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WEBニュース特集 おいしくないとは言わせない 北海道発ジビエのいま

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2018年12月20日(木)午後2時30分 更新

「臭い」「固い」「まずい」。野生動物の肉を食べるジビエ料理といえばこんなイメージを持つ人が多いのではないでしょうか。実は人気の高まりとともに、どんどん質が高まってきているんです。舞台は全国一のジビエ産地北海道。新たな「食」への挑戦です。

【まるごといただきます】

東京・渋谷の閑静な高級住宅街にたたずむ一軒家。十勝の豊頃町にある会社がおととしオープンしたジビエ専門のフランス料理店です。人気を集めているのが、2万円以上する十勝産エゾシカのフルコース。すね肉などを9時間煮込んだ黄金色のコンソメスープに、地元の山菜を添えたソーセージやサラミ。そしてメインは、味の違いが楽しめるオス・メス2種類のエゾシカのロースト。さらに、フランスでは一般的な“エゾシカの血液”を使ったブーダンノワールと呼ばれる料理。エゾシカを一頭丸ごと楽しめる料理の数々です。

このレストランを経営するのが、社長でシェフの佐々木章太さん。「1頭の命からとれる全ての部位を、肉の一片血液の一滴まで無駄にしないで付加価値を高め、お客さんに召し上がってほしい」と話します。

【徹底したルールづくり】

この会社が取り組んでいるのが、エゾシカの捕獲から料理までを一貫して自社でまかなう、いわゆるAtoZの生産体制です。特に、エゾシカの仕入れには独自の厳しいルールを設けました。①4歳以下の若いシカを捕獲すること。そして、②捕獲の際には内臓を傷つけないようにすること。エゾシカをおいしく最大限活用するための方法ですが、一方で高い技術が求められます。

そこで行ったのが、業界では例がないハンターのヘッドハンティングです。引き抜いたのはこの道40年、十勝有数の腕利きハンターの1人。この日行われたのは、特別に許可を得た牧草地での猟です。さっそく、およそ80メートル先にメスのエゾシカの群れが現れました。猟開始からわずか10分。しとめたのは2歳のメスです。佐々木さんの会社ではこうした技術力のあるハンターと契約し、質の高いエゾシカが常に供給される体制を生み出しています。

食肉としておいしく活用するには、素早い処理と加工もカギを握ります。捕獲されたエゾシカはすぐに回収され2時間以内に施設に持ち帰ります。専用の冷蔵庫で保管され、熟成の期間も部位などによって細かく管理。品質の高さが評価され、東京の有名レストランなど全国400の店舗にも食肉を販売しています。

社長でシェフの佐々木章太さん

佐々木さんは「血抜きだけよければいいとか、月齢性別だけ判断できればいい、撃つ場所だけ良ければいいという話では全くない。すべての工程のなかで、人の口に入る食材としていかに100点満点を積み重ねられるか。自分たちは目の前にあることひとつひとつの課題をクリアして、よりよいものを作っていくだけです」と話します。

【高まるジビエ人気】

ジビエを扱う店はいま各地で増えていて、空前のブームに湧いています。農林水産省の調査では、昨年度、全国で捕獲された野生動物のうちジビエとして食肉などに活用された量はあわせて1629トン。前の年度より346トン、およそ3割増えました。都道府県別では、最も多いのが前回に続いて北海道。全体のおよそ半分を占める769トンで、前の年度のおよそ1.5倍です。道によりますと、取り扱う飲食店の数も急増していて、調査をはじめた平成23年と比べて、ことし3月の時点でおよそ6倍に増加しています。

【有効活用が課題に】

北海道ではジビエとして活用される野生動物のほとんどがエゾシカです。昨年度捕獲されたエゾシカの数はおよそ12万頭。しかし、すべてがジビエになっているわけではなく、食用として流通するのは一部です。エゾシカは管理されている家畜と違って野外で捕獲されるため、食肉処理施設に持ち込むためには高い衛生基準が求められ、ハンターにとっては手間もコストもかかります。

道の調査では、昨年度捕獲されたおよそ12万頭のエゾシカのうち、食肉用として処理施設に運ばれたのはたったの2割。それ以外は、ハンターが自分たちで消費する「自家消費」(4割)や、「ペットフードとしての活用」(1割弱)、そして実に3割近くが「廃棄」されています。

【自治体がジビエを推進】

そこで、道はエゾシカの猟期が始まることし10月から新たな制度をはじめました。道内に34か所ある指定施設にエゾシカを持ち込むと、1頭当たり8000円が手数料と支払われます(※2頭目以降が対象)。事業は開始から1か月で2000頭を超える申請がありました。道は、来年1月末までに8000頭以上の活用を目標として掲げていて、事業が軌道に乗れば新たな「食文化」として定着することにも期待しています。道環境生活部エゾシカ対策グループの黒田尚子主幹は、「北海道では古くからエゾシカが栄養価の高い食料として親しまれてきた。全国一のジビエ産地として、量はもちろん、衛生面での安全安心も高めて、おいしいエゾシカを全国の皆様に楽しんでほしい」と話しています。

【安全対策も進めながら】

誤射事故が起きた恵庭市の国有林

一方、道内ではことし11月、恵庭市でハンターの誤射による死亡事故が起きました。獲物を確認しないなど基本的な狩猟のルールが守られていないケースで、こうしたハンターの育成も課題です。安全対策の徹底を大前提に、これまでの「駆除する」という考え方から、「命をおいしくいただく」という考え方にシフトしていけるのか。もう「おいしくないとは言わせない」、その挑戦が続きます。

(2018年12月11日 放送)

札幌放送局 北井元気記者

#北海道の食

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