「逃げ恥」のドラマやダンスが社会現象に! 漫画家・海野つなみ

ざっくり言うと
打ち切りつづきの漫画家人生 初の大ヒット作「逃げ恥」で何が変わった?
気になる今後の展開、描きたいテーマは?
2020/02/11 ラジオ深夜便 インタビュー 漫画家・海野つなみさん

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アニメ・マンガ

2020/02/11

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海野つなみさん自画像

『逃げるは恥だが役に立つ』で知られる漫画家の海野つなみさんは昨年、漫画家生活30周年を迎えました。
打ち切り、「逃げ恥」誕生秘話、今後描きたいテーマなどを伺いました。


大ヒット作に恵まれても、普通の生活がしたい

――海野さんは去年(2019年)、デビュー30周年の節目の年を迎えられました。

海野さん: 18歳でデビューをして、40歳ぐらいになるまでそんなに売れなくて。なので、まさかこんな40歳過ぎてから「バーン!」って人に知られるようになるとも思わなかったし、こんなに長く続けていけると思ってなかったので、すごくありがたいなと思います。

――『逃げるは恥だが役に立つ』の大ヒットで、ご自身を取り巻く環境も変わりましたか?

海野さん: そうですね。親戚とかで集まっても、「どこで描いてるの?」とか言われるし、兄とかにも「お前の本は本屋で見かけたことがない」って言われていたのが、知らない人にごあいさつするときでも「『逃げるは恥だが役に立つ』の…」、みたいなことを言うと、「あぁ」って通じるようになったので、そういう意味ではすごくありがたいなと思います。

――子どものころから漫画家になることは夢だったんでしょうか。

海野さん: そうですね。小学校とか小っちゃいころから絵を描いていたし、初投稿も中学2年生だったんですよ。
自分の好きな漫画を自分の独自キャラクターというか、独自物語で二次創作みたいな形で描いたり、小説とかを書くのも好きで。原稿用紙に小説を書いて学級文庫の後ろに並べていたり、絵を描くのも話を書くのも両方好きで、漫画も好きで、みたいな感じでした。
私は「なかよし」に投稿してデビューしたんです。10代の投稿者がすごく多くて、「高校生デビュー」というのも当たり前のようになっていたので、自分と同じぐらいの年代の人がみんな投稿していて、「よーし、私も!」と。
そのころは、投稿の中の優秀者が載る小冊子が毎月出て、投稿した人はそれがもらえるっていうシステムになっていたので、それを見ながら「あ、あの人が載ってる」とか、自分が載ったら「よし!」みたいな感じで描いていました。

――大学進学も、将来は漫画家になると思って進路を選んだのですか。

海野さん: 高校を卒業した春休みに出した作品で、大学に入ってすぐデビューが決まったんですよ。だから大学へ行きながら漫画を描いていて、学校の図書館で描いたり、学校のコピー機でコピーしたりとか。徹夜をした次の日の朝イチで体育でマラソンを走って、「死ぬ~」みたいな感じでした。デビューしたばかりで連載があるわけでもなく、めちゃめちゃ忙しいわけではなかったですけど。
大学の4回生ぐらいのときに連載が始まって「これでたぶん、専業でやっていける」と思ったので、就職活動はせずにいました。ゼミのときとかに「先輩、ほかの人はみんな就職活動で来ないのに、何してるんですか?」「うーん」とか言って(笑)。

――周囲の人に漫画を描いていることはあまり公にしなかった?

海野さん: まず「なかよし」が子ども向きというところもあって。もうちょっと大人向きというか、中学生とか高校生ぐらいだったらまだ言っていたかもしれないんですけど、「『なかよし』だしな」っていうのもあるのと、「漫画家だから」みたいなことでいろいろ言われたくなかった、ということもあります。今もそうなんですが、近所の人とかには言ってなくて、普通の人の生活をしたいというか。特別な人じゃなくて、ご近所の○○さん、同じクラスの○○さん、ぐらいのスタンスでその場にいたいというのがずっとあって。だから、あえてそういうことは言わないようにはしていました。

代表作がなくても

――デビュー後、代表作と言いますか、長期連載につながる作品というものに恵まれなかった時期がありました。そのときはどのような思いで漫画を続けていたんでしょうか。

海野さん: 売れないなりに、ずっと読んでくれる固定ファンみたいな方たちがいて、その人たちがいなかったら単行本も出せない状況だったんですけど、出せば少ない部数なりに買ってくれる人たちがいました。そのおかげで生き長らえてた感じだったので、「その人たちを裏切るような作品は絶対作らないようにしよう」ということがありました。

漫画って載るまでにタイムラグがあるので、でも1人で描くわけにいかなくて、アシスタントさんを雇うと経費はかかるけど、お金が入ってくるのは掲載されてさらに1か月後だったりするので、シリーズものとかで先に描きためておくと、どんどんどんどんお金が減って、でも収入は無くて、気づいたら口座には1か月分の生活費しか無くて、「大丈夫かなぁ? カード引き落とし、今月いつだっただろう」とか、すごいヒヤヒヤしたり。
あと、1年ぐらい仕事が無かった時期は図書館にずっと通っていました。『山本周五郎全集』とか読んだりして(笑)。
毎日やることも無いし、仕事も無いし。コンペに出すためのものを描いて、出すんだけどなかなか受からなかったり……、みたいなことが続くと、仕事はしているんだけども収入に結びつかない。「いざとなったら実家に帰ったらいいわ」と思いつつ、空いた時間は図書館とかに行って、やたらと本を読んでいて。そのときにストックしていたネタが、のちのち作品になったりもしたので、それはそれでよかったと今となっては思いますけどね。

――「もう自分はだめなのかな」と思って諦めてしまうこともあるかと思いますが、海野さんが頑張れた原動力は何だったんですか。

海野さん: “ツウ”の人には受けてたんです。「雑誌のアンケートはよくないけど、編集さんや漫画家の卵、投稿者にはすごく人気があって、漫画スクールのランキングではいつも1位、2位なんだよ」などと言われていて。コンペに落ちるときも、編集者に「すごいいいんだけど、ちょっと雑誌的に合わないかな」というようなことを言われていたので、自分の作品がだめなんだというよりは、「場が合わないのかな?」みたいなものは感じていました。

ずっと「早すぎる」って言われていて。お笑いコンビの話を描いて全然受けなくて、何年後かにお笑いブームが来る、とか。NHKでドラマにしてもらった『デイジー・ラック』も、独身の30歳ぐらいになった女性4人組とかいったら、今だったらすごくキャッチーな感じがするんですけど、当時は「えぇ?」みたいな感じで。「女同士、独身で集まってみんなで映画を観に行ったり、キャッキャして、え~、この人たちってかわいそう」みたいな感じで思われたりして。それでも、あとから「あの話、実は好きでした」とか言われるようになったから、「あぁ、早かったんだな」みたいな。

――『デイジー・ラック』も連載は打ち切りになってしまった。理由はどのように伝えられたんですか。

海野さん: 理由というよりも、「もう次で終わりだからまとめて」みたいな感じで言われて。「え~! 今まだ風呂敷を広げている途中だったのに」と結構ショックが大きくて、それからしばらく現代ものを描かなくなってしまいました。現代の若い女性、描いている雑誌のちょうどド真ん中の作品を描いて、それで打ち切りになってしまったので、その後、「何を描いていいか分かんない」、みたいな試行錯誤が続いて。ひと通りいろんなものを描いて、ようやくまた『逃げるは恥だが役に立つ』で現代ものを描いたときに、担当さんに「やっと描く気になりましたね」って言われました。

草食男子? 契約結婚?? 「逃げ恥」誕生秘話

――「逃げ恥」のテーマ選定はどこから来たものだったんですか?

海野さん: もともとは“草食男子”みたいなことが言われている時期で、内気、奥手な男性と恋愛をするにはどうしたらいいんだろう、と思って。それで、“契約結婚”みたいな感じで役割があって、「あなたは夫の役割を、私は奥さんの役割を」ということになると、演じているうちにだんだん何かできるようになるんじゃないかと思って、そこからですね。

それまでは打ち切りの恐怖で、SFとか古典とかいろいろ描かせてもらったんですけど、最初に「○巻で終わりますので、そこまでは描かせてください」みたいな感じで、終わりを見て数字を合わせて描いていたようなところがあったんです。
でも、全部描きたいものを描いてしまって、「じゃあ現代ものを描こう」となったときに、先のこととか全然考えてなくて。「着地点見えないんですけど、大丈夫ですかね?」と言ったら、「普通みんなそうやって描くんですよ。海野さんはやたらと終わりを見据えて今まで描こうとしてきたけど」と言われて。初めて先を見据えずにシミュレーションみたいに、「こういう状況においた2人はこのあとどうなっていくんだろう、その様子を逐一観察して描いていこう」という感じで始まったので、「大丈夫かな?」みたいなのはすごくありました。怖かったですね。

――“契約結婚”というテーマは新鮮でした。

海野さん: 少女漫画における契約結婚というのは、よくあるパターンとして「お金持ちの男性と愛のない結婚を家のために、体面的にして、でもだんだん愛が芽生え、最後は好きになって、めでたしめでたし」。みたいなのがド定番だったんですが、でもそうじゃなくて、もっと職業寄り。働くという方向に振って描きたいというのは今までなかったと思います。

――現代の女性が抱える社会問題的なものもテーマとして描かれています。

海野さん: そうですね。アシスタントさんとテレビとかワイドショーとかを見ながらお昼や仕事をしていると、「あれってこうだよね、もうちょっとこうしたら世の中的にうまくいくんじゃないの?」みたいな話をキャッキャしていて、それはすごく楽しかったんですけど、でも少女漫画にそういうのを持ち込むべきなのかどうかというのはすごい迷いがあって。そういう作品ってあまりなかったし、そんな話を描いたところで受けるかどうか分かりませんでした。
その後ウェブで『くまえもん』という連載をさせてもらったことがあって、「ちょっと時事ネタやってみよう!」とやってみたら意外と楽しかったし、受け入れられたので、「あら? 描き方によってはできるんじゃないの?」と思ったんです。それで「逃げ恥」のときに『くまえもん』のテイストをちょっと入れてみたら、おもしろく読んでくださる人が多くて、「よかったよかった、もっと入れてみよう」みたいな感じになりました。

――そういったところにもファンがたくさんつきまして、講談社漫画賞を受賞、テレビドラマ化されたりしてさらにブレイクしていくわけですけれども、ご自身は手応えをどの辺りから感じていらっしゃったんですか。

海野さん: 1巻のころからいろんな映像化のお話をいただいて、「あ、何か今回の連載は今までとは違うぞ」というのは結構早くから思いました。「逃げ恥」のどこを切り取るかというのが局によって特徴があって。その中でTBSさんが一番原作を大事にしてくださった。最後まで忠実に原作に沿って作っていただいて、すごく感謝してます。
最初のころから、いつも「最後はどういうふうに終わるの?」って必ず聞かれていて。「先を考えて描いているわけじゃないから、自分も分かりません」って言ってて、「この話ってどういうふうに終わるんだろう」とずっと思いながら連載を描いていたんです、ドラマとは別で。ようやく終わる1年ぐらい前に「こういう終わり方をすれば自分的に納得がいく」と思ったので、そこに向かっていきました。いつまでも続けようという感じではなくて、終わりを探しながら描いていたところはあるような気がします。

前作で“男性の呪い”を描いていなかった!

――「逃げ恥」の連載がほぼ5年で終わり、いったん休憩を挟んで、去年の1月から続編が始まりました。

海野さん: 最初はもう描くことが無いって思っていたんです。でも「逃げ恥」を描いたことで、全国の男女共同参画センターから講演の依頼があって。1人ではなんなので、大学の先生とか専門の方とかに一緒にゲストで来ていただいて、トークセッションみたいな形で回らせていただいたときに、「男女の問題」みたいなのをいろいろ考えていると、結構男性の方も息苦しいのに、そこはすごくスルーされている。「本当は女性の問題を考えるときに一緒に解決していかないと、女性だけが力をつけていくことになって、それは男女がひっくり返っただけになるんじゃないの? 結局、弱い男性も一緒に対抗していかないと、潰されてしまうんじゃないの?」みたいなことをいろいろ考えて。
そういう意味では、“男性の呪い”みたいなものは全然描けていなかったなと思って。でも「もう終わったし、誰か描いてくれたらいいや!」と思ってたんですけど、結局最終的に「自分で描かなきゃだめか」ということになって。

男性独自の“ノリ”、ホモソーシャル(恋愛・性的な意味を持たない同性間の関係)な世界というか「男だけで集まって、ワイワイやって最高~!」みたいなノリって、結構あるじゃないですか。女性は飾り物みたいで、「居てもいいけど、居させてやるよ」みたいに感じちゃって。仲間として見られていなかったり、その世界に「わー、楽しい」と思って入ってみたら、意外と上下関係があったり、やりたくもない“むちゃぶり”とかをさせられて。必要でもないのに、ただその場で笑いが欲しいだけでしんどい思いをさせられて、イジられて。
それで疲弊する男性もいるけど、なかなか言い出しづらい。それを言うと、「お前、空気読めてないな、おもしろくないな」とか。意外と大事なことがそういう“ノリの場”で決まってしまうところがあって。例えば会社でも、喫煙室で何かが決まってしまうとか、会社の会議ではない、仲間内で大事なことが決まってしまったり。あとは、実力がある人にかわいがられないと出世しないとか、一匹狼(おおかみ)でいると、気づいたら「お前はあの先輩にいろいろやってるのか? 俺はやってるよ」みたいな。自分の知らないそういう世界があったりということを聞いたりすると、男の人もなかなか大変だなと。女性が会社を辞めるとき、「一家を背負って」とかまでいかない場合も、男の人ってどんなに自分がしんどくても、家族が路頭に迷うことを考えたら辞めるに辞められないとか。そういう結果、自殺率が高かったりすることをみんな体感として分かっているのに、あんまり口にしてこないし、しづらいみたいなところがあるんじゃないかというのはすごく思いました。

今回の話を描くときに、私は別に専門家でもないし、何か解決策を持ってるわけでもないので、いろんな人に話を取材で聞かせていただいて。そのときに思ったのは、結構上の人たちも、「下がどんどん変わってくると変えざるをえない」みたいな。「今どきそんなのないっすよ、古いっすよ」みたいなのが1人、2人だったら「お前は分かってないな」とか言えるけど、大多数を占めてくると、「上として変わらざるをえない、対応しないといけない」、みたいになってくるんだというのもあるし。
だから、下の人は「上がこうだから」と我慢せずに、「おかしいんじゃないですか、そんなの今どきどうですかね?」みたいなことをどんどん発信していった方がいいんじゃないかと思います。実際、例えば私たちのころって、男子と女子で家庭科とか技術とか分かれていたのが、今は男子も家庭科とかをやって。子育てとかも、電車で子どもが泣いていても上の世代の人は「うるさい、電車の中に赤ん坊を連れ込んで」とか思うけど、若い30代の新米パパさんとかは、「うちの子だったらと思ったらヒヤヒヤで」とか、「あの子は大丈夫?」とかのパパさん目線になっていたりとかして、だんだん下の世代から変わってきているので、そういう波をどんどん押し上げていったら上もちょっとずつ変わっていくんじゃないかという意味で、ちょっとは希望は持ってるんですけど。

気になる今後の展開は…?

――「逃げ恥」続編の連載が始まって1年ほど経ち、主人公たちの妊娠・出産、産休・育休といった問題が描かれていくのかと思いますが、今後の展開を少しだけ教えていただけますか。

海野さん: 実は、もうすぐ終わるんです(笑)。

――えっ!?

海野さん: 2月発売の号が最終回です。もともとこれは子どもが生まれるまでの1年間(11か月)を追っていく話を描こうということで始まったので。
「逃げ恥」を再開して思ったんですけど、すごいしんどくて(笑)。私自身が独身で子どもも産んでいないので一から調べるんですけども、描いている「Kiss」という雑誌は女性誌で、上の年齢の方、子どもを産んでいたり、結婚している方が多いので、読者は知っているけど作者は知らないことを描くことになる。情報は年々アップデートされていくので、調べても古い情報だということもあるので、新しい正確な情報を描かなきゃいけないし、しかも調べれば調べるほど「人による」という。結局、人によって全然違う、正しい1つの答えがないところを描くので、毎回調べるのが大変で。「大変な所に手を出してしまったぞ」みたいな感じで毎回描いていたんです。

――衝撃の発表があったところですけれども、改めて今後への抱負をお聞かせください。

海野さん: 正直なことを言うと、とにかく休みたい(笑)。「このあと半年は仕事しません」と言っていて。ある程度代表作になるような話を描いて、その代表作を背負うようなことを続編を描くことで知って結構大変だと感じたので、あとはもう「売れたい! 社会のために!」みたいなことを考えずに、自分の描きたいものを細々と描いていけたらいいなと。
「逃げ恥」も「これで世界を変えてやるぜ!」みたいなことを思って描いていたわけでは全然なくて、主人公が生活していくうえで「これってどうなの? もうちょっとこうしたらうまくいくんじゃないの?」みたいなことを軽い気持ちで描いていたことが、たぶんそこが説教くさくないと思ってみんな読んでいて、「なるほどな、ちょっとまねしてみよっかな~」みたいな感じで思ってもらえたんじゃないかと思うので、そのスタンスは崩さないで、あんまり気負うとやっぱりしんどいと思うので、自分の好きな感じで描いていけたらいいなって思います。

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