金田一秀穂×三浦徳子 アイドル歌謡の作詞術④

ざっくり言うと
著名な編集者の兄とは逆に、読むのも書くのも嫌だった三浦さん
偉大な先達に負けないほどの歌を今の子どもたちへ
2019/12/29 ラジオ深夜便 謎解きうたことば ゲスト:三浦徳子さん(作詞家)

音楽

2019/12/29

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三浦徳子さんは、歌謡曲だけでなく、子どもを対象にしたテレビ番組の楽曲の作詞にも取り組まれています。歌詞の語感を大切にする三浦さんが、子どもたちへの歌に込める思いとは。

【出演者】
金田一さん:金田一秀穂さん(日本語学者)
三浦さん:三浦徳子さん(作詞家)


メロディーと声があるから作詞できる

金田一さん: 青森県弘前のお生まれです。
三浦さん: 生まれたのは青森市らしいんですけど、育ったのは大鰐町という温泉街。スキー場があるところに小学校3年生まで。そこから八戸に移動。
金田一さん: お兄さまが『ユリイカ』『現代思想』などを手掛けた編集者の三浦雅士さん。
『現代思想』、僕は一生懸命読みました。「あれを読まなくちゃインテリと言われないんだ」と信じていましたから。若い子で『ユリイカ』『現代思想』を読まないと言ったら、「お前、バカじゃないの」みたいな感じ。最新号を一生懸命買ってきて。
三浦さん: それは大喜びですよ。
金田一さん: あのころの若者にとっては神様みたいな…難しいことが書いてあるんです。
三浦さん: あのころ、難しそうな文体がはやっていたんです。
金田一さん: そういうお兄様と一緒に育った?
三浦さん: 中学までですね。向こうは高校生で、もう下宿していましたから。
金田一さん: お兄さまの影響はありますか?
三浦さん: 全然ないです。逆に「字を書くのは嫌だな」と思っていた。「それのどこがいいんだろう」と思っていました。
金田一さん: でも、字を書く仕事になっちゃったわけです。
三浦さん: だけど、私は向こうと違って3分だから。3分か4分、我慢すればいい。それ以上長いのは書けないですよ。それに、音楽だからできているわけです。
金田一さん: いわゆる自由詩、メロディーを含まない詩には興味はない?
三浦さん: 全然書かないです。書けないと思う。メロディーに触発されてやっとできるから。
あと、声があるからね。「この声で歌いたい」という、いい声を持っている人がいて初めて「この声にはこの言葉を歌わせたい」となるわけですよ。それで初めて言葉が浮かんでくる。
「白いノートに言葉だけを」というのは無理だと思います。

「言葉の組み合わせ」のボキャブラリー

金田一さん: そういうときに言葉が浮かぶためには、お勉強というか、語彙を増やしておかないと。
三浦さん: そんなことは全然。語彙を増やすことは、別にいいことでも何でもないと思います。自分が知っている言葉の組み合わせで十分できるから。
面倒なことを歌いたい人なんていませんよ。鼻歌で出てくるものは、日常生活の言葉のほうが歌いやすいと思う。
金田一さん: 谷川俊太郎さんなんかは、そういう易しい言葉で作っています。
三浦さん: 谷川さんの詩をたまに見ると、「すごくいいことを書いている」と思います。
金田一さん: 1度谷川さんとしゃべりました。「語彙は量じゃなくて質だよ」と言われた。
三浦さん: なるほどね。そういう言い方をすればそうだけど、「質」というよりも組み合わせですよ。「質」というのは、組み合わせをしないと出てこないから。「これとこれを組み合わせちゃうんだ!」「そうするとこんなに気分よくなるんだ!」みたいな。だから、いい加減な性格の人には合っている仕事。
金田一さん: ずっと「いい加減」とおっしゃっていますけど。
三浦さん: 私、努力をしたことがないから。
金田一さん: でも、詞を作ることはお好きなんですよね?
三浦さん: 歌謡曲の詞を作るのは好きですね。合っている。たまたまそれが合っていて、それが続いているだけですよ。ラッキーといえばラッキー。人には「すごくラッキーだよ」と言われる。「君みたいに努力しないで、そんなことをしてるなんて」と。
私の場合は、本よりも、街をぶらぶら歩いて「こんなところでこんなことをしている」みたいな感じです。好奇心はあります。書物に書いてあるものじゃなくて、みんながふだん話している言葉とか。ジムへ行っても、インストラクターとしゃべったりするほうがおもしろい。
金田一さん: 最近のおもしろい言葉、気になった言葉は?
三浦さん: うーん…。最近好奇心がちょっと減っているかも。

昔の童謡に負けないように

金田一さん: 三浦さんは子どもの歌やEテレの曲も作られていますね。
三浦さん: <にほんごであそぼ>や<いないいないばあっ!>。<いないいないばあっ!>は0~2歳をターゲットに。
金田一さん: Eテレって時々おもしろい、不思議な…ナンセンスだけど、楽しいですよね。
三浦さん: レベルが高いです。たぶん世界中の番組の中で一番先頭を走っていると思う。
どこの国に行っても、子ども番組を見るんです。<にほんごであそぼ>や<いないいないばあっ!>みたいなのはない。日本の番組は優れていると思います。
金田一さん: 前衛的というか、一番先鋭な雰囲気がありますね。大人が見ても。
三浦さん: 他の国の制作者が見たら、みんなまねすると思いますよ。
金田一さん: 子どもの歌には、昔は童謡があったわけです。北原白秋だの西條八十だの、という伝統があった。この間、若い人、40~50代ぐらいの人としゃべっていたら、「ふるさと」とかを知らないんですよ。「『さざんか さざんか さいたみち』というのがあるでしょう」と言ったら、「は?」と言われた。さびしくなった。
三浦さん: 日本人が貧しくなっているんですよ。
昔の歌は教えていくべきだから、<いないいないばあっ!>では「夕焼小焼」や「かくれんぼ」とかも歌ってます。その中で自分の曲も歌うから、あまり見劣りするとダメなんですよね。だって、昔の童謡はすばらしいから。
金田一さん: 恐ろしく優秀な人たちが作っているわけです。中田喜直にしろ。
三浦さん: そこで一応肩を並べて、そのあとに流れるのは力が入りますよ。「夕焼小焼」に負けないようにしておかないと。付け焼き刃じゃダメなんです。
金田一さん: すごいですよね。レベルが高い。もっと子どもの歌ですてきな曲があったらいいのに。
三浦さん: 本当にそれを目指しています。今の子どもたちの「夕焼小焼」になるといいなと思っています。
子どもは豊かになってほしいですからね。
金田一さん: <いないいないばあっ!>では「風のおはなし」「ワンワンパラダイス」といった曲。もう1つ少し上の世代…上の世代といったって、5~6歳。<にほんごであそぼ>でもよくやっていらっしゃいますけれど、そこでも不思議な曲、すてきな曲をお作りになっています。「TOBALI」という曲。
「うるわしすぎるほどに 風の色 ふりさけみつつ 笑いさざめきあう 乙女たち をのこたち 我らHey! Hey! Hey! Hey!」って、わけが分からないんですけど。こういう音の美しい言葉を復活させたい、知ってもらいたい?
三浦さん: ディレクター、プロデューサーがそういう感じなんです。「日本語を大事にしよう」と。
金田一さん: ただ、日本語を大事にするというのは、自分の言いたいことをきちっと言えるようになってほしいと思うんです。語彙が増えるのはいいのかもしれないけど、自分を正直にきちんと言おうよ。
三浦さん: まったくそうですよ。
金田一さん: こうやって、三浦さんみたいなプロの人たちがしっかりとやっていただけると、「はい、お願いします。頑張ってください」と僕は言う役なんです。

■<金田一秀穂×三浦徳子 「謎解きうたことば」>おわり

<金田一秀穂×三浦徳子 「謎解きうたことば」③>

<金田一秀穂×三浦徳子 「謎解きうたことば」①>

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