2014年10月31日 (金)いじめは道徳必修化でなくせるか?


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 道徳教育の改善策を議論してきた文部科学省の中央教育審議会(中教審)は、道徳を必修教科にして検定教科書を使って指導するという内容の報告をまとめ、10月21日に下村文部科学大臣に提出しました。

■ そもそもなぜ道徳を必修教科に

 大津市の中学生がいじめを受けていたのを苦に自殺したことから、いじめの未然防止策の一つとして安倍総理直属の教育再生実行会議(実行会議)が提言したものです。これを受けて、文部科学省の専門家会議(道徳教育の充実に関する懇談会)は、去年(2013年)12月に、子どもたちがこれからの時代を生き抜くためには道徳教育の充実が必要だとして、道徳を「特別の教科 道徳」(仮称)に格上げして、検定教科書を使って授業をし、記述式で成績をつけるべきだとする報告をまとめました。

■ 今回の報告は

 専門家会議の議論を引き継いで、中教審が道徳をどのような内容にするのがふさわしいのかまとめたものです。2月21日付けのコラム「特別の教科 道徳」創設の論点」でも取り上げたように、論点の一つは、教科としての道徳を学校教育の中にどう位置づけるのか、もう一つは具体的な授業の中身や指導方法をどうするのかでした。どんな結論を出したのでしょうか?
一口で言うと、実行会議、専門家会議と続いた議論をほんの少し進め、具体策は中教審で近く始まる授業内容の見直し、つまり学習指導要領の改訂の論議に先送りした。教科化の是非は議論されず、既定路線を踏まえた内容にとどまりました。
 

■ 道徳教育の位置づけは

 特別の教科として、国語や算数・数学などほかの教科全体を通じても行う道徳教育の“要”とするとしています。しかし、その性格は、ほかの教科と共通する側面と教科にはない側面をあわせ持つ別の枠組みであると、あいまいさを残しています。名称も「特別の教科 道徳」(仮称)と、(仮称)がとれないままですし、たとえば中学校では「道徳」に代えて「人間科」などの名称を付けるとする意見もあったと述べるにとどまっています。

■ では、具体的な授業の中身は

 座学中心から体験的な活動への転換を求めています。これまでの道徳教育では、読み物の登場人物の心情を理解させたり、子どもたちにわかりきったことを言わせたり書かせたりする傾向にあったと指摘したうえで、子どもたちが実感を持てるように、言語活動や表現活動を通じて考えさせる指導を重視するように求めています。具体的には、「役割演技」。つまり子どもたちに役割を振って行うロールプレイ、それに、動作や所作をどうすればよいのかといった「コミュニケーションに関する学習」などをあげています。また、情報モラルや生命倫理などの課題にも取り組むようにも促しています。このように学び方の工夫や扱う内容の多様化は促していますが、結局のところ最後は先生が「教える」という点は変わっていません。たとえば、小学校低学年では「人としてしてはならないことを具体的に指導し、しっかりと自覚させることに重点」を置くとするなど、道筋は多様にしながらも、たどり着くところは教えて諭すという従来の考え方から変わってはいません。

■ いじめ問題への配慮は

 情報モラルや生命倫理を取り上げるように強調しているのは、そうしたことを意識してのことです。また、いじめ問題への対応として「人間の弱さや愚かさを踏まえて困難に立ち向かう強さや気高さを培うことや、生命を尊重する精神をはぐくむことなどをより重視する」などとしていますが、言及はこの範囲にとどまっています。「強さ」や「気高さ」は持つことができればそれに越したことはありませんが、諭して持てるようになるわけではないだけに、現場の先生方は苦労しているのです。言うは易く、行うとなると難しさを感じます。
 学校では、この4月から文部科学省がつくった「私たちの道徳」が教材として使われていますが、これまで使われてきた「心のノート」に比べ読み物の分量が増えたのが特徴です。 ▽いじめ問題を題材にした読み物 ▽坂本龍馬や野口英世などの偉人伝。それに ▽イチロー選手や高橋尚子さんなどスポーツ選手のエピソード などが盛り込まれています。使いようによっては、今回の報告が指摘した読み物に登場する人物の心情を理解させるといった従来型の使用法にとどまる心配もあります。道徳を必修教科にするからといっていじめはなくなるのかというと、まだ道のりは遠いという感じがします。

■ 今回の報告を受けて

 早ければ4年後の実施をめざして、新しい学習指導要領づくりの議論が中教審で始まります。結論を待って、民間の出版社による教科書づくりが行われますが、中教審の議論には多くの関係者が傍聴に訪れ、内容を先取りして教科書づくりを進めようという動きが活発化しています。一方、教科化に伴い成績のつけ方をどうするのかにも注目が集まっていますが、これも今後の検討課題です。
 教科にすると本当にいじめをなくせるのか。急いで実施して現場に混乱が起きてしまっては、かえっていじめを増幅させかねません。慎重なうえにも慎重な議論を求めたいと思います。

 

hayakawa.jpg 早川信夫(はやかわのぶお) 

1953年福島県生まれ。教育・文化担当の解説委員。
臨時教育審議会以来、20数年にわたり教育一筋に取材を担当。解説番組「時論公論」や おはよう日本「ここに注目!」、「暮らし◇(きらり)解説」などの番組で、教育問題のエキスパートとして活躍中。関西地方向けの番組 週末応援ナビ☆あほやねん!すきやねん! にも出演、“のぶにぃ”の愛称で若者に人気上昇中。

投稿者:解説委員 | 投稿時間:11:29

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