NHK札幌放送局

ほっと通信(67)【瀬田宙大】

瀬田 宙大

2019年7月12日(金)午後1時08分 更新

平場の月」(光文社)の著者、朝倉かすみさんにお話を伺いました。「動かせない言葉、替えがきかない言葉、洗いにかけた言葉を使いたい」と話す朝倉さん。インタビューは今月16日(火)に放送します。その放送を前に朝倉さんのいまの心境などを先出しでお伝えします。

候補全員が女性作家となり話題を集めた直木賞。選考会、受賞作の発表は今月17日(水)。いよいよですね。

平場の月」の著者の朝倉かすみさんは小樽市出身。札幌市内の書店にはサイン本が並んでいることから、来札したことをご存知の方も多いかもしれません。私も、札幌にお越しになった際にお話を伺いました。

朝倉さんにとって直木賞の候補になるのは今回が初めて。素朴な疑問として、数多ある作品の中から候補6作に選ばれたことについて、まず伺いました。

(以下、せ=瀬田、朝=朝倉さん)

せ)直木賞の候補、おめでとうございます。
朝)ありがとうございます。
せ)候補の知らせを聞いていかがですか?
朝)偶然、新千歳空港でその知らせを受けたんです。凄く嬉しくて、びっくりしました。
せ)まもなく発表ですが、やはり意識するものですか?
朝)正直に言うと、受賞するかしないかはあんまり考えていないです。ただ、ちょっと何か、例えば本など物を置くときに曲がって置いたりしたときに、これをきちんと置きなおさないと、こういうことで逃すかもっていう感じ。小さいことが気になる。外でも、歩いていると割に落ちているごみとかを拾う方なんですけど、いま、ごみがあるのに気が付いているのに拾わなかったらこれが…とか。そのごみを拾うことで、よし回避!みたいな。もともと意識はする方ですけど、それがやっぱり俄然、クローズアップされる感じ。そういう意味での緊張はありますね。納得する行動をしていたいと。なんだろう。多分、大きな意味での願掛けみたいなものなのかもしれないですね。
せ)発表後、例えば受賞したら楽しみにしていることとかあるんですか?
朝)もし受賞したら…いま言っていたことをそんなに強く意識しないで済む、適当に置いても大丈夫っていう風になるのが一番ですね。
せ)緊張が解ける。
朝)そうです。凄い緊張ではないんですけど、解けて脱力できるのが一番。山本周五郎賞の時もそうでした。受賞で脱力して、直木賞でまたガチッと。でも、それ以外はめっちゃ楽しいですね。候補になって凄く面白いし、楽しいと思います。
せ)例えば、どんなところで面白いと感じるんですか?
朝)いつも行く美容室の人とかに急に気が付かれたり。「あぁ、小説書いているんですね。びっくりしました。ニュース見て私も眠れませんでした。知っている人が候補になるのは一生に一度あるかないかだと思うんで」って言われて、それは今回落ちたら私はダメってこと?(笑)って、軽くディスっていることも気が付かないくらいに周りが喜んでくれて。文学賞っていうのは、私の感覚的には仕事でいただくご褒美なのに、他の人が知っているというか、喜んでくれるというのもちょっと不思議な感じで面白いなって。
せ)8万部を超えるなど多くの人が手に取っていますが、その理由はご自身で分析はしているんですか?
朝)していないです。わからないです。どうなんだろう。何か、モテる人っているじゃないですか。モテるモテないって凄く雑な言い方で。で、モテる人って、どうしてモテるんだと言ったら、例えば何か顔がよくて、スタイルがよくて、頭がよくて、お金があって、優しいとか性格がいいとか、そういう箇条書きにできるところがあって。でも、その抜き出せるものをだけを見て、だからモテるんだというのとは違うんだと思うんですよね。箇条書きにしたものを抜き出したとしても、その人にはモテる何かがあるんだと思うんです。私が今回、設定で多くの人に当てはまることを入れたとか、読んでもらえるように読みやすさを追求したとか、それは箇条書きなことであって、たぶんあの小説には何かが、もしかしたらあったのかもしれない。モテる何かが。それは私にはわからないけど、あったのかなって思っています。

平場の月」は50代の恋愛が描かれています。
青砥健将と須藤葉子。中学時代の同級生が病院の売店で再会し、互いに心を寄せ合います。しかし、須藤ががんで亡くなります。物語は再会から須藤が亡くなるまでのふたりの日常が描かれています。

この作品を読んだ素朴な感想も朝倉さんにぶつけてみました。
(以下、本の内容に少し踏み込みます)

せ)50代の恋愛。それも悲恋。30代の私には大人の世界を覗くことになるので、どう感じられるのか実は不安もありました。でも実際読んでいくと、もちろん周辺の環境はその世代らしく私には十分に実感を持てない部分こそあるものの、心の奥、根本にある感覚は同じなんだなって。共感の方が多かったんです。
朝)あぁ、それはいい読者にあたった。幸せですね。
せ)朝倉さん自身は、50代の恋愛ってもともとはどんなイメージだったんですか?
朝)そうですね。まず純愛はありえないと思っていましたね。何かドロッとした、生きるとか死ぬとか、言葉を選ばずにいうとただれたというような感じとか。ちょっとイメージできなかったんですよね。ただ字面でね50歳とか書くと実際の50歳よりもうんと老けた、幻想の50歳になるんですね。それは20歳でも70歳でもきっとそう。でもいざ自分がその世代になって思うのは、感覚的にはやっぱり30とかの時と同じで、いつ大人になるのかなっていう部分もあわせもっているものなので、そう読んでもらえたなら嬉しいですね。
せ)朝倉さんも50代を過ごしてきて、以前のイメージとやっぱり違ったんですか?
朝)イメージ違いますよ。こんな感じじゃ全然なかった。何にもしていないくても凄くうまく、凄く書けるようになると思っていましたもん。こう、流れるように書くんだろうなと。いやぁ~全然違いましたね。
せ)もうひとつ。作品の中でどのセリフも心に深く刺さったんですが、「胸を張れよ、青砥」は特別で、響きました。没頭していた自分も励まされたというか。特に最後まで読んで、もう一度二人に会いたくなって二回目に突入して出合った時に、特に。特別な言葉でした。
朝)それはそう、特別な言葉です。そうです。そういう言葉です。あれは青砥が須藤の遺言のように受け止めた言葉なんです。実はどこかにも書いたんだけど、クサいと思って消したんだけど、そう。あれは大切な言葉です。思い出しました。
せ)でも章のタイトルにはならなかった。
朝)それはたぶん、「ちょうどよくしあわせなんだ」の方が強かったっていう。トーナメントのどこかで敗れたんです。「胸を張れよ、青砥」が来るんだとしたら最終章になるんだと思うんですけど…、やっぱり最終章は「合わせる顔がないんだよ」。…うん、やっぱりどこにも入らなかったんだよね。でも特別な言葉です。
せ)そういうセリフはどうやって生み出しているんですか?
朝)自然と出てくるんです。自然と。書いているときとか、休憩中もそうですけど、ずっと一人で左右に顔を向けながら一人二役でしゃべっています。声に出して。青砥と須藤って。だから見たらびっくりするかも。
せ)青砥と須藤の物語。「平場の月」を書く上で一番大切にしたのはどんなことですか?
朝)人が死ぬ話なので、この人が生きていたっていうことをちゃんと書くっていうこと。そして、できれば読んだ後もずっと読者の中で生き続けてほしいと思いました。そこが一番大事にしたところです。

と、今回はここまで。
この先は今月16日(火)ほっとニュース北海道で。放送後、ブログでも内容をご紹介しますね。

朝倉さんは、インタビューであっても的確に相手に伝わるように言葉を選び、表現も豊か。レベルは違えど、言葉を扱う仕事をしているひとりとして、私にとってものすごく刺激的な時間でした。

16日の放送では朝倉さんにとって思い出の場所という札幌市中心部のバスターミナルでのインタビューや、章のタイトルになっている9つの言葉への思い、そして作家として今後大切にしたいことなどについてお伝えします。ひとりでも多くの人に小説を手に取ってもらい、ふたりの日常に触れてほしい。インタビュアー、そしていち読者としてのいまの思いです。

それでは、また(^^)/


(2019年7月12日)


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