NHK札幌放送局

地震半年 行政による災害復旧の限界

北海道WEBニュース特集

2019年3月15日(金)午後0時00分 更新

去年9月の胆振東部地震では、札幌市清田区や北広島市でも大きな被害が出ました。住宅被害は清田区でおよそ2100棟、北広島市ではおよそ300棟に上ります。被害を受けた住宅をどう復旧させるのか。地震から半年が経過した今、共通して見えてきたのは、「行政による復旧の限界」です。

【札幌市清田区里塚地区では】

去年9月6日の地震で液状化の被害が起きた札幌市清田区里塚地区。半年がたった今も傾いた住宅が多く残っています。札幌市はまもなく50億円かけて復旧を本格化させます。

【土地は元に戻るけど・・・】

40年近く暮らした自宅が全壊した石田厚志さん(65)は里塚地区から離れることを決めています。自宅を撤去した上で、早ければ5月から、土地を元どおりの高さまでかさ上げする工事が始まる予定です。費用はすべて市が負担。それなのに石田さんが離れることを決めたのは、「個人の住宅は個人で直す」という原則が立ちはだかったからです。
実は、札幌市の復旧工事は被災者の支援が目的ではありません。道路の復旧に付随して宅地も直す“特殊なケース”と位置づけているのです。

実際、札幌市の秋元克広市長は、「公共工事をする際に民地と一緒にしないとできない。支援するというよりは、公共事業をするにあたって、民地に入らせていただいて同時に進めないといけないという特殊なエリアだ」と話しています。
定年をすでに迎えている石田さんにとって新たにローンを組んで家を建てることは現実的ではありません。
仮に宅地が元の高さに戻ったとしても、住宅の再建は諦めざるをえません。石田さんは、「これからまた借金して家をたてるということにはならない。さびしいが、しかたないと思っている」と話しています。

【住み続けたいけど土地が・・・】

石田さんと同じ里塚地区の堤さん一家は、いまも大規模半壊した自宅で暮らしています。堤さんは傾いた土地を元に直して住み続けたいと考えてきました。

この日、堤さんは支援の相談をしようと市の職員に来てもらいました。堤さんは道路とともに傾いた自宅の土地をほかの住宅と同じように市が直してくれないか、たずねました。市の職員は「堤さんの家の前の道路は沈下が小さいため、土地の傾きを直すことはしない。被災者の求めに応じて工事を行っていない」と応えました。支援が目的ではない復旧工事だからこそ、同じ里塚地区であっても対象にはならないのです。
再建の費用負担は重く、自宅の傾きを可能な範囲で直すのが限界です。再び液状化を起こさないための根本的な解決に見通しが立たない現状。不安の日々が続いています。
堤浩章さんは、「また同じ地震が起きた時にり災証明を出すのを繰り返すのか。地震で家が斜めに傾いてしまったことに対して、市は“直そうよ”と歩み寄ってはほしかった」と話しています。

【北広島市大曲並木地区では】

一方、北広島市大曲並木地区では、地震で地盤が崩れて住宅17棟が全壊。300棟あまりに被害が出ました。市は地区を被害の程度に応じて3つのエリアに分けて復旧工事を進めています。

特に地盤の崩壊が激しかった11棟の住宅が集中するエリア(赤色で囲んだ地域)について、市は宅地として復旧させるのをあきらめる方針を示しました。最大の壁となったのが高額な費用。地盤を改良して土地を強化するには8億円かかると試算されたのです。このため市は、土地を買い取ったうえで緑地にする方針を示したのです。

地震で自宅が全壊した秋元健吾さん(81)

緑地化される方針のエリアに住む81歳の秋元健吾さんの自宅では、3月7日に住宅の解体工事が始まりました。秋元さんは35年住んだ土地を離れる選択を迫られました。今は、みなし仮設住宅で暮らしていますが、その先住む場所をどうするのかまだ何も決まっていません。
秋元さんは、「長年住んだ土地に2度ともう戻って来れないというのはさみしいです。この先永住する家がまだ決まっておらず、これから将来どうなるのかという不安は尽きません」と話していました。

【なぜ宅地復旧は難しいのか】

なぜ宅地として復旧させることが難しいのか。被災者の住宅再建については、北広島市も札幌市と同様、個人の住宅は自ら復旧させるのが原則だといいます。
一方で、現実には個人の力には限界があるとして、多額の負担を避ける方法を検討しました。
例えば東日本大震災でも行われた集団移転です。住めなくなった地域ごとに安全なところに移住する方法ですが、市は移転戸数などの採択用件に満たないと判断し、実現できませんでした。
地盤改良にかかる費用は8億円。この負担に踏み切れなかった理由について、北広島市災害復興市民参加室の米川鉄也室長は、「市としては、市税を投入するには、被災者とほかの人たちとの不公平感を生じさせないということを配慮していかなければならない」と話していました。

【“ここで仕事を再開したい”】

多くの住民が慣れ親しんだ土地を離れる決断を迫られるなか、北広島市内に残り続ける選択をした人もいます。緑地化される方針のエリアに住む理容師の竹内明広さんです。竹内さんは、これまで3度開かれた住民説明会で、市に対し宅地としての復旧や集団移転を望むことを伝えてきました。
しかし、市として緑地化を進めるとの方針は変わらず、悩み抜いたすえ、その方針を受け入れる考えです。

市が土地をいくらで買い取るのかは、地震から半年経っても示されていません。竹内さんは一刻も早く仕事を再開したいと、被害が軽く、緑地にはならない近くの実家を理容店に改装しました。
竹内さんは、「この場所で理容店を出してから25年間やってきたので、どうしてもこの土地で仕事を続けたいと考えていました。なじみの客からかけられた声援が後押ししてくれました」と話していました。竹内さんの店舗は3月10日に、およそ半年ぶりにオープンしました。

【制度の見直しを指摘する専門家も】

札幌市清田区と北広島市で住宅地の復旧方針は違いますが、いずれのケースでも共通しているのは、「住宅は個人の財産であって災害の復旧は自己の責任」という行政の原則です。
災害復興の住宅政策に詳しい神戸大学の塩崎賢明名誉教授は、「自然災害による住宅など私有財産の再建は明らかに個人でまかないきれるものではない。それにもかかわらず、いまの法制度では被災者への金銭的な支援は乏しい。今後は国を中心に支援の拡充に向けて議論するべき」と話していて、より行政が踏み込んだ支援ができるよう制度の見直しを指摘しています。
地震から半年、住民の生活の基盤となる住宅をどう再建していくのか。被災地の大きな課題です。

(2019年3月8日 放送)

札幌局 福田陽平記者  札幌局 米澤直樹記者


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