NHK札幌放送局

木造船 なぜ北海道で急増?

北海道WEBニュース特集

2018年12月13日(木)午後5時00分 更新

朝鮮半島からと見られる木造船の漂流や漂着がことしも相次いでいます。特に北海道では去年の11倍もの数の船が確認されて、海でも陸でもその影響が広がっています。その訳を取材しました。

北海道で木造船の漂着急増

海上保安庁によりますと、ことし日本の沿岸で朝鮮半島からと見られる木造船の漂流や漂着が確認されたのは11月末の時点で169件。去年1年間の104件を65件上回り、過去最多となっています。中でも北海道は去年は6件だったのが、ことしは66件と11倍に急増しています。海上保安庁はイカ漁の最盛期の夏以降、北日本の日本海側にも台風の接近が相次いだことが要因のひとつと指摘しています。しかし取材を進めると、これ以外にも要因があることがわかってきました。

北朝鮮の船が北の海域で急増

能登半島沖の日本のEEZ=排他的経済水域にある好漁場「大和堆」ではここ数年、北朝鮮の漁船による違法操業が相次ぐようになりました。一方でことしは状況に変化が見られています。「大和堆」よりはるか北の海域でも違法操業が確認されたのです。実態を探ろうと、イカ釣り漁業の業界団体に、ことし日本海で撮影された映像を提供してもらいました。

津軽海峡の西側付近では、多くの木造船のほか、「イカの回収船」とみられる大型の鋼鉄船が映っていました。大型船を中心に船団を組み、大がかりに漁を行っているとみられます。

レーダーにも木造船とみられる小さな表示が複数、映し出され、乗組員が、「これではイカがいなくなってしまう」と嘆く声も録音されていました。水産庁によりますと、ことしは津軽海峡よりさらに北の積丹半島沖などでも北朝鮮からと見られる船が多数確認されたということです。

なぜ北海道の海域に?

なぜ北海道の海域にまでこうした船が現れるようになったのか。イカの生態に詳しい道立函館水産試験場の有馬大地研究職員に取材しました。日本海のスルメイカ漁は、能登半島沖と北海道北部沖の間で行われています。有馬研究職員は、「ことしは北海道沖の日本海にイカの漁場が形成され、日本の漁船も多く集まった」と指摘しています。イカが記録的な不漁となる中、日本の船を追うように操業の範囲を広げたのではないか」と分析しています。

北朝鮮の経済に詳しい環日本海経済研究所の三村光弘主任研究員は、「北朝鮮では国内経済や食料事情が改善し、貴重なたんぱく源としてイカの需要が高まっている。国も水産に力を入れていて、漁業者がイカの群れを追って北海道沖にまで来るようになったと推測される」と話しています。さらに「いまの経済状況からすると、水産物の需要はこれからも高まっていき、イカがとれるかぎり違法操業が続くだろう」と分析しています。

漁は危険と隣り合わせ

こうした違法操業は漁師の安全をも脅かしています。函館市のイカ釣り漁業会社の西谷憲夫社長によりますと、北朝鮮からと見られる船は、照明で魚を集める集魚灯を備えていないことも多く、日本の船の明かりを頼りにすぐそばで漁をするケースもあるということです。西谷社長は、「乗組員の安全を確保し、トラブルを避けるためにも、木造船に遭遇した時はすぐにその場を去るよう指導している。国には安全に操業できるよう早急に対策を求めたい」と話していました。

自治体悩ます木造船漂着

一方、漂着した木造船をめぐっては、撤去や処分にかかる費用が自治体を悩ませています。去年、全国36の市町村で104件確認され、NHKがこれらの市町村などに取材した結果、船の撤去や処分にかかった費用は1年間で少なくとも3700万円余りに上ることが分かりました。この費用は、去年12月から都道府県を通じて国が補助金や特別交付税で全額負担しています。しかし、北海道ではことし木造船の漂着の急増で、費用が不足するおそれが出ています。道は今年度内は船を保管するだけにとどめ、処分するのは来年度の補助金でまかなってほしいと理解を求めています。

道南の木古内町では先月、木造船1隻が漂着しました。撤去と処分には数百万円かかる見通しですが、今回は海岸にロープで固定して置いたままにし、来年度処分することを決めました。木古内町産業経済課の片桐一路課長は、「危険だとは思うが補助金がなく処分できない。また船が漂着しないことを願っている」と話していました。

撤去・処分以外の負担も

さらに日本側の費用負担が、船の撤去や処分だけにとどまらないことも明らかになりました。去年11月、北海道松前町沖の無人島に北朝鮮の木造船が漂着しているのが見つかり、10人が上陸して、家電製品などが盗まれました。この時、乗組員の1人が胃潰瘍と診断され、道内2つの病院で治療を受けました。この医療費が631万円に上ることが、NHKが第1管区海上保安本部に行った情報公開請求でわかりました。関係者によりますと、この費用は日本側が立て替えたままで、弁済のめどがたっていません。乗組員が5日間入院した函館市の病院にも話を聞くことができました。かかった費用は約100万円。1泊9万円の救急救命病棟への入院費で70万円、CT画像検査などで20万円、注射や点滴などで10万円ほどかかったということです。病室の前に海上保安官や警察官が常に立って、ものものしい雰囲気だったと振り返っていました。

専門家「国民的な議論を」

環日本海経済研究所の三村光弘主任研究員は、木造船の漂着に伴う損害を日本側が負担している状況について「北朝鮮と国交がなく負担を求める実質的なすべが存在しない。国の財政が厳しさを増す中、北朝鮮の船が入ってこないよう海上保安庁や水産庁の人員・船舶を増やし、警戒・監視活動を強化することについて、国民的な議論が求められている」と話していました。

ひと事ではない木造船の漂着
私が見た木造船は老朽化が進んだボロボロの船ばかりで、本当にこれで漁ができたのかと疑いたくなりました。北朝鮮による違法操業が続くかぎり、日本の沿岸に流れつく木造船の漂着はなくならないと実感しました。漁業者や自治体の関係者からは、「日本の漁場に入ってきてほしくない」とか「もう流れ着いてほしくない」など悲痛な声が多く聞かれます。そして忘れてはならないのは、木造船の漂着に伴う費用負担が私たちの税金でまかなわれているということです。この問題をひと事ではなく、自分のこととして考えていく必要があると感じました。

(2018年11月28日 放送)

函館放送局 藤井凱大記者

 

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