2014年10月17日 (金)"アジア1"になれるか 英語教育


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 英語教育の見直しについて議論してきた文部科学省の専門家会議は、9月26日の会議で、小学校3年生から英語教育を始めるなどしてアジアトップの英語力をめざすとする提言をまとめました。その内容と今後の論点について取り上げます。

■ 提言の特徴は

 英語教育を、発信型に変えようという点にあります。かつて日本の英語教育は「読み、書き」中心で会話力がつかないと批判されてきました。そこで、「聞く」「話す」を加えた会話型の教育へと転換がはかられてきました。今回、それを一歩進め「読む」「書く」「聞く」「話す」の4つの技能をバランスよく学び、仲間内の会話から人に伝える「書く」「話す」に重点を置いた発信型の英語への転換を求めています。そうすることで、国際的な英語力のテストでアジアの最低レベルとされる日本人の平均得点をトップレベルにまで引き上げることをめざすとしています。

■ 具体的な方策は

 1つめは、小学校英語の前倒しです。
 今は5年生から「外国語活動の時間」として週に1時間、英語に慣れ親しむ活動をしていますが、これを3年生からに早める。5年生からは、中学校と同じように教科に格上げして、会話力中心の授業を行います。成績をつけるのがこれまでとの違いです。

 2つめは、中学校の英語の授業は英語で行うこと。
すでに高校は、原則英語で授業を行うことになっていますが、これを中学校に前倒ししようというものです。これまでの訳読中心の授業から、英語のまま言葉の意味や内容を理解し、自分の考えを伝えられるように変えようというのです。

 3つめは、大学入試に外部の資格試験を導入すること。
 英語については、目的に応じて英語力をはかる英検やTOEFL、TOEICなどの資格試験があります。大学入試センターや大学が行う入試では、英訳に偏り、「書く」「話す」技能を測りきれていないとして外部試験の導入を求めました。

■ 今後の日程は

 具体的な中身は、近くスタートする中央教育審議会での授業内容見直し(学習指導要領改訂)の論議に引き継がれます。その議論を経て、小学校の英語は、早ければ2018年には準備が整った学校から先行して実施され、オリンピックイヤーとなる20年に本格実施になります。入試改革もオリンピック前後に向けて準備が進められています。実施まで時間があるようで、意外にありません。

■ 小学校の英語、今後の課題は

 発信型の英語をめざす前に、どうやって授業時間をひねり出すのか。5年生から教科にするとなると、今の週に1時間を3時間程度に増やす必要があると文部科学省は考えています。増える2時間分をほかの教科を削るなりして生み出さなくてはなりません。
 もうひとつは、だれがどう教えるのか。今は、担任が外国人の指導助手や英語に堪能な人の力を借りてしのいでいます。教科となると、担任の英語力を上げるか、専門の先生の配置が必要になります。中学校の英語の先生ですら、高度な英語力の目安とされる英検準1級を持つ割合が30%にも満たない現状を考えると道は遠いようです。

■ 大学入試への外部試験導入の課題は

 英検にしろ、TOEFL、TOEICにしろ、成り立ちも目的も違うテストの得点を同じ基準に置き換えることができるのか。たとえそれが測れたとしても、その扱いを受験生にどう説明して納得してもらうのか、混乱が起きない対応が求められます。
 外部試験を受けるには受験料がかかりますし、会場に足を運ばなくてはなりません。都会と地方とで格差が生まれることが心配されます。それ以前に、よい点数を得るには、学校以外の英会話学校に通ったり、英会話の教材を買って自習したりする、家計の豊さが英語力格差につながりかねません。学校教育を議論するだけでは、「格差社会」の中で格差の拡大に歯止めをかけることはできません。

■ 今後考えるべきは

 なぜ英語を学ぶのか、それをこどもたちにどう伝えるのか。英語を学ぶことは将来のビジネスのためなのでしょうか。国境を越えて人が行き来する時代、それぞれの文化的背景を理解し合いながら交流を進める、今の議論はそんな視点に欠けているように思います。この点をこどもたちにわかるように説明する必要があります。
 もうひとつは、学校は英会話学校なのか。そうではないはずです。言葉を覚えるだけなら、英会話学校に通い、英語がしゃべれるようになればこと足ります。学校で英語を学ぶのは、ほかの教科とのつながりを英語を通じて考えられるようになるという利点があるからです。科学用語やスポーツのルールなど英語を知っていれば理解が進み、より楽しくなるはずです。そうした有機的な学習のあり方を考える必要があります。
 アジアのトップレベルをめざすことは否定しませんが、日本の場合、学校を離れれば日常的に英語を話す環境があるわけではありません。学校に責任を負わせるだけでは、問題の解決にならないことを政府全体として考える必要があります。学校の内外で同じように学べる環境を整えてこそ、その目標に近づけるように思います。

 

hayakawa.jpg 早川信夫(はやかわのぶお) 

1953年福島県生まれ。教育・文化担当の解説委員。
臨時教育審議会以来、20数年にわたり教育一筋に取材を担当。解説番組「時論公論」や おはよう日本「ここに注目!」、「暮らし◇(きらり)解説」などの番組で、教育問題のエキスパートとして活躍中。関西地方向けの番組 週末応援ナビ☆あほやねん!すきやねん! にも出演、“のぶにぃ”の愛称で若者に人気上昇中。

 

投稿者:解説委員 | 投稿時間:10:00

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