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佐賀 自宅の“裏山”が崩れる前に 土砂災害の予兆研究

ニュースただいま佐賀
  • 2023年08月09日

県内の山間部を中心に土砂崩れなどの被害をもたらした記録的な大雨から、1か月。
身近にある“裏山”が崩れるリスクを事前に知らせることで身を守る可能性を広げようと、
新たな研究が佐賀市で行われていると聞いて、取材してみました。
(佐賀放送局 藤岡信介 記者)

大雨で相次いだ土砂災害

梅雨末期となった7月10日の早朝のことでした。
記録的な大雨によって唐津市浜玉町では大規模な土石流が発生。

水と土砂が一体となって激しく押し寄せ、住宅を壊し、3人が死亡しました。
唐津市のほか、隣接する佐賀市などでも土砂崩れが相次ぎました。

予兆検知の研究

地形を一変させ、命も奪う土砂崩れの発生をあらかじめ検知できないか。
佐賀市大和町で実証試験が始まったと聞き、研究者を訪ねました。

「斜面のふもとに観測装置を設置しました。
 オレンジ色のパイプの先に3つの小型のセンサーがあり、
 そのデータを収集し、インターネットを通じて送信するんです」
(佐賀大学 宮本英揮 准教授)

研究について説明してくれたのは、佐賀大学農学部の宮本英揮 准教授です。

土壌の中で起きるさまざまな現象を解析することを専門にしています。
7月下旬から山あいにある小中一貫校の北側の斜面で実証試験を始めました。

宮本准教授は、もともと農地へ効率的に水を与えるため、
土の中の水分の量を正確に把握するといった研究を行ってきました。
大雨による土砂災害が各地で相次ぐ中、
土の研究を防災の対策に生かすことができると考えるようになったと話します。

「従来よりも早く、そして高い感度で土砂災害の前兆を検知できれば、
 命を守るためのいち早い避難行動が可能になるため、
 これまでの減災の方法を一変させる強力なツールになると我々は考えています」
(佐賀大学 宮本英揮 准教授)

土砂災害の予兆 検知の仕組みは?

 

現在、土砂災害については、気象庁などが大雨が降った際に「土砂災害警戒情報」を発表し、
1キロ四方で警戒を呼びかけています。

これは、土にしみこんだ水の量の「推定」や、
直近1時間に降った雨の量などから行った計算にもとづいています。

 

これに対し、宮本准教授は、土の中の水の量などを「実際に観測する」ことで、
土砂災害の兆しをピンポイントで探ることを目指しています。

カギになるのは、企業に技術指導して開発した手のひらにのるサイズの高性能なセンサーです。

「このセンサーでは先端の部分で土壌中の水分量を、
 黒い部分で土の動きを検知する仕組みとなっています」
(佐賀大学 宮本英揮 准教授)

まず、最大で1メートル50センチの深さまで、地中に穴を掘ります。
ここにケーブルでつながれたセンサーの先端部分を埋め込みます。
センサーは監視装置に接続されていて、セットで運用します。

周辺で雨が降ると、土の中に雨水がしみこんでいきます。
センサーはわずかな水の量の変化を計測します。

さらに、土が水を含んで重くなると、斜面が動くことがあります。
地中のセンサーは、物が移動したり、傾いたりしたことを示す
加速度も観測できるため、土の動きを捉えられます。

つまり、推定ではなく、実際に観測された数値などに基づいて、
土砂崩れの“予兆”につながる情報を得ることができるというのです。

この場所では斜面に沿って、およそ20個埋め込みました。
土の中の水の量などのデータを収集し、自動で送信する仕組みです。 

防災にどう生かすか

宮本准教授の研究室にあるパソコンのモニターで、集まってきたデータを見せてもらいました。
表示されたグラフには、土にしみこんだ水の量を示す数値が、
なだらかな線として並び、土が乾燥していることが伺えました。

「この数日は雨が降っていませんので、落ち着いた状態にありますね」
(佐賀大学 宮本英揮 准教授)

こうした仕組みを利用した試験で、実際に土砂崩れが起きる6、7時間前に
異常なデータを検知したこともあるということです。

これまで、土の表面にワイヤーを張るなどして土砂崩れを検知する方法は各地で行われてきましたが、
土の中の水を計測する手法は、全国的にも例がありません。

また、いまは実証試験で、地元の人たちの協力も得ながら、
時間をかけて土の中の水の量などデータを集めなくてはならない段階です。
このため、いまはまだ警報などを出すことは想定していないとしています。

研究について、佐賀県も注目しています。
昨年度から今年度にかけて、佐賀大学と協力する事業として補助金を出すなど支援にあたっています。

この場所で2年ほどかけてデータを蓄積するなどして実用化を目指す計画ですが、
今後、電源や耐久性といった技術的な課題などをクリアしなくてはなりません。
 

また、ほかの場所でも実証試験を行う場合、コストの検討も重要です。
安全に関わる情報なので、行政や企業、あるいは地域住民など、
費用を誰が負担するのか議論が求められます。
 

宮本准教授は、気象庁などが行っている注意や警戒の呼びかけを否定するのではなく、
情報を補完できるような新たな仕組みを作りたいとしています。
その上で、将来、住民の適切な避難につながる情報を提供できるよう
新たな仕組みを整備したいと意気込みます。

「住民が真に求めるのは自宅の“裏山”の安全性に関する情報です。
 そして自分自身だけでなく大切な知人、友人、家族などの身に迫る災害のリスクです。
 身近な斜面を可視化することで、
 住民がみずから考えて自発的に避難行動をとることを我々は後押しできればと考えています」
(佐賀大学 宮本英揮 准教授)

佐賀県のほか、熊本県や宮崎県などでも実証試験は行われていて、
いったいどの程度、雨が降ったり、土が動いたりしたら
災害が起きうるのか、詳細に解析していくことになります。

土砂崩れから身を守る新たな選択肢となるか。
予兆を捉える試みは始まったばかりです。

取材後記

大雨による土砂災害をめぐっては、
市や町がいつ住民へ避難指示を出せばよいのか、
判断が非常に難しいという声も聞かれます。

研究が実用化されれば、行政が避難を呼びかける際だけでなく、
住民にとっても自発的に避難を判断する材料にもなると期待されています。

身近な斜面のリスクをすみやかに伝える仕組みを構築できれば、
わたしたちの避難行動にも新たな変化が起きるかもしれません。
研究のこれからに注目したいと思います。

  • 藤岡 信介

    NHK佐賀放送局

    藤岡 信介

    青森、福井、科学文化部を経て2022年から現所属。
    佐賀の地平線が好きです

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