NHK札幌放送局

北海道地震 ブラックアウトはなぜ起きたのか?

北海道クローズアップ

2018年12月7日(金)午前11時01分 更新

2018年9月6日午前に発生し、震度7を記録した北海道胆振東部地震。この震災によって国内で初めて大規模停電「ブラックアウト」が起きました。鉄道や飛行機が止まり、スーパーやコンビニからは食料品がなくなる事態に。地震が多発する日本で、なぜこの地震だけブラックアウトが起きたのか。どのように道内全域に停電が広がったのか。再びブラックアウトが起こる危険はないのか。専門家とともに検証します。

以前から指摘されていたブラックアウトの可能性

北海道では東日本大震災を経て泊原発が停止し、今も国の審査を通っていません。地震前の電力需要は北海道全体で約310万kW。そのうち約半分の165万kWを苫東厚真火力発電所が担っていました。その屋台骨が震度7の地震でストップし、それが引き金となってブラックアウトが起きました。

では、この電力不足は想定外の事態だったのでしょうか。取材を進めると、実は以前からそのリスクが指摘されていたことがわかりました。

長年、エネルギー政策を研究する龍谷大学の大島堅一教授。東日本大震災のあとには、国が招集する電力の需給検証委員会で委員を務めていました。大島教授は苫東厚真火力発電所に依存している構造に問題があると、委員会で訴えていました。

「大規模電源を集中させると、大きなリスクがあるという印象は常に持っているんですね。今までの経営が、大規模集中型の電源に過度に依存するような経営をしていた。」(大島教授)

平成24年10月。泊原発が停止した年に開かれた需給検証委員会では、苫東厚真火力発電所に頼ったままで冬場を乗り切れるのか、質問が相次ぎました。大島教授も、地震などのトラブルで発電所が止まった場合の具体的な対策について説明を求めています。

「電源脱落が発生した場合にどれくらい足りなくなるのか。何も計画がないとおっしゃるのか、どういう計画があるのか。」(議事録より)

これに対して北電は、本州から電力を送ってもらったり企業に節電を呼びかけたりすることで、電力不足は避けられると答えました。大島教授はこの回答に対して、はっきりとしたリスク評価がされていなかったと感じています。

不十分だった電力会社の対策

電力不足は避けられると主張していた北海道電力。ではなぜブラックアウトは起きたのでしょうか。その全貌が明らかになってきました。

苫東厚真火力発電所は1号機、2号機、4号機からなります。地震発生によって2号機と4号機が緊急停止。北電は一部地域の強制停電と本州からの電力でブラックアウトを防ぎますが、残りの1号機も停止。このトラブルがほかの小さな発電所にも次々と影響を及ぼして、国内で初めてのブラックアウトが起きたのです。

北電の真弓明彦社長は、想定をはるかに超える事態が起きたと説明しました。

「3台がまわっていて、それが一気に停止するという形については想定しておりませんでした。今後、今回の事象をしっかりと検証して、再発防止に努めていきたい。」(真弓社長)

しかし、大島教授はもっとやるべきことがあったはずだと指摘します。

「これは許されないことだとは思うんですけどね。対策を取ってほしかったと思います。避けられたかどうかはわかりませんけども、もう一歩踏み込んで対応することはできたのかもしれません。」(大島教授)

なぜここまでひとつの発電所に頼る構造ができてしまったのか。国のエネルギー計画を作ったメンバーの一人で、東京理科大学の橘川武郎教授は北海道特有の事情が背景にあるといいます。

「北海道は広くて人の住んでいるところが少ない。供給責任があるから、隅々まで同じ値段で流そうとすると普通はコストが上がるので、それを下げなくてはいけない。」(橘川教授)

北海道全域をカバーする送電網は建設や管理などに膨大なコストがかかります。そのため、札幌など大きな電力消費地の近くに巨大な発電所を置くことでコストを抑えようとしたのです。橘川教授は、ひとつの巨大な発電所に頼ることによるリスクへの対応が十分でなかったと指摘します。

「コストを下げるというのが、ある意味、北海道電力が追いかけてきた道ではあります。電力会社はやはり、住民の命を支える会社ですから、これが本当に真冬だったら大変なことになったわけで。現実は重く受け止めないといけない。」(橘川教授)

今も続く酪農家の苦しみ

ブラックアウトによって物流の現場も大混乱に陥りました。特に乳製品は影響が大きく、地震から一週間たってもスーパーでは品薄状態が続いています。

釧路市にある乳業メーカーの工場では停電で生産ラインがストップし、2日間、出荷できませんでした。よつ葉乳業 根釧工場で働く山田政満さんが当時の様子を語ります。

「当時は機械が止まりましたので、紙容器も牛乳を入れたままここに残ってしまいました。十分に冷えた状態を保てなかったものですから、工場全体としては8トンほど生乳を廃棄しました。」(山田さん)

今回の大停電は流通だけでなく、生産者にも大きな傷跡を残しました。酪農家はいまだ心配を抱え続けています。実は今、道内各地で毎日のように生乳が捨てられているのです。

標茶町で酪農を営む宍戸豊さんは、飼育している牛300頭のうち50頭ほどが「乳房炎」にかかりました。乳房炎は牛の乳房が炎症を起こし、死に至る場合もある病気です。停電で搾乳ができなくなり、乳のはった牛がストレスを感じて発症したとみられています。

乳房炎にかかった牛の乳は、少なくとも一週間は出荷できません。しかし、搾乳をしないと牛の体調が悪化するため、宍戸さんは乳を絞り続けています。

「製品にはなりませんね。捨てるだけです。(毎日)2トンくらいになるかもしれません。本当に困っています。電気ひとつないだけでここまで大変なことになるとは誰も思っていなかったと思います。この先が心配ですね。」(宍戸さん)

受けた損失は一週間で少なくとも500万円に上ります。

私たち一人一人も備えが必要

再発防止に努めるという北電。苫東厚真火力発電所に大きく依存するという構造を放置していたわけではありません。東日本大震災のあとに泊原発が運転停止したあと、石狩湾新港にLNG火力発電所を造り始めて、2019年2月には稼働予定です。

本州からの電力融通については、海底ケーブルにコストがかかるため、これまでは60万kWだけでした。しかし、来年の3月に90万kWまで増強することが決まっています。

では、それらの電力対策が完了する前に訪れる今年の冬は大丈夫なのでしょうか。ここに、決して油断できないというデータがあります。

北海道は冬にかけて暖房の需要が増加。電力の需要もピークを迎えていきます。昨シーズンのピーク電力は約525万kWですが、現在確保できている供給力は約391万kWです。苫東厚真2号機が再稼働し、別の点検中の火力発電所と11月以降に予定している4号機が稼働すれば581万kWになり、ようやくピーク電力を上回ります。

ところがこれで安心はできません。老朽化した火力発電所にはトラブルの危険性があります。継続している余震も心配です。ひとつの発電所がトラブルによって運転を停止すれば、一気に需要がひっ迫するという綱渡りの状態がこの冬は続きます。つまり、電気を使う私たちも対策が必要ということです。

今回の震度7の地震は、図らずも私たちの電気をめぐる暮らしが、危うい状況の上に成り立っていることを浮き彫りにしました。電力会社には速やかな対策が求められます。同時に、私たち一人一人も暮らしを守る備えをしなければいけません。未曽有の大停電を経験した私たちが忘れてはいけない教訓です。

2018年9月21日放送
北海道クローズアップ
「検証“ブラックアウト”」より

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北海道の“いま” を見つめ続ける報道番組 1993年4月に放送を開始した「北海道クローズアップ」。 昨年度は、大きな被害を出した胆振東部地震について、被害の深刻さやそれに立ち向かう人々の姿を様々な角度から伝えてきた。また、AI農業の最前線や、TPPなどで貿易の自由化が加速する中での人々の新たな取り組みなども見つめ、北海道の様々な課題に向き合ってきた。この26年間の放送回数は、746回を数える。 平成から新たな時代にかわる節目の今年、番組では新たに新キャスターを迎え、番組の更なる飛躍を目指す。北海道の“いま”を、より分かりやすく、より深く。 「北クロを見れば、今の北海道がわかる!」 そんな報道番組をめざし、新たな可能性を探っていく。

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