2014年05月08日 (木)全国学力テスト 8年目の課題


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 ことしで8年目を迎える全国学力テストが、4月22日に行われました。今回からテストの結果について、学校ごとに公表できることになりました。どう変わるのでしょうか。

■ これまでとどう違う?

 一番の違いは、市町村の教育委員会が学校ごとの結果を公表できるようになったことです。これまで、学校ごとの結果を公表するかどうかは、それぞれの学校の判断に任されていて、都道府県や市町村の教育委員会が公表することは認められていませんでした。それを文部科学省が一定の条件をつけたうえで、市町村教育委員会に限って公表することを認めるとしました。都道府県教育委員会の場合は、市町村教育委員会が同意すれば公表できますが、市町村の同意なしには公表はできません。

■ 公表が認められる条件とは

 ① 学校ごとの平均正答率を一覧にして比較したり順位をつけたりしないこと、 ② 詳しい分析を行って学力向上に向けた対策をあわせて示すこと、 ③ 事前に学校と十分協議すること をあげています。つまり、教育委員会の判断で一方的に公表を決めるのではなく、自らの改善策を示したうえで、学校の同意のもとに公表を認めるという歯止めをかけています。学校に責任を押しつけるのではなく、教育委員会自身も責任を負う覚悟を求めています。このほか、地域によっては、個々の子どもの成績がわかってしまうおそれのある小規模校があったりすることから、そうした場合は、公表しない配慮を求めています。

■ どうして公表を認めることになった?

 それには、学力テストの歴史をひも解く必要があります。学力テストが始まる直接のきっかけは、2004年(平成16年)の暮れに2つの国際学力調査で日本の子どもたちの成績が下がったことでした。その結果に衝撃を受けた当時の中山文部科学大臣が、現場を競い合わせることで学力を向上させることが必要だと、全国学力テストの再開を求めたのです。しかし、競い合いの考え方に強い反発が起きたことから、学校がテストの結果を成果の検証に生かし、指導の改善に役立てるために行うという別の論理を持ち出すことで、競争の色合いを薄め、2007年(平成19年)から実施されました。こうしたいきさつから、結果の公表によって序列化がおきないように、公表は教育委員会ではなく、学校の判断に委ねられることになったのです。

■ いざ実施してみると

 国が都道府県ごとの成績を公表したことから、とりわけ成績のよくない自治体トップの間から、現場を競わせることが必要だとして結果の公表を求める声が上がり始めました。実施の翌年(2008年)には、早くも大阪府や秋田県などが市町村別の平均正答率を公表するといった動きがありました。そして、去年(2013年)、静岡県が、小学校の国語の成績が振るわなかったことから、知事の号令一下、成績が上位だった86校の小学校の校長名をホームページで公表しました。また、大阪市教育委員会は、すべての公立小中学校に結果の公表を義務づけることを決めました。こうした一連の動きの中で、文部科学省の専門家会議で議論した結果、下村文部科学大臣の強い意向もあって、教育委員会による学校ごとの結果の公表を認めることにしたのです。

■ どういう影響が?

 今回の変更については、「教育委員会が保護者や地域に説明責任を果たすことで学力向上に取り組みやすくなる」と期待する声があります。一方で、「過度な競争や序列化を招くおそれがあり、子どもへの影響が心配だ」と心配する声も上がっています。
 テストの結果は、2学期が始まる前の8月下旬ごろにまとまり、文部科学省からそれぞれの現場に送られます。NHKが全国の都道府県や政令指定都市などの121の教育委員会にテストが実施された4月の時点で聞いたところ、半数以上が「序列化や過度な競争につながるおそれがある」として「公表しない」と答え、慎重な姿勢がみられます。

■ 公表、公表というけれど

 結果の公表に焦点が当たっていますが、現実には、すでに都道府県には市町村ごとの結果が、市町村には学校ごとの結果が、そして学校には子どもたちの結果がそれぞれ送られています。都道府県知事や市町村長が学校ごとの結果を知りたいという気持ちはわかりますが、すでに自分の足もとの教育委員会には知りたい情報が届いています。学校が成果の検証に生かし、指導の改善に役立てるというだけなら、すでに十分な情報がそれぞれの現場に伝わっています。情報公開の流れの中で、結果の公表を控える理由にはならないとの判断から、公表が決められました。しかし、現場では、過去に出された問題の繰り返し学習をしたり、事前にテストの練習をしたりと、よい結果を求める対策がとられるようになってきています。このテストは学力を測るものではありますが、それは数値化できる学力であって、学力の一部に過ぎません。今、本当に求められている学力は、ペーパーテストでは簡単に測れない深い思考力や考察力です。それぞれの現場では、そうしたことをきちんと理解したうえで、冷静に対応してほしいものだと思います。

hayakawa.jpg 早川信夫(はやかわのぶお) 

1953年福島県生まれ。教育・文化担当の解説委員。
臨時教育審議会以来、20数年にわたり教育一筋に取材を担当。解説番組「時論公論」や おはよう日本「ここに注目!」、「暮らし◇(きらり)解説」などの番組で、教育問題のエキスパートとして活躍中。関西地方向けの番組 週末応援ナビ☆あほやねん!すきやねん! にも出演、“のぶにぃ”の愛称で若者に人気上昇中。

投稿者:解説委員 | 投稿時間:15:00

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