函館放送局川口 朋晃
小学5年生の時、北海道の有珠山が噴火し、避難者は一時1万人を超えました。私はそのとき小樽市に住んでいましたが、100キロあまり離れた小樽にも火山灰が降り積もりました。人生で初めて体感した災害で、NHKのニュース報道をかじりつくように見ていました。その時から記者になりたいという思いが芽生えました。
とにかく記者になりたくて、大学卒業後もフリーターをしながら就活を続けました。最初に働いた小樽支局では第一管区海上保安本部や、ニセコ地域の土地取引などを取材しました。現在は函館放送局で勤務しています。
NHKで記者の仕事をスタートさせた小樽支局時代に、古平町の水産加工会社が組合も含め一気に7社破綻。理由を明らかにしたいと社長のおひとりに半年以上かけてお願いし、取材をお受けいただけることに。息子さんが社長となって会社が再スタートを切るタイミングで番組として放送でき「取材を受けてよかった。この放送をきっかけに前を向いていける」と言葉をかけていただきました。地域に根ざして記者としてじっくりと取材対象者に向き合い、思いを引き出すことができ、記者という仕事の意義を強く感じました。
また、ニセコ地域の土地取引の実態や手法を明らかにした番組には、特に深い思い入れがあります。不透明な取引の実態を取りあげた一方で、さまざまな国の人と交流できることが魅力となって人口が増えていることも、北海道の変化を見続けていくという意味で面白いと感じています。2017年の番組放送以降も取材は続けており、今後も地域に根ざす記者としてライフワークのように追っていくつもりです。
国内外で大きな事案が起きたときには、必ず自分たちが暮らす北海道への影響を考えます。例えば原油価格が高騰していれば、市民生活に必要なガソリンや灯油の価格がどうなっているのかを伝えると、無関係なニュースではなく自分のこととしてとらえられるのではと思うのです。日本の中枢で議論されていることを報道することはもちろん大切ですが、地域の問題を拾い上げて発信できるのは、全国にネットワークを有するNHKだからこそ。私も地元の記者として北海道で起きている問題を見つけて掘り下げ、それが全国の皆さんにも広がりのあるテーマになっていけばと思っています。そしていつかは、そうした地方発のテーマを「NHKスペシャル」で放送するのが夢です。
函館に赴任した直後に、北海道胆振東部地震がありました。安平、厚真、むかわの3町の被害が甚大でしたが、同時に北海道全土でブラックアウトという事態も起きました。私たち記者がキャッチし切れていない被害や課題がまだまだあると思います。そういったことを地元の記者として追っていきたいと思います。
生まれてからずっと道民として暮らしてきた私にとって、北海道の問題や課題は自分自身の問題であり課題です。言い換えれば、自分の問題は北海道に住む人たち全体の問題にもなり得ます。住民と同じ目線に立ち、考えることができます。土地勘もありますし、生活に苦労することはありません。北海道のことが大好きですし、生活の拠点は北海道におきたいと考えています。
まだ独身なので、地元で暮らすメリットをそれほど実感していませんが、住みやすさはもちろんあります。食べ物も合いますし。休みの日はドライブしながら道内を巡り、おいしいものを探すのが楽しみです。冬なら、朝ちょっと早く起きて天気が良ければすぐスキーに行けます。帰りは温泉に寄って、おいしいものを食べて帰ります。
地域局で働くと事件・事故から行政、経済、地域ネタまで自分の興味のあることをなんでも取材でき、記者としての仕事もいちから全て担当します。僕自身、北海道の中にもまだまだ知らないことがいっぱいあるので、ニュースがきっかけで地域がより良い方向に進んでいけたらと意識しています。