

2021年8月の記録的大雨のさなか、小城市の排水機場で、70代の操作員が、屋外の設備に挟まれる事故で亡くなりました。
この事故があるまで、私たち取材班は、操作員の仕事も、その人たちが担う責任も、知りませんでした。
大雨のなか、「操作員」たちは、かっぱを着て家を飛び出し、ギリギリの状況で排水機場での仕事をしていました。
ほとんどが高齢の方。中には80代もいます。すべて「地域を守るために」です。
取材をはじめて、操作員たちが人知れず、過酷な環境で作業をしていることに驚きました。
住宅や田畑を浸水から守る排水機場によって私たちの多くがメリットを受けています。
排水機場が全国で最も多い佐賀で、皆さんと一緒にこの課題について考えていきたいと思っています。
「排水ポンプ」を稼働して、大雨などで溜まった雨水を強制的に吸い上げて川に放流し、浸水被害を軽減する施設。
排水機場は、基本的に、大きな川と小さな川の境目にあります。雨水の排出先は大きな川。
ほかにも、海や遊水地が排水先の排水機場もあります。
大きな川と小さな川の境目には、「水門」が取りつけられています。
普段は水門は開いていますが、大雨などで大きな川の水かさが増えると、閉めます。
水かさが増えた大きな川の水が、境目からあふれ出るのを防ぐためです。
でも、水門を閉めると、今度は小さな川の水が大きな川に自然に流れなくなってしまいます。
ここで、排水機場の出番です。行き場を失った水をポンプで吸い上げ、大きな川に放流。排水機場は、水門とポンプのコントロールで機能を果たしています。
排水機場は、水が自然に流れにくい低く平らな土地を中心に全国各地で整備されてきました。
国土交通省によると、国と都道府県管理の排水機場は、全国に860あまり。※2019年時点/国土交通省調査
このほか、市町村が管理する比較的小規模な施設も多くあり、排水機場は私たちの生活空間のすぐそばに存在しています。
※水門は、大きさや形によって「樋門(ひもん)」や「樋管(ひかん)」と呼ばれるものもあります。
排水機場でポンプや水門を動かす仕事をするのは「操作員」と呼ばれる人。一部を除いて、排水機場のある自治体の住民たちが担っています。
自治体が、排水機場の近くに住む一般市民や農家に声をかけ、年間数十万円の報酬というボランティアに近い形で頼んでいます。
担い手は、退職した高齢の方や農家の方が大半となっています。
大雨が降ると、すぐに排水機場にいかなくてはいけないのがルールのため、日中、仕事などで地元を離れる人は引き受けづらいのです。
引き受けるのには、特別な資格は必要ありません。
操作自体は、国や自治体の説明書通りにすれば、それほど難しくないですが、気象条件や周囲の水かさなどの状況が変化するなかで、正しく動かす「判断」には、経験が必要です。
地域の防災拠点のひとつを担う責任ある仕事に「大きなやりがいを感じている」と答える操作員も少なくありません。
2016年入局
災害時にテレビ・ラジオで避難行動を呼びかけるため、水害の被災地や県内河川を取材。
2019年入局
行政担当として県の諸課題に加え、度重なる水害への防災減災対策を取材。