定基準に3点加わりました。① 評価の定まっていない歴史的事象について特定の事柄を強調しすぎないこと ② 近現代について通説的な見解がない場合、通説的な見解がないことを明示すること ③ 政府の統一的見解がある場合は、それに基づいた記述をすること、これらの3点です。また、教科書をつくる指針となる「学習指導要領の解説書」が改訂され、それに基づいた記述も求められました。解説書では尖閣諸島と竹島を「我が国固有の領土」と明記することを求めています。このように記述の厳格化が求められたのが特徴です。

■ もう一つの変更点は?

 教育基本法の目標や学校教育の授業内容を規定している「学習指導要領」の目標などに照らして重大な欠陥がある場合は、不合格とすること。どういう意味かわかりにくいと思いますが、教育基本法の目標には、道徳心を培うことや伝統と文化を尊重すること、我が国と郷土を愛することなどが掲げられています。こうした目標に反する場合は不合格にするというものです。教科書作り全体を通してこれらの目標が意識されているかどうかを確認するという意味合いがあります。

■ 変更はどうして求められた?

 戦後レジーム(戦後にできた制度など)からの脱却を掲げる安倍政権の意向を強く反映したものです。教育制度の改革と並んで教育の重要課題と位置づけ、総理の意を受けた下村大臣が改革プランを示し、審議会がそれを追認する形で今回の変更に至りました。下村大臣は「歴史というのはどこの国でも光の部分と影の部分がある。それをバランスよく両方教える」ことを提示したと述べています。一部の保守派の間で長年にわたって戦後の歴史教科書は自虐的に過ぎると批判されてきたことを「バランスよく記述する」とすることで、懸案に決着をつける意味がありました。

■ 実際の検定にどう反映された?

 今回の変更点のうち新たな検定基準のうちの、②の通説的見解と、③の政府の統一的見解の2つを適用して合わせて6件の検定意見がつきました。たとえば、「慰安婦」に関して「生き証人だ」と名乗り出た韓国人女性のことや日本政府の対応などを記した記述に対して「政府の統一的な見解に基づいた記述」を求める意見がついて、「現在、日本政府は『慰安婦』問題について『軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような資料は発見されていない』との見解を表明している」という記述が書き加えられました。また、関東大震災のあとの混乱の中で殺害された朝鮮人の数について「数千人」と記述した教科書2社に対して「通説的な見解が明示されていない」と意見がつき、そのうちの1社は「おびただしい数」とあいまいな表現に変え、もう1社は当時の司法省の発表した人数を上げた上で「数千人になると言われるが、人数については通説がない」と修正しました。

■ 厳格な記述が求められた

 以前から教科書検定に対しては、「書かせる検定」と批判がありましたが、今回さらにその傾向が強まったと言えます。一方で、かねてから虐殺があったかどうかをめぐって議論のあった南京事件について触れない教科書が出てきたように下村大臣の言う歴史の「影の部分」については踏み込んで「書かない」、あるいは数字の根拠を記述せずに「書かせない」傾向も見られました。教科書制作者の間には、「バランス」を強調されるあまり、さまざまな考え方に踏み込こんで記述しないように自主規制せざるを得なくなっているという声も聞かれます。これからの時代を生きるこどもたちには「考える力」が必要だとして、授業の中で議論したりする力を求めていますが、記述の正確性を求めるあまりそうしたさまざまなものの見方に触れる機会を逃すことになりはしないかと気になります。そうならないためにもかっ達な教科書づくりができる環境を整えてほしいと思います。
 新しい教科書は、5月下旬以降、東京など全国7か所で公開され、8月末までに市区町村の教育委員会が、それぞれどの教科書を使うか決めることになっています。また、今回からどんな検定意見がついたのか、不十分ながら 文部科学省のホームページ で公開されていますので、議論の参考にしていただければと思います(NHKのサイトを離れます)。

hayakawa.jpg 早川信夫(はやかわのぶお) 

1953年福島県生まれ。教育・文化担当の解説委員。
臨時教育審議会以来、20数年にわたり教育一筋に取材を担当。解説番組 時論公論 や おはよう日本「ここに注目!」、「暮らし◇(きらり)解説」などの番組で、教育問題のエキスパートとして活躍中。関西地方向けの番組  学校再発見バラエティーあほやねん すきやねん にも出演、“のぶにぃ”の愛称で若者に人気上昇中。

投稿者:解説委員 | 投稿時間:15:40

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