NHK札幌放送局

WEBニュース特集 家族への思い 米作りに託して

北海道WEBニュース特集

2019年9月6日(金)午後4時37分 更新

胆振東部地震による土砂崩れで甚大な被害が出た厚真町。ともに農業に取り組んできた家族3人を一度に亡くした農家の男性がいます。米作りを再開した男性の思いを取材しました。
                              (苫小牧支局 中尾絢一記者)

【家族3人を亡くした男性】
厚真町では去年9月の胆振東部地震による土砂崩れで36人が亡くなりました。町内の1割の水田に土砂に流れ込むなど基幹産業の農業も甚大な被害を受けました。

農家の山本隆司さん(54)は両親と妹を亡くし、悲しみにくれていました。地元の農家にも「米作りの名人」として知られた父、辰幸さん。農作業が好きで、毎日の食事を作り、家業を支えていた妹、ヒロミさん。母のリツ子さんは持ち前の明るさで家族を優しく包んでいました。

地震後、山本さんは親戚の家に身を寄せていましたが、いつまでも世話になることはできないとして地震から2か月後、町内のアパートで1人暮らしを始めました。「家族3人は一緒に天国に行った。私だけ連れて行ってもらえなかった。仲間はずれにされた」 冬の間は孤独感に襲われました。


【残されたものは】

あの日、裏山から流れ込んだ土砂は自宅を100メートル近く押し流し、収穫前だった稲の育つ田んぼにまで流れ込みました。父の辰幸さんが所有する田んぼはほとんどが土砂で埋まり、今は土砂の仮置き場になっています。生活を切り詰めてそろえた田植機やトラクターなどの農業機械もほぼ全て土砂に押しつぶされてしまいました。「父が一生懸命汗水たらして働いた農業機械全ては自分の魂と共々持っていってしまった。ガラクタになったけれど父の財産です」と話します。何もかもを失った中で自分には残されたものは何かと山本さんは問い続けました。「自分には農業しかない」 その強い思いで春の訪れをじっと待ちました。

ことし5月、山本さんは親戚が米作りをつづけてほしいと農地を無償で貸してくれた場所で苗を育て始めました。人手が必要な田植えや種まきには農協や地区の農家仲間も駆けつけました。また、米作りに必要な農業機械は国や北海道などの補助を受け、自らも1000万円をかけてそろえました。山本さんは農作業のあと、孤独感がだんだんと消えていくような感覚を覚えたといいます。


【家族と向き合う】
この夏、山本さんは手つかずになっていた納屋の整理に向かいました。納屋には土砂から掘り出され、そのままになっていた家族の遺品があり、これまでは向き合うことができませんでした。

家族の遺品をひとつひとつ手に取る中で、思いがけない写真を見つけました。30年ほど前の祖父の葬式の写真です。旅行にも行かず、米作りに励んできた山本さん一家。全員がうつったたった1枚の貴重な写真でした。写真を見た山本さんはこれまでにない思いを抱いていました。
「家族と今まで米作りをやっていたんだ。3人亡くなって終わりでなくて、3人の思いを受け継いでいる様な気がする。1人ぼっちになったけれど、家族が生きてた頃と変わらない風景だよっていう風に言ってあげたいという思いでこれからも農家を続けたい」


今月、山本さんの田んぼには稲穂が実り、色づき始めていました。稲穂を眺める山本さんの表情は安らかでした。何もかもを失ったところから、立ち上がった山本さん。「この身体が動かなくなるまで米を作り続ける」 初めて迎える1人での収穫。家族への思いを抱えながら農家としての決意を新たにしていました。

(2019年9月4日 放送)

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