流産を繰り返さない。着床前診断という選択 (前編)

ざっくり言うと
妊娠が成立する前に受精卵の染色体や遺伝子に異常がないかを検査する着床前診断
流産や体外受精でつらい思いをしている人に、この方法があることをまず伝えたい
2020/01/13 ラジオ深夜便 「流産をくり返さないために」阿形路子さん(着床前診断を推進する患者の会幹事)

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くらし・健康

2020/01/13

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2019年に生まれた赤ちゃんの数が90万人を割り込み、統計開始以来過去最少を更新しました。原因の1つが晩産化です。女性は年齢が上がると受精卵の染色体の異常が増え、流産してしまう確率が高くなります。「流産をしない、繰り返さない権利」を掲げ、流産率の低下と着床率の向上を目的とする「着床前診断を推進する患者の会」幹事で、自身も着床前診断を経て昨年出産した阿形路子(あがた みちこ)さんに、お話を伺います。


――阿形さん、よろしくお願いいたします。3月に男の子が誕生されたということで、今は、9か月?

阿形さん: そうです、9か月になりました。

――毎日、いかがですか。

阿形さん: 楽しいです。望んだ状態がようやくかなったっていう毎日を過ごしてます。

――にこやかに話されているので幸せが伝わってきます。阿形さんが出産されたのは46歳のとき?

阿形さん: はい。46歳です。

――着床前診断によって、ということなんですよね。それまでは結構苦労されたんでしょうか。

阿形さん: 結婚が42歳でしたので、1年間は自然妊娠できるんじゃないかと思ってチャレンジしてました。でもできなくて、43歳のときに体外受精を初めてしました。2回目に採卵したときの卵を初めて移植したんですが、そのときに妊娠しました。とてもラッキーなことだったと思います、確率的に言えば。
ただその卵、とてもグレードのいい、見た目がいい卵だったんですけども、流産しました。その流産で胎児を検査に出したんですけども、原因が2か所の染色体異常で、移植をしたら必ず流産してしまう卵だということが分かったんですね。

――そのときは……、とても、言葉ではなかなか言えないと思うんですが、ショック、だった……。

阿形さん: 自分が流産するまでは、つらいとか悲しいという思いはするだろうなという想像はついてたんですけども、これほどまでつらいものかということが初めて体感として分かったんですね。何て言ったらいいんだろう。言葉で表現できない。あの、自分の、今までの人生で、これほどまでつらいものはあるんだろうかと思うぐらい、何もしてなくても涙がはらはら出てきて止まらないという日々が続きました。どうだろう、今まで……。小さいころに、母親が家を出ていったんですけども、家族がいなくなる、引き裂かれるというか、そういう思いと同じぐらい、大事な家族がいなくなるというぐらい、痛烈な思いを感じましたね。流産なので我が子なんですけども、おなかにいるから1回も会ったことも見たこともないですし、そのときは1cmぐらいの小さな我が子ですけども、大きさとか過ごした時間とか全然関係なくて、自分の子がこの世からいなくなる、この苦しみは、一生消えないと思います。

――その後、着床前診断を受けられるわけですけれども、出生前診断とは違うものなんですよね。

阿形さん: 出生前診断は、妊娠してから血液の検査とか羊水の検査とかで胎児に異常があるかどうかを調べる検査ですけども、着床前診断は、体外受精で卵と精子を体の外に取り出して受精させたあと、子宮に戻す前に、その受精卵に異常があるかどうか、染色体の数に異常があるかどうかを調べる検査になります。

――着床前診断は、どのようにして知ったんでしょうか。

阿形さん: 流産したときに、ネットをこと細かに調べました。流産しなくてすむ方法があるかどうかを、毎日毎晩、長い時間検索しました。それでようやく「着床前診断」という言葉にあたり、これを受けてみたい、チャレンジしたい、賭けてみたいと思いました。

――誰かから紹介されたというわけではなくてインターネットで知ったということで、最初、不安はありませんでしたか?

阿形さん: 不安というよりも、一筋の光が見えたと思いました。とにかくわらにもすがるような気持ちで、流産をしなくて出産に至る方法が何かあるんじゃないかと思って、とにかく見つけようと思って、その思いだけで検索していました。

――体外受精というのは、見た目ですとか発育状況から受精卵を選んでいるわけですが、着床前診断というのは、受精卵の染色体や遺伝子を調べて、いわゆる異常がない卵を戻すと。

阿形さん: 私のように40代も過ぎて考えるとなると、8割、9割は、染色体異常の受精卵になってしまうという形になります。そうすると、着床したとしても、ようやく妊娠したと思っても、6割~8割の方が流産という形になってしまうんですね。着床前診断をした受精卵を戻すと、どの年齢であっても70%くらいの妊娠率と言われています。そして流産率は、どの年齢であっても10%ぐらい。
そういった意味では、流産を少しでも減らしたい、可能性を低くしたいと思われている方にはとても有効な検査ですし、体外受精を何度も移植しているんだけれども妊娠しないとかうまくいかないという方は、染色体異常の卵という可能性もとても高いですので、着床前診断はとても有効になると思います。

――着床前診断は、事前にカウンセリングを受けたということですね。

阿形さん: 「遺伝カウンセリング」というのがありまして、それを受けないと着床前診断に進めないという形で行っていました。受精卵を扱うということで、それって「命」じゃないですか。大切な命を、軽く、じゃあ、「検査したから移植しましょう」とか、どうだどうだって言って「排除しましょう」っていうような気軽なものでは決してないと思うんですね。大切な命を扱うからこそ、しっかりと向き合うということを、全員に、本気で向き合っていただきたいと思いますし、遺伝カウンセリングがあったからこそ、私は「本気でこの卵を育てていこう」と思いましたので、遺伝カウンセリングと着床前診断は、できればセットで広まっていただきたいなと思っています。

――実際、何回ぐらい採卵をされたんでしょうか。

阿形さん: 私は10回採卵しました。

――どのくらいの期間でですか?

阿形さん: なるべく休職期間を短くしたいと思いましたので、毎月、採卵をできるかできないかを確かめて、できたら採卵をするという形で、12回チャンスはあるんですけども、そのうち2回は、体がうまくいかないということでできなかったんですが、10回、とにかく続けられるだけは続けたいという思いでしました。

――もう、相当、根気のいることですよね。

阿形さん: そうですね。毎日薬を飲んだり、注射を自分でおなかに打ったりして、そうやって卵胞を育てていくんです。病院にもしょっちゅう通わないといけませんし、心身ともに、結構、つらいものがあったと思います。

――実際、着床前診断をして、いわゆる正常な卵というのは、いつごろ採れたんでしょうか。

阿形さん: 4月に採卵を始めて、10月1日に採れたものだったんですね。

――日にちまで、今でも……。

阿形さん: もうね、忘れられないですね。やはりうれしかったですね。年齢的にも難しい部分はあると思ってたんです。採卵時は44歳でした。44歳ではなかなか正常な卵は難しいと遺伝カウンセリングのときにも言われたんです。でもそれでも、私は自分が納得したかったので。自分が本当に正常な卵を排出しているのか、それとも遺伝子異常のものしか排出していないのか、それを着床前診断で確かめることができたら、不妊治療を終えるための納得できる材料に、自分自身に対してなるんじゃないかなと思っていましたので、とにかく自分の状態を知ろう。産めるのであれば産むチャンスをつかもうと思って、検査をしていました。

――そして結果は、正常卵の数は、いくつ?

阿形さん: 最終的には1個です。

――10月1日の?

阿形さん: そうなんです。もう1個見つかるんじゃないかと思いながら採卵しましたけど、結果的には1個しかありませんでした。もうこの子にかけようと思いました。この子は生まれてくる子になる。そう決めるしかないですよね。

――そして、妊娠が分かるわけですが、どうだったんでしょう。そのときのお気持ちは。

阿形さん: 震えが止まらないというか。こんなにうれしいのに、怖いというか……。うれしいんだけども、やっぱり流産の影が、出てくるんですね。毎日毎日、きょうも大丈夫だった、きょうも大丈夫だった、っていうのを積み重ねていく。出産まで積み重ねていくという気持ちで過ごした部分はゼロではないです。

――そして3月に産声を聞くことになりますが、そのときはどのような心境でしたか。

阿形さん: 産声が「ホニャー、ホニャー」って聞こえた瞬間に、もう号泣しました。うれしくて、うれしくて。もう本当に生まれてきてくれたんだ、息をしてるんだ、本当に生きてるんだ!っていうふうに、言葉で言えないぐらい感動というか、こみ上げるものがありました。

<流産を繰り返さない。着床前診断という選択 (後編)>

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