NHK札幌放送局

地域と生活を破壊する液状化 対策の課題とは

北海道クローズアップ

2018年12月19日(水)午後7時05分 更新

胆振東部地震から2か月あまり。深刻な液状化に見舞われた札幌市清田区の里塚地区では、多くの住宅が今も傾いたままです。進まない復旧、そして新たな被害も明らかになっています。地域も生活も破壊する液状化にどう向き合えば良いのか。復興を目指す最前線の現場から考えます。

進まない住宅の復旧 陥没や空洞も

里塚地区では、今回の地震で500棟以上が被害を受け、そのうち60棟あまりが“全壊”とされました。

この地区はおよそ40年前まで田んぼや畑で、川や水路が流れていた土地を、昭和50年代から、山を切り崩して谷を埋める “盛土” という工法で造成された住宅地です。

しかし、もともと谷間だったこの地区は水が集まりやすく、地下水の水位が高くなりやすい場所だったことから、地震の強い揺れにより土壌が液状化しました。

しかも土が緩んだだけでなく流れ出してしまったために、一部が道路を突き破ったり、陥没したりして、住宅などに大きな被害が出たとされています。

冬を前に急ピッチで修復工事が進められている道路とは対照的に、ほとんどの住宅はいまだに傾いたまま、修理が進みません。費用が自己負担になるため、多くの家は、雨や雪が染みこまないよう応急処置をするにとどまっています。

里塚中央町内会 会長の盛田久夫さんによると、地区全体の復旧プランがはっきりしていないことも原因の一つだと言います。

「とりあえず道路が最優先で、きれいな状況ができつつあるけど、だから復興したのかと言われたら、まだそこまで行ってないような感じはする」(盛田さん)

こうした中、地震直後には分からなかった被害も明らかになっています。ある住宅では、傾いた家の被害を確認していたところ、新たに大きな空洞を見つけました。

「この間ここを歩いていたら男の人が腰まで埋まっちゃって。軽く1メートルは、ぽーんと落ちちゃうんだなと思って」(住民の方)

今できることは、砂利を入れて穴を塞ぐことだけ。放っておくと、家がさらに傾いてしまうのではと、不安が募ります。

この地域での生活を諦め、引っ越す決断をする家族も出てきました。自宅を “大規模半壊” と判定された堤浩章さんと母親の益三さんは、地震から2か月のあいだ傾いた家で暮らしてきました。

家の傾きは日に日に悪化しています。シャワーの水も排水溝に流れていかず、入浴するのも一苦労です。

「ここにたまっていってますね。かき出さないとカビる」(浩章さん)

日々、溜まっていく疲労とストレス。近所の人たちは、次々と引っ越していきました。これまでお金を出し合って依頼してきた除雪作業も成り立ちません。ついに、堤さんたちも年明けには町を離れることを決めました。

「寂しいですよね。残りたいなこの場所に、と最初思ったんですけど。だいぶ考えて、諦めたほうがいいな、もうここには二度と戻ってこないと思えばもうほかのことは。今までいい思いしたからそれでいいやと思えばいいなと思って。諦めました」(益三さん)

この土地に残りたい 復興委員会の活動

一方で、この地域にとどまろうとしている人もいます。

10月に住民の有志が立ち上げた復興委員会で事務局長を務める、板倉隆さんです。板倉さんの自宅も “大規模半壊” と判定されました。
今は4キロ離れた避難先で生活をし、ほぼ毎日自宅に通い、片付けや応急処置を続けています。

板倉さんの家は、2か月前までは、いつも親戚や近所の知り合いが集まり、話に花を咲かせる場所でした。

「これからジャッキアップを(業者に依頼)して、傾きを直して住む方向で、自分としてはそれをしようと思っています。周りに孫たちもいて、ここが一つの広場的な場所でもあったので。やっぱりここに戻ってきたいなとは思ってるんです」(板倉さん)

住民の暮らしをどう再建していくのか。

復興委員会に、家が全壊した住民から「市に土地を買い取ってもらえないか」という要望が寄せられ、町の将来を巡って意見が分かれました。

「札幌市は自分の土地でさえ直せというぐらいだから、個人の家の処分に対して動いてくれないと思う」
「言ってる意味はわかる。何か買って欲しいっていう意味も、わからないではない」
「個人の意見としてはあるけれども、委員会から提案という形はできないのではないのかな」

土地の買い上げについては以前から一部で声が上がっていましたが、地域の空洞化など将来を大きく左右する問題です。

「少しでも買っていただきたいっていう人と、そうでない人がいる。戻りたい人もいるわけだし、住民全体の理解がない限り、委員会としてまとまって要望する話ではないと思う」(板倉さん)

事務局長の板倉さんは慎重に結論を出すべきだと述べ、今回委員会としては、土地の買い上げの要望は見送ることになりました。

「個人の考え方や被災状況の違いによって、いろんな意見が出てくるとは思うんだけれども、里塚中央というこの地域が、また元気に暮らせる地域になるということのために何ができるのかっていう、そういうことだと思います」(板倉さん)

液状化現象や対策に詳しい関東学院大学理工学部の規矩大義(きくひろよし)教授は、今回の里塚地区の対応について次のように話します。

「早い時期にこうした委員会が立ち上がったことはすごく重要です。液状化の被害で難しいのは、一軒一軒の被害の状況や各家庭が抱える社会的・経済的背景、地域に対する思い入れも違うことです。そういった中で、時間が経てば経つほど住民同士の繋がりが希薄になってしまう。今回は行政も迅速に、真摯に受け止めているのではないかという印象です」(規矩教授)

再発防止対策を実現 千葉市美浜区

すでに全国各地では液状化対策への取り組みが進んでおり、地下水を下げる方法や、土中にブロックの杭をたくさん打ち込んで揺れを抑える方法など、その土地に合った対策方法が行われてきています。

しかし対策を検討している全国70地区の被災地のうち、実際に工事までこぎ着けたのは、わずか11地区。住民への自己負担が求められるなど、実現までにさまざま壁があるためです。

そんな壁を乗り越え、全国でも珍しい液状化の再発防止対策を行った千葉市美浜区の磯辺4丁目では、2018年5月に対策工事が完了し、地下の水位を下げる排水が始まりました。

7年前の東日本大震災で液状化に見舞われたこの地域は、もともと埋め立て地だったこともあり、至るところで土砂が噴出、住宅の3分の1が深刻な被害に遭いました。

対策工事を実現させたのは「防災会」と呼ばれる住民組織です。震災以降、有志が毎月集まり話し合いを重ねてきました。実現に向けた最大の課題は、住民たちの “合意形成” 。工事を始める条件として「住民の3分の2以上の同意」を市から求められたのです。

「結構(工事の説明が)専門的だったりするので、そこは理解が難しい方もいらっしゃるかと思うので、みなさんに話をしてでも理解していただいて、ぜひ達成したいと、強烈な思いでした」(防災会 吉沢さん)

いち早く対策を進めたい。吉沢さんたち防災会が工事に対する意見を住民から集めたところ、それぞれの被害の状況や経済力の違いなどで意見がさまざまに分かれました。

合意を形成するにあたり最も力を入れたのは、正確な情報を共有することです。吉沢さんたちは、行政に要望して住民説明会を20回にわたり実施。工事のメリット・デメリット、住民の負担などを細かく学びました。さらに工事に伴うリスクを調べるため、実証実験を始めてもらうよう行政に働きかけました。

さらにもう一つ力を注いだのが、住民同士の「対話」です。工事に対する不安や疑問をまだ抱えている人はいないか。直接家を訪問したり、街角で声をかけたりし続けることで工事への理解が進み、8割を超える同意が得られました。

そして液状化からおよそ5年、ついに対策工事が始まります。細かく正確な情報共有と対話が、液状化への不安がない暮らしを実現させたのです。

「災害に対しても立ち向かって、ちゃんと克服した町、手を打った町にしたかったんですね。大きなハードルをようやっと乗り越えたな、という思いでしたね」(吉沢さん)

この磯部4丁目の工事では、自己負担額は一世帯あたり10万円程度。費用面がネックになり住民の合意が得られないケースも多いため、現在は熊本市をはじめ自己負担をゼロにする地域が増えてきています。
札幌市でも今回、対策工事の自己負担を無くす方針であることが明らかにされました。

全道各地に潜む、液状化のリスク

里塚地区のような盛土された場所だけではなく、河川の流域など地形・地質により液状化のリスクが高い地域が各地に存在します。

ところが危険性が判明しても、まだ実際に起こっていない災害に対しては切迫感がなく、強化対策へのハードルが高いのが実状です。
規矩教授は、今回の里塚地区の経験を糧にして、次にまた同じような被害が繰り返し起こらないよう、被害の危険性があるところを細かく調べることが必要だと指摘します。

「我が家、我が町に住みたい」という地域の人たちの思いに寄り添った対策が求められると同時に、他の災害と同様、一人一人がまず一度 “我がこと” として考えてみることが重要かもしれません。

2018年11月16日放送
北海道クローズアップ
「液状化から地域を守れ~札幌 里塚地区からの報告~」より

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