NHK札幌放送局

北海道を変える “スマート農業” その課題と可能性

北海道クローズアップ

2019年4月3日(水)午後1時03分 更新

今、北海道の農業が大きな転機を迎えています。人間に代わって畑を耕すロボットトラクターや、ワンタッチで農薬を自動散布するドローンなど、人工知能やITを駆使した “スマート農業” の導入が急速に進んでいるのです。一方で、効率重視の新しい農業に対する戸惑いの声も。
高齢化や国際競争に直面する北海道の農業。スマート農業は、窮地を乗り越える切り札となるのでしょうか。

スマート農業先進地、北海道の取り組み

2018年、新篠津村で農薬の散布をドローンが “全自動” で行う実験が行われました。
田んぼの形や大きさを登録すると、ドローンが自分で飛行ルートを作成。稲の上わずか40センチの高さを一定に保ちながら、GPSやセンサーを使って自動でルート上を飛び、むらなく農薬を散布していきます。

さらにこのドローン、「AI(人工知能)」を搭載しているのが最大の売り。ドローンが撮影した田んぼの画像をもとに、AIがすべての稲穂を詳細に分析し、肥料や農薬の必要量を瞬時に判断してくれるというものです。
2019年の夏には、農業用ドローンを使って稲の育ち具合を全自動で管理するシステムの実用化を目指しています。

また全国に先駆けて、北海道で導入が進んでいるのが、自動運転のトラクターです。

最新型のトラクターは、タブレット端末をワンタッチ操作するだけで畑に向かって出発。畑までの距離およそ300メートルをGPSなどのデータをもとに自動で進み、到着するとプログラムされた通りに作業を始めます。
人が近づくとすぐに停止するなど安全にも配慮し、しかも複数のトラクターがぶつからないよう、お互いの位置を確認しながら畑を耕します。

作業時間をこれまでの3分の1以下に減らせるという世界最先端のこの技術に、海外からも視察が相次いでいます。

スマート農業の必要性

現在、北海道で農業を営む人の数は、20年前の半分以下。トラクターの開発を担当した北海道大学の野口伸教授は、担い手が減る北海道農業を維持していくために、ロボットトラクターは欠かせないと考えています。

「人手不足が深刻でしょう。そうすると人に代わる人工物が作業してくれないと、規模拡大もできないし、今の経営面積も管理できないという状況ですからね、やっぱりロボットは必要ですね。」(野口教授)

農業ジャーナリストの窪田新之助さんは、すでに北海道ではいろいろな仕組みのスマート農業が実用化されているといいます。

「スマート農業は岩見沢が非常に先進地で、GPSを使って自動でまっすぐ走るトラクターというのが広がっていて、およそ1,200戸の農家のうち1割が使っていると言われています。また、道東の酪農地帯では搾乳ロボットが登場しています。」(窪田さん)

しかし、スマート農業に必要な機械やシステムは、農薬を散布するドローンで数百万円、ロボットトラクターでは一千万円程度と、導入にあたって高額な費用がかかります。

「スマート農業は、必要な農家と必要ではない農家がいると思います。兼業農家では経営している面積や農業所得が小さいので、投資力が無いようならば、その必要性も低いと考えています。対して専業農家は規模がどんどん広がっているので、スマート農業の必要性が高いといえます。」(窪田さん)

トランスボーダーファーミングに賛成?反対?

規模が大きい農家ほど、スマート農業の必要性やメリットが大きい。そこに注目した試みが “トランスボーダーファーミング(境界越え農法)” です。

畑の所有権はそのまま、境界を取り除くことで、複数台必要だった機械が最新の大型機械1台で済むため、コストや労働時間が大幅に短縮され、効率良く農作業をすることができます。

北海道最大の畑作地帯である十勝では、トランスボーダーファーミングの導入に向け、JAが地元の農家の人たちから意見を聞きました。

多くの農家が「この先、農業を続けていくためには、導入も必要だ」と理解を示す一方、懸念の声も上がりました。畑を一緒にしてしまうと、人よりいいものを作ろうという競争心が失われてしまうのではないか、という意見です。

「隣の農家との競争によって、十勝の農業が伸びてきたのは事実なんだよね。競争心がなかったら、収穫量って伸びない。」(農家)

また、代々土地を受け継いできた農家の大下秀樹さんは、土へのこだわりからトランスボーダーファーミングに慎重な意見を示しています。

「他の人に自分の土地が使われて生産されちゃうっていうところに、問題点があるのかなと思う。基盤整備、排水対策とか除れきを含めて、最高の条件をお金かけて今まで作ってきている。」(大下さん)

大下さんは、この地を切り拓いた祖父から受け継いだその土を、さらに豊かなものにしようと土壌の専門家に分析を依頼。そのデータをもとに試行錯誤を続けてきました。

「この土を改良していくっていうのは、僕、好きなので。自分が春に種をまいて土を作って、収穫して。良くても悪くてもその結果って自分のやってきたことだから。効率は悪くても、その面白みがあるから農業をやってるんで。」(大下さん)

スマート農業で土や作物に対する愛情を持ち続けることはできるのか。そして、収穫の喜びを今までどおり味わうことはできるのか。

費用面への心配ではなく、土への愛情ややりがいという面から反対する農家の人たち。しかし窪田さんは、そうしたことを言ってはいられない状況があると指摘します。

「今、農家の平均年齢が67歳ぐらいになっています。農家の方は、70歳になると一斉に辞めていくというのが過去の統計ではっきりしているので、なかなか今まで通りにできなくなっているんじゃないかと考えています。」(窪田さん)

先進国ドイツでの取り組み

海外では、日本より少し先に進んでいる事例もあります。ただし、もちろん海外の農家が土地への愛着がないわけではありません。

18年前にトランスボーダーファーミングを導入した、スマート農業先進国ドイツの南部にあるリートハウゼン村。ここでも受け継いできた土地への思いが強く、導入するまでに4年かかりました。

「自分の畑はあなたの畑よりも収穫量が多い、とぶつかりあっていて、とても導入できないと思いました。」(参加する農家)

そこで村の人たちはコンバインに特殊なセンサーを取り付け、GPSの位置情報から誰の畑でどれだけ収穫したのかを割り出せるようにしました。それぞれの土地の収穫量に応じて利益を公平に分けることで、納得のいく仕組みができたといいます。

その結果、導入は順調に進み、労働時間だけでなくトラクターなど農業機械にかかるコストも、ともに6割削減。
時間やお金にゆとりができたことで、養豚など副業を始める人が出てきました。また釣りが趣味だという人は魚の養殖業を始めるなど、新たなビジネスの成功で収入は大幅に増えたそうです。

「トランスボーダーファーミングを始めて本当によかったと思っています。きつい農作業から解放されただけでなく、経済的にも大きな成功を収めることができました。やりがいや生きがいを持って、暮らしています。」(参加する農家 ハラルド ガッサーさん)

国際競争が激しくなっていくなか、北海道の農家は、スマート農業をどのような形で進めていけばいいのでしょうか。

「農家の生産現場の改革からもう一歩進んで、経営の改革に踏み込むと面白いのではないかと思います。センサーやドローンを使うことで、いつ、どれくらいの量が収穫ができるかというのが予測できる可能性があるので、それができれば安定生産だけではなく安定供給にもつながり、さらに流通・加工・小売りを巻き込んだ新しい取り組みにもつながっていくと考えています。」(窪田さん)

野菜を買う側の私たちにとっても、無関係ではないスマート農業。今後もその動きに注目です。

2018年11月2日放送
北海道クローズアップ
「“スマート農業”が北海道を変える!?」より

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北海道の“いま” を見つめ続ける報道番組 1993年4月に放送を開始した「北海道クローズアップ」。 昨年度は、大きな被害を出した胆振東部地震について、被害の深刻さやそれに立ち向かう人々の姿を様々な角度から伝えてきた。また、AI農業の最前線や、TPPなどで貿易の自由化が加速する中での人々の新たな取り組みなども見つめ、北海道の様々な課題に向き合ってきた。この26年間の放送回数は、746回を数える。 平成から新たな時代にかわる節目の今年、番組では新たに新キャスターを迎え、番組の更なる飛躍を目指す。北海道の“いま”を、より分かりやすく、より深く。 「北クロを見れば、今の北海道がわかる!」 そんな報道番組をめざし、新たな可能性を探っていく。

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