アンケートから見えた コロナ禍の妊婦たち

ざっくり言うと
かつてない事態に対応が後回しとなり、孤立感を深めた妊婦も
労働参加する妊婦への配慮を
2020/08/17 ラジオ深夜便 インタビュー「ふたつの命を守るために ~コロナ禍の妊婦~」河合蘭さん(出産ジャーナリスト)

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2020/08/17

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河合蘭さん

出産ジャーナリストで写真家の河合蘭さんは、新型コロナウイルス感染拡大がどのように妊婦へ影響を与えているのか、大規模なアンケートを行いました。回答者は4日間で1676人。全国の妊婦の思いや悩みから何が見えてきたこととは。
※写真は、河合さんが各地で展示してきた妊婦さん、親子の写真展「幸せを信じて」他から。(本文と直接的な関係はありません)


妊婦への意識の低さが露呈

――東京都など7都府県に緊急事態宣言が出されたのが4月7日。河合さんはその翌日に、全国の妊婦さんを対象に「今、妊婦さんは何に困っている? 新型コロナウイルス感染症アンケート」を行いました。これは妊産婦さんの調査機関と共同で行ったんですね。

河合さん: 緊急事態宣言が出される前に妊婦さんの不安は高まっていました。当時はまだ妊婦さんの不安に応えるような報道もあまりなく、アンケート調査もありませんでした。ともかく「妊婦さんはどうしているんだろう?」と始めました。アンケートの前にも、オンラインクラスなどに参加させていただき、妊婦さんのお気持ちをお聞きしていたんです。
「母親学級」や「両親学級」といわれている出産準備教育も急になくなってしまったし、入院するときはたった1人で入院しなければならない。面会もできない。健診も減っていたんです。決められていた回数の妊婦健診が受けられなくなっている。
そうした方の不安を伝えていくためには数字があったらいいと思いましたし、ナマの声を拾ってたくさんの方に聞いていただきたいと思って調査を始めました。

「まず何が知りたいか?」とお聞きしたんですけれど、皆さん「自分がもし感染してしまったら、私の身の上に何が起きるんだろう」と心配していらした。「私」とお書きになっても、赤ちゃんのことが一番心配なんです。「赤ちゃんはどうなってしまうんだろう?」と皆さん一番不安に思っていらしたんです。
今はかなりの妊婦さんが仕事を続けていらっしゃるわけです。日々通勤しなければならない。緊急事態宣言のあとでも、東京などの通勤時間帯はラッシュだったんです。そこでの感染の危険性におびえている。
そういった、さまざまな「助けて」という雰囲気の声がたくさん書かれていました。

自由筆記で圧倒的に多かったのは出勤中、職場での感染の不安でした。いらだちもかなりありました。社会や会社、ご家族などの「妊婦は感染させないようにしなければならない」という意識が、あまり妊婦さんたちには感じられていなかったんですね。守ってもらえないような思い。
「妊婦だけが怖いわけではないでしょう」と言われてしまう、「怖いのはみんな同じなんだ」「お年寄りや持病のある方のほうが優先である」という言葉を浴びせられた、という書き込みも多かったんです。
アンケートの自由筆記にあった1600人あまりの声を全部何度も読んで、感じたことがあります。船が沈むときや災害が起きたときなど「有事の際」に「守らなければならない人」のグループに、以前は妊婦が入っていたはずなのに、知らない間に妊婦への配慮の意識がだんだん薄れて消えつつあると感じました。

――93%の方が、「妊産婦向けの情報が不足している」と回答したそうですね。

河合さん: このアンケートをしてから1か月ぐらいの間にかなりいろいろ出てきたのですけれど、4月初めの時点では、まだまだ少なかったですね。個々人がSNSなどに書いて叫ぶと、妊婦さんたちや最近出産した女性たちがつないでいく。そういった光景が見られました。

――「妊婦さんは守られるべき」という意識が薄いからなんでしょうか。

河合さん: 「忘れられた存在である」というような感覚が、妊婦さんたちの中で不安としてあったみたいです。
今は少子化で、妊婦さんは少数勢力です。人数が少なくて、「主張してもあまり力を持たない人たち」にいつの間にか変化してしまっていたんです。

コロナに感染したときの妊婦さんと赤ちゃんへの影響がまだ分かっていなかったころ――今もまだ分かっていませんけれど――武漢で、6~9名といった小さい集団の妊婦さんが出産したところ、赤ちゃんへの感染が見られなかったという報告があったんです。少しの妊婦さんの報告しかないので、よく分からないですよね。
でも、妊婦さんがいたずらに不安になってはいけないという心遣いからだと思いますけれど、産婦人科医の学会を代表する先生たちが「これは、妊婦さんだからといってリスクが高くなる病気ではない可能性が高い。過度な心配をすることはない」と言っていらしたんです。そこで、妊婦さんたちは逆に不安を感じてしまったかもしれません。「専門家が、自分と赤ちゃんに起きるかもしれない新型コロナウイルスの影響を、いまひとつ真剣に捉えていないのではないか」と思ってしまうこともあった。
妊婦さん1人では、自分の赤ちゃんを守れません。会社の周りの方やご家族といった方も大切で、本来なら「ここに妊婦がいるから、自分たちは感染を起こさないようにしよう」という意欲が高まるはずですけれど、「あまり悪いことはなさそうだ」と言われたら、かえって意識が低くなってしまった。こういうことを言っている方もいらしたんです。妊婦さんを安心させようと思って、学会や厚労省はそう書いたのでしょうけれど。
ある妊婦さんは、「安心したのは私の上司です」と書いていらしたんですよ。
お年寄りや持病のある社員が自分の部下にいたら気を付けて配慮しなければいけないけれど、「妊婦は大丈夫なんだ」と伝わってしまった。そういう面もあったんですね。
その時点でデータが少ないのはしかたがなかったんですけれど、「データの少なさをどう捉えるか」なんです。
英語圏のガイドラインなどを見ますと、「データが少ない。だから慎重に妊婦さんたちのことを考えていかなきゃいけない」となっている。「データが少ない。だから…」という、「だから…」のあとに続くべき考え方が、なかなか日本では広がらなかったと思います。

妊婦さんには「母性本能」が芽生えています。動物的な本能ですね。赤ちゃんを守りたいがために、必死になってしまうんです。
「コロナウイルスがここにたくさんある」と感じたら、「ここは危ないから逃げろ」と「本能」がささやいてくるんです。その「本能」に従って行動したいという気持ちもまた、妊娠中は強いんです。なかなか理性的になれない。そこでせめぎ合って、「私は今この部署で業務を遂行しなければならないのだから、逃げられない」というストレスを感じることが、妊婦さんたちはとてもつらかったんです。

――不安を抱える妊婦さんのためにオンラインで情報を届けようという動きはあったんでしょうか。

河合さん: 海外に比べると非常に遅れてはいたんですけれど、見かねて個人で動き出した助産師さんたちもいらっしゃいました。ある助産師さんのグループがSNSなどで呼びかけたところ、200人くらいの助産師さんが「何ができるか分からないけれど、何かしたいです」と言って集まってくださった。そしてオンラインクラスを1日に何回も繰り返してやっていらしたんです。
私も少し見学させていただいたんですけれど、皆さんとても喜ばれていた。土日などですと、ご主人と一緒に画面に映っていらした方もいました。コロナ禍の妊娠は、ご主人と一緒にできることがないわけですよ。お産も1人ですし、母親学級などのクラスへ行くことも、健診に一緒に行くこともできない。ですから「久しぶりに2人でお産のことを考えられて、楽しかった」と。ほかの妊婦さんと会って話をすることもできないので、交流もできた。その中から「ママのオンラインお茶会をやろう」と思い立って、行動を始められたお母さんもいらっしゃいました。
アンケートの結果もよくて、クラスを始める前はほとんどの方が不安だと答えていらしたのに、オンラインクラス後は9割の方が「安心になった」と答えられていました。劇的な効果があったんです。

コロナウイルスに感染しての出産

――河合さんは、新型コロナウイルスに感染して帝王切開で出産した女性にお話を伺ったそうですね。

河合さん: そのお母さんは、「私のようなお産をする人が出ないように、みんなで妊婦さんを守ってほしい」と訴えていらっしゃいました。お母さんは社会生活を送っていらっしゃいますから、幼稚園に行っているお子さんもいらしたんです。
真っ先に考えたのは、「自分が誰かに感染させてしまったかもしれない」ということです。
入院先も、妊婦さんは、コロナ病棟ならどこにでも行けるわけではなくて、周産期医療ができてお産ができるところでないと、入れないんですね。自宅療養やホテルなどもダメなんです。
その方はお産が差し迫った時期だったので少し覚悟していたようですけれど、正常に経過していた妊娠だったのに「帝王切開で赤ちゃんを出しましょう」と言われた。

帝王切開で産まれた赤ちゃんにも、すぐには会えないんですよ。お顔も見ることがなく、赤ちゃんは連れていかれてしまう。帝王切開ではおなかの上についたてを立てるんですけれど、そのついたての向こうから赤ちゃんの産声が聞こえたそうです。それが赤ちゃんと唯一接触できた瞬間だったそうです。すぐにNICUという新生児専用の集中治療室に連れていかれて、20日間くらい赤ちゃんとは会えないんです。
赤ちゃんは生まれてきたら、お母さんにだっこされたり、おっぱいをもらったり、ほほ笑みかけてもらったり、話しかけてもらったり、といったことがあるわけです。赤ちゃんはそれが分かるんです。それができないじゃないですか。防護具をつけた看護師さんしか接触できないわけですよね。それを考えるとお母さんは心が痛んだそうです。
「コロナの感染力はすごいから、気を付けてほしい」ともおっしゃっていました。
先にご主人が感染されたんですけれど、「テレビなどでこんなに報道されていても、どこか他人事だと思ってしまっている自分がいた」と。「私は消毒もしている。マスクもしている。手洗いもしている。だから大丈夫だ」と思ってしまっている方が多いんでしょうね。そのお母さんがそうおっしゃっていて、私も本当にその通りだと思いました。

社会の中での妊婦の立場を見直す機会に

――アンケートに届いた声です。

<日本という国がここまで妊婦に対して冷たい、関心のない国だとは、妊婦になるまで分かりませんでした。
「妊婦だから、コロナ感染したときの責任が取れない」と仕事を解雇になった人もいます。「通勤が不安なら早く退職しろ」と心ない声をかけられる人もいるとのこと。仕事を辞めたら保育園に預けられない。社会復帰できないのではないか。そんな不安は聞き入れてもらえず。
妊婦を特別扱いできない行政にがっかりしています。新しい命を育んでいるんです。子どもは国の宝じゃないんですか。もっと行政に声をあげてほしい。妊婦に関して社会に理解を持ってほしい。このままの日本では少子高齢化は止まりません。>


このような声をどのように受け止めていらっしゃいますか。

河合さん: アンケートに書かれていた声を代表しているようなコメントです。アンケートの回答時期が4月の初めで、その後厚労省でいろいろな対策がとられてはいるのですけれど、気持ちは今どこまで変わったでしょうか。まだまだなのではないかと思います。

私自身も、どこまで妊婦さんを特別扱いするのが適切なのか、これはとても難しい問題だと思います。
妊婦さんでなくても、病気をお持ちの方やお年を召してらっしゃる方はとてもご不安でしょう。そうした方が命がけで仕事をしていらっしゃる場が、医療現場を筆頭にたくさんありますよね。そんな中で、健康なはずの妊婦が(妊婦は人一倍元気な人だというイメージもあるかもしれません)多くを望みすぎているのではないか、と思われてしまう。いろいろな立場の方がいらっしゃることを思うと、しかたがない面もあると思うことはあります。
ただ、社会の中で確実に「妊婦さんを守らなきゃ」という意識が低くなっているので、これを機に「妊婦は社会の中でどんな存在なんだろう」ということを真剣に考えなくてはいけないのではないかと思います。

――河合さんは、ドイツのハンブルグで出産した日本人の母さんにもお話を伺ったそうですね。ドイツはどのような状況なんでしょうか。

河合さん: このお母さんは同じ職場の方と結婚していらしたんです。コロナが怖いと思った時点で、夫婦2人でテレワークにしていただいたと聞きました。「どこで働いていても、成果を挙げられればOK」という考えがもともと根づいていたので有事の際もスッとその態勢に入れた、ということでした。

――妊婦さん、女性が安心して働き続けるには、どのようなことが考えられるべきだと思っていらっしゃいますか。

河合さん: 女性は、妊娠することもあるし、生理痛でつらいこともあるし、いろいろな時期がある身体で生きています。流産したあとに出勤したら、ふっと思い出して職場で涙が止まらなくなったとか、いろいろな話を聞いてきました。
生殖で大きな役割を担っていることをもっと理解して、そのうえで女性を雇用して活用していただきたいと思うんです。
女性も「働きたい」と言ってきたし国も「女性に働いてほしい」と言ってきたわけだけれど、コロナ禍の中で妊婦さんたちが叫び声を上げるのを聞いていると、「私たちが作ってきた働き方は、いまひとつ薄っぺらなものだったのではないか」「表面だけの男女平等だったのではないか」と感じました。ここで、そこを理解してあげると、女性にとってとてもうれしいことで、労働意欲も高まるのではないかと思っています。

「私はテレワークしたい」と思っていたところに、上司のほうから、「あなたは妊婦だから、テレワークしなさい」と言ってもらえたという方がいらっしゃいます。そして上司がおっしゃったことがまたすてきなんです。
「その代わり、あなたの部下がこれから妊娠したり、あるいは病気になったり、介護を抱えたりしたときには、あなたが配慮をしてあげて」。
このように「優しさのバトンを継いでください」という意味もこめて、テレワークの環境を整えてくださったそうです。これがあるべき姿なのではないかと思うんです。女性が働く現場では、女性に向けて「労働力であると同時に、人類が続いていくための重要な役割も担っているんだ」というまなざしをもっとしっかりと向けていただきたいと思います。

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