先輩たちの仕事

リポーターとしての現場取材が
「自分の言葉」を育てていく

アナウンサーとは
アナウンサー アナウンス室 栗原 望 (2010年入局)

実ははじめはディレクター志望

大学では農学部に入り、ラクロス部に4年間所属していました。大学院に進み、中国の砂漠化の実態や水の利用を調査する研究を行いました。現地調査で、乾燥した地域で厳しい生活を強いられている住民のみなさんにインタビューした際に、「水が満足に使えなくても仕方がないんだよ。自分たちはここで生きていくしかないんだから。」と本音を聞きました。この人たちが、日本の消費者のために綿花を育てているのかと、複雑な気持ちがしました。将来は研究者かエンジニアになって砂漠に灌漑用水路を設計する仕事に就きたいと考えていましたが、この現地調査がきっかけで“人の話を聞く仕事”は、とてもやりがいがあるなと思うようになりました。
NHKはディレクターで応募しました。面接でインタビューがしたい、取材して番組をつくりたいと話していたら、アナウンサーもそういうことができるから、「栗原くん次からアナウンサーで選考を受けてください」と言われ。今でもどこが見こまれたのか、ちょっと謎ですが、アナウンサーとして採用されました。

沖縄での大切な原体験

初任地は沖縄放送局でした。原稿を読むのも下手で、緊張するともっとボロボロになってよく怒られました。「NHKで何がしたかったんだっけ?」と最初の1年間はよく思っていましたね。そして沖縄では、青い海も、強烈なお酒も、独特な言葉も美しい音色の音楽も、そして戦争の記憶も全てがはじめて目にし、耳にすることばかりでした。自分は何も知らないんだなと痛感しました。
当時は普天間基地の移設問題が連日トップニュースで伝えられ、新型輸送機オスプレイが初めて沖縄に配備されたときも現場へ行き、大規模な抗議集会を中継などしました。沖縄放送局では戦争の記憶を映像で繋いでいくことにも力を入れています。自分が企画した中で忘れられないのは、沖縄戦の記憶を「孫」が聞くという取り組みを取材したドキュメンタリー番組です。今まで家族にも戦争体験を語ってこなかったおじいに大学生の孫がせまる過程に密着しました。最後におじいが語ったのは「この話を他の人にも伝えてほしい」ということ。孫に語ったようでもあり、取材者の僕にも向けられた言葉でもありました。「そうだ、こういう大事なことを伝えていきたかったんだ」と強く感じたことを今でも憶えています。

現場の中心で「ことば」と出会う

4年前に、東京のアナウンス室に異動になりました。最初に担当したのは「ニュースウオッチ9」のリポーターです。毎日毎日、事件、事故、災害、政治、経済、文化などなど、いわゆる「ニュースの現場」を取材しました。編集長の「栗原、今日はここにいこう」という言葉を合図に、一直線で現場に向かう日々。2年間で45道府県へ行きました。そこでは、心を揺さぶられる「ことば」との出会いの連続でした。
忘れられないのは、2018年に起きた西日本豪雨の被災地での取材です。山間にある小さな集落に大量の土砂が流れ込み、3人が亡くなった厳しい現場です。集落の自治会長が、出会って最初に話したのが「私の村は、なくなってしまいました」という衝撃の言葉でした。どれほど辛かったでしょうか。そして、なぜ、このことを伝えようと思ったのでしょうか。その後、集落で取材を続け、「傷ついた土地を復旧させ、きずなをつなぎとめよう」という自治会長の姿を見つめてきました。半年たった時に、僕が番組で伝えたのは「この村の営みが今も残っている」ということでした。一つの言葉にこだわり、じっくり考えて、自らの言葉に変換していく。ことばの担い手である僕にとって、特別な経験となりました。

取材することと表現することの「両輪」を磨く

今は、「クローズアップ現代+」のリポーターをしています。「30分で1テーマを深めきる」という番組です。記者やディレクターと一緒に取材し、現場でのインタビューやリポートに加え、スタジオでは、現場で何を感じたか、どんな情報があったのかプレゼンする役割です。仕事だけを見ると、ディレクターにも記者にも似ているかもしれません。でも、僕自身はあまり枠組みにこだわる必要はないと思っています。より深いメッセージを伝えるにはどうすればよいのか仲間たちと試行錯誤の日々です。最近、現場で知ったことや感じたことなどを凝縮して「意味づける」ようなリポートをしてみたいと思います。「そうだったのか!」「知らなかった!」「そういう意味があったのね!」と納得してもらえるような。そのためには、取材者としても、音声表現者としても経験を増やし、技術を磨き続けるしかないと思います。とっても面白いですよ。

私のリアルとは

台本に「栗原アナ 現場の実感をプレゼン」と書かれていることがあります。リポーターとして現場に入った私が、感じたこと、見つけたことを自由にコメントしろという指示ですが、これが本当に難しいです。 例えば去年10月に起きた台風の被災地である長野市で取材した際、河川の決壊現場からの中継で、堤防に残された謎の「くぼみ」が目にとまりました。調べると、川からあふれた水が、堤防の住宅地側を削り取っていた痕跡でした。つまり、さらに被害が広がったかもしれない証拠だったのです。自分の体とくぼみの大きさを比べたり、歩いてくぼみが複数あることを指摘したりしながら、「水の力の恐ろしさを感じる」と伝えました。現場だからこそ感じる五感を使った「リアルな言葉」を伝えていきたいと思います。