NHK札幌放送局

奨学金という名の“借金” 社会への入り口で抱えるハンデ

北海道クローズアップ

2018年7月27日(金)午前11時00分 更新

今、大学生の2人に1人が奨学金を利用すると言われています。「未来への投資」と言われる奨学金。しかし、若者の雇用が不安定ななか、大学卒業後に奨学金を返済できない人が増えています。さらには返済への不安から、進学自体を諦める学生も。貧困の連鎖を断ち切るために何ができるのか。現在の奨学金をめぐる課題を考えます。

現代の奨学金は返済が困難な「借金」

NHKは今回、札幌市内の高校生約750人を対象に奨学金に関するアンケートを実施。奨学金のイメージについて尋ねたところ、「借金」「返済が大変」などと回答した生徒が6割に上りました。こうした不安は、進路の選択にも大きな影響を及ぼしています。

札幌市内にある私立札幌新陽高校では、卒業生の6割近くが大学などへ進学しています。アンケートに協力してくれたある男子生徒は、当初は大学への進学を希望していました。しかし、6月に行われた担任との進路面談では、奨学金を借りず、進学そのものを諦めると話します。

「奨学金を選択肢として考えていません。兄が奨学金を借りていたけど返せていないので。借りることはできても返すことはできないというのが自分の中にある。行きたい気持ちはあったけど、今は諦めました。」(3年生の男子生徒)

進学クラスに所属し成績優秀。それでも、多額の奨学金を返す不安の方が勝ってしまったと言います。

「すごく残念なことだと思う。頑張る子なので、大学に行って人生を切り開ける子だけど、じゃあ奨学金を借りて行きなさいとは言えない。」(担任 安齋圭亮さん)

進学を諦める高校生たち。その背景にあるのが、奨学金を滞納する若者が増えている現実です。その数は全国で33万人にも上ります。

札幌市内にある弁護士事務所を訪れた32歳の男性は、奨学金を借りて大学に進学したものの、生活費などのためにアルバイトに追われ、2年で中退。150万円の借金だけが残りました。アルバイトや非正規の仕事を続けてきましたが、生活費を稼ぐことだけで精一杯。そしてついに、裁判所から通知書が届き、奨学金やその延滞金、合計200万円を「一括返済」するよう請求されたのです。

「以前は、正社員になって奨学金を支払うイメージでした。でも生活レベルが高くないと奨学金は返せないと痛感しました。」(32歳の男性)

アルバイトを続け、月に7、8万円の収入でギリギリの生活を送る男性。
「安定した仕事に就いて、奨学金を返していく」という思い描いていた人生設計とは異なる、厳しい現実です。

奨学金問題に取り組む中京大学の大内裕和教授は、奨学金の現状についてこう指摘します。

「90年代前半に卒業した人までは、奨学金を借りても一定のレベルの大学を卒業すれば、一定水準の所得が得られる職に就くことを想定できた。しかし現在、若年者の雇用が不安定になり、貸与型の奨学金は『未来への投資』から『将来のリスク』に変わってしまっている。」

「貧困から脱するため」 社会への入り口で背負うハンデ

奨学金という名の“借金”を背負うのか、若者が直面する人生の選択。

進学を諦める生徒がいる一方、返済の難しさを知りながら、自分と家族のため進学を決める学生もいます。

大学1年生の深堀瑞希さんは、この春、札幌にある大学の薬学部に入学しました。瑞希さんは、母親と姉・妹との4人家族。5年ほど前から生活保護を受けています。

安定した仕事に就くために、資格をとり家計を助けたい。瑞希さんは、見事合格を勝ち取りました。しかしすぐに直面したのが、入学金の支払いなどの経済的な問題。初年度にかかる経費は、入学金や授業料、交通費など合計200万円以上。卒業までの6年間で総額1200万円近くになります。

「もともと貧乏人が行くような学科じゃない。」と弱気になる瑞希さん。しかし、母親は未来を切り開いてほしいと励まします。

「どこかで貧乏を断ち切らないと。瑞希が貧乏になったら、瑞希の子供も貧乏になるから。手に職つけて、資格を取って。」(瑞希さんの母親)

瑞希さんは、複数の奨学金を利用して、必要な経費を全額借りることに決めました。返済に20年以上かかる、1200万円の“借金”です。

「(友達に)借金してまで行きたいのと言われて、自分も何で選んだのだろうと思った。」(瑞希さん)

18歳に重くのしかかる奨学金。入学から2か月たった今、瑞希さんは夜遅くまでアルバイトをしながら、大学に通っています。

授業料は右肩上がり 生徒の負担を減らす取り組み

奨学金の返済が難しくなっている理由の1つには、学費自体が年々増加していることがあります。年間の平均授業料は、1975年には国立大学で4万円、私立大学で18万円だったのに対し、現在は国立大学53万円、私立大学87万円と年々右肩上がりになっています。授業料のほか、入学金や教材費なども必要になってきます。

こうしたなか、金の負担を減らそうという取り組みも行われています。札幌新陽高校で3年生の進路指導にあたる長谷川欽彥先生。去年から力を入れているのが、「学費の安い大学」を生徒へ積極的に紹介することです。

ある男子生徒が希望する道内の私立大学の学費は4年間で420万円。一方、先生がこの生徒に勧めたのは、偏差値が同じくらいの三重県にある公立の短期大学。2年間短大に通った後、国立大学に編入学すれば、4年間でかかる費用は生活費を含めても、こちらの方が安く済むためです。さらに、所得の低い家庭の場合、授業料が免除されることもあります。

「学費が低いところとかいろいろ教えてもらった。できれば国立に編入できる短大に行きたい。」(男子生徒)

奨学金への不安を取り除く進路指導などの結果、今春多くの生徒が全国各地の大学などへ入学。進学率は28%から56%へ、およそ2倍になりました。

さらに長谷川先生はある日、東京の東洋大学を訪れました。この大学は、経済的に厳しい学生に、学内で働く場所を提供する制度を設けています。学内の受付や、事務などの仕事を提供し、働く時間は授業のない日中の時間帯。1年間働けば、アルバイト代は180万円。さらに、授業料も半額免除。借りる奨学金が少なく済むため、在学中に全額返済できるというのです。

「厳しい制度ばかりではなく、助けてくれる制度もあると思うので、周りの人たちみんなでサポートして、将来やりたいことに近づけるような進路活動をぜひしてほしいと思います。」(長谷川先生)

6月5日に発表された政府の「骨太の方針」では、低所得層の学生に対する国立大学の授業料の全額免除や給付型奨学金の拡充などが盛り込まれました。さらに今年4月、日本学生支援機構は給付型奨学金を本格的に始めましたが、募集人数2万人、給付月額2~4万円と、まだまだ十分とは言えない現状です。
若い人たちの学びへの意欲と将来が、経済的な理由で奪われない社会にする。そのために何ができるか、社会全体で考えることが必要です。

2018年6月8日放送
北海道クローズアップ
「奨学金という名の“借金”」より

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