NHK札幌放送局

心のアルバム「サイロ」大地の小さな詩人たち

北海道クローズアップ

2018年7月25日(水)午前10時00分 更新

幼い日、胸の奥にあった大切な思い。十勝の子どもの詩を集めた雑誌「サイロ」はそんな思いが詰まった心のアルバム。創刊から58年、小さな詩人たちのその後を訪ねました。

「サイロ」で根付く言葉の文化

幼い日、胸の奥に湧き出た、いろいろな思い。十勝の子どもたちには、その思いを蓄えておくことができる場所があります。子どもたちが作った詩を集めた、児童詩誌「サイロ」です。
創刊は昭和35年。人々が、自然の厳しさの中で懸命に格闘していた時代です。

当時、小学6年生の少女が、父親の姿を見つめた詩です。

「父の手」 昭和39年入選 小学6年 片貝優子(足寄町)
父の手 大きい手 私の顔がかぶさるくらい
しみのある皮からしんけいがとびでている。
指の関節の下に長い毛が数本はえている。
ひっぱると指をぴくぴくとうごかす
つきでているほねがうごく ちゃいろの手
この手は第二次世界大戦の時の思いでをもっている。
この手はあかんぼうの私をだいてくれた手
においをかいだ
ぷーんと父のにおいがした

創刊から58年。これまでに掲載された詩の数は、一万二千を超えます。小さな詩人たちが暮らしてきた、十勝。日々の出来事や自然を題材にした、言葉の文化が根付いています。

大人になっても宝物 「サイロ」に載る誇り

毎月一度、子どもたちが楽しみにしている日があります。十勝の小中学校に無料で届けられる児童詩誌「サイロ」。この2018年5月で700号を迎えました。
載っているのは、十勝の19の市町村の子どもたちがつづった詩。毎月投稿される数百の作品から、20編ほどが選ばれます。

上居辺小学校では、20年ほど前から、サイロに入選した詩を壁に貼りだして地域の誇りとして伝えてきました。子どもたちは、身近な大人が自分と同じ子どもだった頃に残した詩に囲まれて育ちます。

「あせがぼたぼたおちてくる」 4年 田中佑典
あせがぼたぼた落ちてきた とっても暑いから落ちてきた
あせは顔で遊びながら 地面に落ちていった
ぼくの顔を遊び場にするな とおこった
またあせが落ちてきた 
さっきみたいに 遊ばせないぞと 顔をふったら
あせがとんでいった 
でもあせは おこられても 平気でぼくの顔で遊び続ける

詩の作者は田中佑典さん。田中さんの家は、大正時代に岐阜県からやって来た開拓農家。佑典さんは4代目で、小麦やビート、ジャガイモなどを育てています。

佑典さんの詩のうち、サイロに入選したのは小学校時代に作った6編。大人になった今でも宝物です。

あれから20年あまり。かつて無邪気な詩を書いていた少年も、今では頼もしい、3人の子どもの父親です。息子の泰芽くん、小学3年生です。

佑典さん「すごい汗かきなんで、その汗が目とかに入ったりして嫌だったなっていうのからできた詩なんじゃないですか。」
泰芽くん「覚えてねえの?」
佑典さん「いや、そうだった記憶がある。だって4年生の時だよ。」

大人になると、忘れてしまうこともあります。でも、詩のおかげで、確かな「思い」が残っています。

「1つの歴史みたいなものにはなってきてるのかな。歴史と言ってもそんな大それたものじゃないかもしれないですけど、その時、時代も写してくれるような、アルバムみたいな感じじゃないですか。写真とは違う、心の。色んなサイロを見ても、その時の上居辺の様子がその子の詩で描かれてるのかな。」(佑典さん)

十勝に文化の灯を スタッフは今も手弁当

心のアルバム「サイロ」。その始まりは、昭和35年。十勝が食料基地として注目されるようになった時代でした。発起人は帯広のお菓子メーカー。志をともにしたのは、学校の先生や画家たちです。

詩の選考を始め、出版に必要な編集や絵を描く作業は、スタッフが手弁当で行いました。表紙絵や挿絵も、すべて無償で描かれたものです。今も、サイロのスタッフは、創刊当時のまま手弁当で詩の選考や編集を続けています。

「当時は、十勝地方も田舎の方に行きますと無灯火と言いますか、電灯のない世の中でした。当然、文化の灯も届かない、そういう所に住んでいる子どもたちの所にも、文化の灯をともしてあげようっていう考えだったわけですけど、そこに共感して集った人たちから、スタートしました。」(小田豊四郞記念基金サイロの会代表 杉森繁樹さん)

スタッフ全員で決めた名前「サイロ」。サイロは、家畜の命を支える糧を蓄える所です。子どもたちの大切な思いを蓄えようと名付けました。

中学生の時、創刊間もない第4号で入選した丹羽(旧姓:浜田)静江さん。静江さんは、4姉妹の長女。働き手の一人として、農業を手伝いながら、詩を作りました。

「吹雪」 昭和35年入選 中学2年 浜田静江(鹿追町)
体の中で嵐があれくるう 白い冷たい雪が飛ぶ
風が渦をまいて雪をおどらせる 風よふけ うんとふけ
わたしは、わたしはなんだ 飛んでいる白い雪の結晶
いや、それを作っている分子かもしれない。
仲間が呼んでいる、わたしの頭の中をかきまぜながら・・・
この嵐の中で苦しむんだ うんと苦しむんだ
なかなか解けそうもない雪が むんむんと目の前を曇らせる
わからないわからない苦しみ

静江さんが子どもの頃、自宅と畑のあった場所は高地なため土地が肥えておらず、台風が来たら窪地に水がたまり作物が腐ってしまったそうです。子どもながらにうまくいかないものかと思ったという静江さん。湧き出る思いを詩にすることで、なぜか落ち着くことができたと言います。

「自分の気持ちを言い当てるというか表現できるのが楽しかったし、気持ちだけじゃなくて心を動かされたことが、うまく言い表せた時うれしい。だからその時は気付かなかったけど、今見てみると、そんな風にして自分はどう生きていくとか、生きていったらいいのかというのを、詩を書きながら成長していったんじゃないかなと思うんですよね。」(静江さん)

そして創刊から半世紀。十勝は、親たちの苦労や、子どもたちの思いを礎にして、豊かな大地に変わりました。

幼い日、胸の奥に湧き出た、いろいろな思い。それを蓄え、思い出すことのできる場所が「サイロ」なのです。

2018年5月25日放送
北海道クローズアップ
「大地の詩人たち~十勝 児童詩誌サイロ~」より

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