NHK札幌放送局

親から子、子から孫へ 受け継がれるアイヌの文化~シリーズ北海道150年 第2集「アイヌモシㇼに生きる」 #アイヌ

北海道スペシャル

2018年10月15日(月)午後4時29分 更新

北の土地で、独自の文化を守り、生きてきたアイヌ民族。しかし、明治2年にこの大地が「北海道」と名付けられ開拓が始まると、大勢の入植者がやってきました。それから150年。失われ続けてきたアイヌの人々の文化を守る家族がいます。

宝物は100冊のノート アイヌ文化を記し残してきたエカシ

この150年で失われ続けたアイヌの人々の暮らしを必死で守ってきた家族がいます。
新ひだか町静内の牧場に勤めている葛野次雄さん(64)です。

自宅の裏に次雄さんこだわりの特別な場所があります。伝統的な囲炉裏等、アイヌ風にしつらえられた室内には、今も儀式で使っているという200年以上前から伝わる祈りの道具もありました。

アイヌ文化の危機の発端は明治政府が敷いた同化政策でした。アイヌを劣った民族と見なした政府は独自の生活習慣を徹底的に禁じ、学校では日本語教育を徹底するなど、和人と同じように暮らすことを強く求めたのです。

昭和29年生まれの次雄さんも、そんな中で育ちました。若い頃はアイヌ文化にあまり興味はなかったという次雄さんの生き方を大きく変えたのは父・辰次郎さんの存在でした。

アイヌの伝統文化に精通し、全道の仲間から尊敬を込めて「エカシ(長老)」と慕われる存在だった辰次郎さんは、生涯をかけ、失われかけていた大切な祈り言葉や大切な言い伝えなどをノートに書き記してきました。

その数、およそ100冊。3000語を超える日本語訳をつけたアイヌ語の辞書や、儀式の仕方を子どもたちに伝えようと葛野家に伝わる神々の祭壇を描き残したものもあります。葛野家にとって何ものにも代えがたい宝物です。

16年前、91歳で亡くなった父の願いを受け、次雄さんは伝統的な葬儀で弔うことを決断しました。アイヌにとっては亡骸も墓標も土に還るべきもの。土葬で埋葬し、木の墓標を立てました。しかし、生前辰次郎さん自身が家族の墓を建てた昭和48年6月当時は、アイヌ伝統の墓は許されていませんでした。

常々、石に向かって手を合わせることへの違和感を口にしていたという辰次郎さん。次雄さんは、アイヌの伝統にのっとって家族一緒に埋葬したいと考えはじめていました。

アイヌと和人が互いに認めるアイヌモシㇼに

アイヌの伝統的な墓標を作る決意を固めた葛野次雄さん。木を切りに近くの山へ向かいました。

「神様、仏様の使いになるのにさ、『いやこれだめだ』『これはみったくないからだめだ』『これ曲がってるからだめだ』っていったらその、木に対して失礼になるべや、な」(次雄さん)

家族のための墓標づくりは、父の葬儀以来16年ぶりです。

昭和40年代。父・辰次郎さんは長男に「アイヌのことを教えてほしい」と頼まれたものの、当時アイヌの文化から距離を置いていたこともあり、その申し出を断ります。

そんな父に長男が浴びせた「アイヌ語もしゃべれないで何がアイヌだ」という言葉が胸に深く突き刺さり、辰次郎さんはすべてを書き残そうと決意しました。しかしその矢先、長男は21歳の若さで事故にあい、亡くなります。自分が死ねば、祖先からの大切な教えは消え失せてしまう。辰次郎さんはアイヌの言い伝えや伝統を、亡くなる間際まで書き続けました。

この日、息子の葛野大喜さんが札幌から帰ってきました。大喜さんは今、大学でアイヌ文化を学んでいます。卒業後の進路について、進学か就職かも含め悩む大喜さんに、次雄さんは父・辰次郎さんのノートを解読することが葛野家のそしてアイヌとしての使命だと伝えました。

大喜さん「やってかなきゃいけないことだね」

次雄さん「それをやったほうがいい。とりあえずは。あちこち見向きしないでこれをやる」

墓を直す日がきました。不本意ながら建てたとはいえ、半世紀近く家族とともにあった石の墓に、最後のお祈りをします。墓石の下から現れた次雄さんの兄や母たちの遺骨を、辰次郎さんの墓のすぐ横に納めます。これからは家族がひとつのところに眠るのです。

次雄さんは、同化政策で失われていった昔からのアイヌとしての生き方を取り戻し、親から子、子から孫へと受け継いでいきたいと考えています。

父に教えられながら、ともにアイヌの墓標を作った大喜さん。今、生きるアイヌの役目として、大喜さんは、祖父のノートを読み解き、いずれ出版して多くの人に使ってもらえる形にして残していこうとしています。

「今を生きるアイヌ、今を生きる人間にしかアイヌ文化を伝えていくことはできない。そういう風に思うので、それを一つでも多く後世に残していく。知りたいって思う人が知れるように、アイヌ文化が長生きしていくように伝えていくっていうのが、今を生きる人たちの役目なんじゃないかなと。(大喜さん)

失われ続けてきたアイヌの人々の文化が、今、また受け継がれていこうとしています。

2018年7月27日放送
北海道スペシャル
シリーズ北海道150年 第2集「アイヌモシㇼに生きる」より

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