NHK札幌放送局

どう備える? “雪氷津波” が真冬の北海道を襲う

北海道クローズアップ

2019年3月13日(水)午後3時07分 更新

もし真冬の北海道で巨大地震が起きたらどうなるのか。2018年9月の地震がブラックアウトをもたらしたことは記憶に新しいところですが、真冬に同様の地震が発生した場合、より多くの被害を引き起こすことが予想されます。私たちは、真冬の災害からどのように命を守ればよいのでしょうか。

“雪氷津波” 雪と氷による想定外の被害

千島海溝を震源とする超巨大地震による津波の襲来が想定されている北海道。もし流氷が押し寄せる冬に地震が発生すると、雪と氷で威力を増した「雪氷津波」が町を襲う可能性があります。

流氷は、大きいものだと5メートル四方。冬の風物詩が、私たちの暮らしに牙をむくおそれがあるのです。

昭和27年3月の十勝沖地震では、道東の浜中町がこの雪氷津波によって壊滅的な被害を受けました。

人口およそ6,000人の浜中町。役場がある町の中心部は海抜2メートル程です。67年前の雪氷津波で大きな被害を受けました。

地震が起きた3月、町のすぐ近くには多くの流氷が流れ着いていました。そこに十勝沖を震源とする地震が発生、津波で押し流された流氷が町を破壊したのです。

過去に例が少なく研究が進まなかった雪氷津波ですが、東日本大震災をきっかけにそのメカニズムの解析が始まりました。

雪氷津波には2つの大きな特徴があります。1つは、津波がより高くなることです。

波に乗って流れてきた流氷は、家と家の間に詰まり、高く積み重なります。この状態を「氷の渋滞=アイスジャム」といいます。このアイスジャムが津波をどんどん高く押し上げていくのです。氷のない津波に比べ、最大2倍近くもの高さになることが想定されます。

そして雪氷津波のもう1つの特徴が、氷の破壊力です。重さ80キロの氷が1.5mの高さから落ちると、人の手のひらほどの小さな面積におよそ1トンの力がかかります。

高さを増した津波と氷の破壊力。この2つが被害を拡大させてしまうのです。

昭和27年に雪氷津波の被害にあった浜中町では、防潮堤を町の沿岸17キロにわたって設置。さらに津波が川に流れ込むのを防ぐ水門も作りました。この水門は、東日本大震災のときに大きな効果を発揮しましたが、雪氷津波はこうした水門や防潮堤をも破壊しかねない、と専門家は考えています。

「河川の氷がゲートや水門に衝突して破損したという報告もありますので、津波が来る可能性がある限りは、やはり冬期のリスクの増大は退けられないと思います。」(寒地土木研究所 主任研究員 木岡信治さん)

雪氷津波は、津波が来ない地域にも無関係ではありません。河川の凍結により、津波が河川をさかのぼるときに氷が川岸に打ち上げられてしまい、内陸でも家や橋を壊したり、農地に被害を及ぼしたりする可能性があるのです。

室蘭工業大学准教授 有村幹治さんは、ハザードマップに示された浸水区域を超えた地域にも、雪氷津波が被害をもたらす可能性を指摘します。

「例えば、落橋したりアイスジャムが生成されたりして、第一波で堤防が一部損壊しているとして、そのとき津波がもう1回、第二波で来たときに、流れが変わってハザードマップの範囲をはみ出す可能性は当然あります。一級河川に限らず、川沿いの方々は当然この(雪氷津波の)リスクはあるものだと考えてよいと思います。」(有村さん)

冬の災害のリスク 寒さから身を守れ

では、海沿いや川沿いでなければ安全なのでしょうか。有村さんは、そもそも冬の災害であることを忘れてはならないと警告します。

「自主的に避難する際に、雪で通行止めになっているとか、雪があってふだんの避難路が通れない可能性もあります。時間も、10分で来たところが20分ぐらいかかるとか。逃げようにも逃げられない。また高台に逃げたときに風に当たってしまって、体温がどんどん奪われてしまう可能性もあります。濡れている場合もある。防寒具がちゃんと準備されているかとか、ふだんの冬期の備えが必要になります。そして、橋が落ちているとかアイスジャムがある状況の中で避難所生活が始まるので、すぐ道路が啓開される(=通れるようになる)かどうかわからない。併せて、物資が滞って避難所までなかなか届かないとか、こういう冬期特有のリスクがあると思います。」(有村さん)

さまざまなリスクがある冬の避難行動。いざというときのために、私たちはどう備えればいいのでしょうか。
有村さんは「自助(自分でなんとかすること)、共助(ご近所でなんとかすること)、公助(自治体が取り組むこと)」という考え方が有効だといいます。

「まず一番取り組みやすいのは自助だと思います。ハザードマップを見たときに、みなさんどこを見ているかというと、だいたいご自宅の周りだけ。それではダメなんです。1日の行動パターンを考えると、働いている方々は会社で8時間とか過ごすわけですし、買い物などで日常的に行く場所もある。そこで発災したらどうするんだ、と。1日の行動パターンをハザードマップの中で確認していくという取り組みは、まずやりやすい。その場所のリスクを確認することが大事なことだと思います。」(有村さん)

災害発生直後はリスクを考えながら行動しなければなりません。それでは、災害直後で命が助かったあと、その先の避難生活にはどのような問題があるでしょうか。

演習・訓練で課題や対策を検証

冬の避難生活には寒さが伴い、夏に比べてより多くの問題を引き起こします。その対策を検証する訓練が先日行われました。

2019年1月26日、北見市では真冬の避難生活を想定した “厳冬期災害演習” が行われました。国や自治体の防災担当者や、医療関係者など、全国から170人が参加。真冬のこの時期、気温は氷点下20度を下回ることもあります。どう寒さをしのげばいいのか、実際に体育館に泊まり込んで検証しました。

企画したのは、寒冷地防災学が専門の日本赤十字北海道看護大学 根本昌宏教授です。

「北海道の場合にはやはり冬の寒さというのは1つ大きなハザード、障害になる可能性がありますので、これについて何か介入した取り組みが必要だろうと。」(根本教授)

災害が発生した直後、避難所ではまずブルーシートと毛布が配られます。しかし、体育館の床の温度は0度近くにまで冷え込むため、参加者からは「冷たい」との声が上がりました。

こうした寒さから身を守るのが、段ボールベッド。1人分、大小合わせて30個の箱を使って作ります。床からの高さは35センチ。直接床に寝るよりも、8度ほど暖かく過ごすことが出来ます。用意した段ボール箱はおよそ5,000個。155人が一夜を明かしました。

また、体を温めるには温かい食事が欠かせません。菓子パンやおにぎりなど冷たい食事ばかりだと、気分が落ち込んでしまう原因にもなります。温かい食事をみんなでとることが、避難所でのストレス軽減にもつながるといいます。

さらに注意が必要なのが暖房器具の使い方です。閉め切った空間で使い続けると、最悪の場合、一酸化炭素中毒を引き起こすおそれがあります。こうした事態を避けるため暖房器具を屋外に設置し、屋内には半透明のチューブを使って暖かい空気を送り込みます。

厳しい寒さとの闘いが続く、冬の避難所での生活。真冬の地震に備えて自治体はより実践的な対策を進めるべきだと、根本教授は指摘します。

「私たちの演習はあくまでも仮想ですので、さらに想像を膨らまさなければいけないと思います。可能であれば、それを自治体の計画の中に少しでも何か反映させるようなことを行っていただければ、私自身としても、もしくは、この演習の中で通じた皆様方にとっても、大変ありがたいことだと思います。」(根本教授)

真冬のブラックアウト 大都市札幌に潜むリスク

大都市・札幌で災害が起きたらどうなるのでしょうか。有村さんは、大都市特有の問題点を挙げます。

「昼間の様相と夜の様相でまったく違う。つまり、いろんな区の方々が昼間は通勤で中心部に通われていてオフィスに滞在していると。あと、道外から来られている観光客の方々もいる。そのように昼夜の人口の分布がまったく異なる中で、仮に地震があって、昨年のようなブラックアウトが起こったとすると、この方々をどのように避難・退避させるか、ということを検証する必要があると思います。」(有村さん)

とくに冬の場合、大都市に集中した人たちが帰宅したり避難したりすることには、より多くの困難がともないます。

「外に出られない状況で、夕方発災をして、地下鉄もJRも止まってる状況です。このとき歩いて帰れるかどうか。帰れない場合は、やはり企業でちゃんと備蓄する。寝袋があるのか、とかですね。先程の段ボールベッドの話もありましたけども、こういうものを各企業でどれだけ準備できるか、ということも検証する必要があると思います。」(有村さん)

まだまだ進んでいるとは言い難い冬の災害への備え。もう一歩備えを進めるとしたら、私たちは何をすればいいのでしょうか。
まずは夏場にしっかり避難できる体制を整えることが基本的な対策だと、有村さんは話します。

「夏場に避難所が運営できているかを考えた上で、冬の要素を加味した場合、われわれは何を準備しなくてはいけないか、ということですね。そこから計画を洗い出していくことによって、冬の災害への対策というものが、自助、共助、公助の中で考えられていくと、私は思っております。」(有村さん)

今、この寒い中に地震が起きたら自分はどう動くのか。改めて、考えを巡らせる必要があるかもしれません。

2019年2月1日放送
北海道クローズアップ
「“雪氷津波”の脅威~冬の地震から命を守れ~」より

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北海道の“いま” を見つめ続ける報道番組 1993年4月に放送を開始した「北海道クローズアップ」。 昨年度は、大きな被害を出した胆振東部地震について、被害の深刻さやそれに立ち向かう人々の姿を様々な角度から伝えてきた。また、AI農業の最前線や、TPPなどで貿易の自由化が加速する中での人々の新たな取り組みなども見つめ、北海道の様々な課題に向き合ってきた。この26年間の放送回数は、746回を数える。 平成から新たな時代にかわる節目の今年、番組では新たに新キャスターを迎え、番組の更なる飛躍を目指す。北海道の“いま”を、より分かりやすく、より深く。 「北クロを見れば、今の北海道がわかる!」 そんな報道番組をめざし、新たな可能性を探っていく。

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