金田一秀穂×三浦徳子 アイドル歌謡の作詞術③

ざっくり言うと
歌詞で大切なのは、意味よりも音の感覚
コマーシャルソングで培われた作詞力
2019/12/29 ラジオ深夜便 謎解きうたことば ゲスト:三浦徳子さん(作詞家)

音楽

2019/12/29

記事を読む

作詞家・三浦徳子さんの作品の中でもっとも知られているものの1つ、郷ひろみさんの「お嫁サンバ」。この歌詞をあっという間に書き上げたという三浦さんの作詞の心得に迫ります。

【出演者】
金田一さん:金田一秀穂さん(日本語学者)
三浦さん:三浦徳子さん(作詞家)


意味よりも音を重視 「お嫁サンバ」

金田一さん: つづいて取り上げるのは郷ひろみさんの「お嫁サンバ」。声は独特ですね。
三浦さん: そうでしょう。特別な声なんですよ。
金田一さん: 「金属的」というか。
三浦さん: 「人間じゃない」みたいな。
金田一さん: この曲は詞が先なんですよね。そうすると、三浦さんが「こういう詞を作りたかった」と?
三浦さん: というよりも、これは…酒井政利という、山口百恵さんを世に出してヒットさせた名物ディレクターがいまして。彼が郷くんも担当していた。
ある日私に、「三浦さん、『お嫁サンバ』ってどう思う?」と。向こうが出してきたタイトル。
「え? それ、いいじゃん。すごくいいよ、酒井さん」ということで、「お嫁サンバ」というタイトルで詞を先に書いたんです。書いて出した詞は、1つも変わってないです。「1、2、3バ」も「2、2、3バ」も、全部自分が書いて、それに小杉保夫さんが曲をつけてくれた。
金田一さん: よく読んでいくと、わけの分からない…「意味が難しい」と思いながら。
三浦さん: いい加減なところがいいみたい。
金田一さん: まあ、調子のいい曲だし、郷ひろみだからあまり罪にならないし。
三浦さん: 彼は「絶対歌いたくない」と言ったんですよ。それはそうだよ。カッコよくやってきていたから。「これを歌うの?」という感じを、酒井さんが説得した。
金田一さん: 三浦さんの詞って、音で持っていく。言葉の音が大切なんですね。
三浦さん: 私、意味よりも音が大事です。
歌の中で、意味は面倒なものなんですよ。だって、昔の「煙草(たばこ)ふかして口笛ふいて」という、「それ、どうやって一度にできるんだ?」みたいなものがあるじゃないですか。調子がよければ、どうでもいいんですよ。
金田一さん: それは本質を突いているのかもしれないですね。
三浦さん: だから全然悩まないですね。悩むとお客さんに「この行のところで悩んだな」と見破られちゃう。
なるべく自分の体調をよくしておいて、「朝のひと仕事だ! エイヤ!」みたいな感じで、よければ30分だし、1時間ぐらいでできないと絶対ダメ。1日かかったらダメな詞なんです。「お嫁サンバ」もあっという間に書きました。
金田一さん: 字数、音数が合わないといけない。タイトルがサンバだから、なんとなく「サンバだな」と。
三浦さん: 「お嫁サンバ」だから「1、2、3バ」なんです。いい加減な性格がよく出ている。

作詞家は24時間営業

金田一さん: 考えるのは大変だろうな。
三浦さん: いや、そんなことないですよ。結局、1行目が出れば大丈夫なんですよ。タイトルを見て1行が出れば、あとはスムーズに…。
あとが出ないときは、やめちゃう。昔は締め切りがすごくて、1日で3曲あったりした。そのたびにお風呂に入ったりシャワーを浴びたりして、自分に「疑似朝」を作って「朝だ」と自分に思い込ませるわけです。そうしないと出てこない。
金田一さん: 30分。すごい。時給にしたら大変ですね。
三浦さん: 売れれば。
金田一さん: 労働時間というのは、作詞家の方はどんなふうに?
三浦さん: ずっとじゃないですかね。ほっつき歩いているときも、考えていることは考えているんですよ。
新聞のチラシでも訴えかけてくるときもある。刑事じゃないけど、いつも手がかりを探している。
金田一さん: ノートは持ち歩かなかったんですか?
三浦さん: 全然つけてないです。最初のころは持っていたけど、今は全然。そこにあるもの、何にでも書いています。紙があれば、レシートでも何でも。
それを見て、「そうか、このときにいいことを思いついていたんだ」と。
金田一さん: でも、2000曲も作ってきたら、限度があるじゃないですか。
三浦さん: 時間がたっぷりあったから、そうなっただけ。
金田一さん: どうしてもまねしちゃう、マンネリズムになっちゃう、似たパターンになっちゃうとか…。
三浦さん: そういうことはあるかもしれませんね。なるべくそうならないようには気をつけていますけど。
金田一さん: 売れた曲の「柳の下のドジョウ」を狙うみたいなことで行けたから…?
三浦さん: それはないです。飽きっぽいんですよ。だから忘れちゃう。
今回みたいに、自分のやってきたことを見せてもらったのは初めてですよ。
金田一さん: よく作詞家さんの「全曲集」とかがあるじゃないですか。
三浦さん: そういうことはまったくない。今回初めてディレクターの方がやってくださった。感謝。
そろそろ、そういうことしないといけない年齢だと思うんだけど、こういうことをしたのは初めて。だからびっくりしました。

コマーシャルを作る感覚で作詞

金田一さん: これで、いろいろお声がかかってきちゃうかもしれないですね。
三浦さん: 今、いい声がいないんです。「この人に書きたい」みたいな歌い手がいなくなっている、というのかな。今、みんなグループでしょう。
その中でもいい声の人もいるんでしょうけど、分からないし。昔は素質のある人しか出てこないけど、今はそうじゃない人が出てくるじゃないですか。分からなくなっちゃうんですよ。
金田一さん: 昔は、作詞家・作曲家・歌い手ときちんと分かれていて、会社にはディレクターがいて、それで売るのがシステムとしてあった。今「作詞家さんは一体どこに行っちゃったんだろう?」と思うことがあるんです。
三浦さん: そういう曲がないですよね。
金田一さん: 自分で作って自分で歌う人がほとんどになっているような気がする。若い子たちの歌を聴いていると、大体みんな自分たちのことを歌っている。「昔ながらの」というのは演歌の世界にしかなくなっちゃっているような。
三浦さん: 古賀政男とか、浜口庫之助さんとかもいい。何も悩んでいないですよ。そこがいいんですよね。悩んだら負けだから。小林亜星さんにしても、「ワンサカ娘」はうまくできているもん。
金田一さん: 三浦さんは最初に小林亜星さんの事務所で仕事されたそうですね。
三浦さん: そのとき20代でした。それでも真面目にきちんと話をしてくださった。
「三浦さん、もしここの世界で生きていくんだったら…AからBCDEランクまで仕事はある。人間もそのぐらいいる。だけど、Aランクの人からの仕事だけをしなさい。どうしてかというと、Dランクの人と仕事すると、次もDランクの人になる。そうなっちゃうからダメなんだよ」
金田一さん: でも、最初にAランクとつながるのは難しいですよ。まあ、小林亜星さんみたいな人のところに入っちゃえば、それで行けちゃうところがあるけど。
三浦さん: 仕事していると、それが分かると思う。区別するわけじゃないんだけど、才能は分かるから。
顔に出ちゃいますよ。
金田一さん: 小林亜星さんは、あまり努力しない?
三浦さん: いや、分からないですよ。分からないけど、努力のあとが見えない曲ですよね。事務所に狭いピアノ室があった。そこへ入って、20分ぐらいで出てくる。「もう曲ができちゃったんだ」と。早いですよ。
金田一さん: そこで三浦さんも「作ってみようか」と、デビュー。
三浦さん: 最初の夫がコマーシャルのアートディレクターだったので、コマーシャルソングに。絵を作って音もそれにかぶせて、全部キャスティングして…という人で。
次の日にCMソングを歌って完パケにしなきゃいけないときに、詞がなかったんです。それで「お前、これを書いてみろ」と。それが詞を書いた初めです。それで「おもしろいかもしれない」と思って、ちょっと続いただけ。
CMソングをやっていたら、オリビア・ニュートン=ジョンの「ジョリーン」の訳詞を頼まれた。それから歌謡曲に行ったんですよ。最初が八神純子さん。ラッキーというか。
金田一さん: 制約というか、お題を与えられて作っているんですね。
三浦さん: そのほうが楽ですよ。決められているものがあるほうが、考える時間も少なくて済むし。
詞を先にして全部自分が引き受けると、大変ですよ。いろんな絵も考えなきゃいけない。というか考えちゃう。「この人はこういう衣装で、こうやってやるのかな」と。デビューについても、何も言われないで頼まれることが多かった。
コマーシャルって、スポンサーのために何個も詞を用意するんですよ。スポンサーに選んでもらうという作業があるんですね。
金田一さん: 「お嫁サンバ」も「お嫁サンバ」という言葉(タイトル)があったわけですね。
三浦さん: タイトルがあったら、もう50%できているみたいなもんです。
金田一さん: 自分で自由に作りたいことはない?
三浦さん: あまりないですね。結局共同作業になっちゃうから。曲とも共同作業だし。「いいアイデアがあれば乗ろう」という感じ。「そう来たか。じゃあこう行こう」みたいな。
自由って、すごく不自由。大変なんですよ。自分で枠を決めないと始まらないから。詞を書くときにはタイトルが決まればもうOK、遊びに行ってもいい。
金田一さん: 自分の可能性を広げてくれることはあるかもしれないですね。
三浦さん: 自由というのは考えものです。
金田一さん: 八神さんの曲の前に、高田みづえさんの曲を作っている。「DÔMO DÔMO」ですか。
三浦さん: 「DÔMO DÔMO」って、コマーシャルっぽいじゃないですか。コマーシャルをやってなかったら、そういう発想にはなってないと思う。これは私が考えたんです。曲は加藤和彦さんでしたね。
金田一さん: それが42年前。それから「みずいろの雨」がヒットしたわけですね。そして、石川ひとみさん、河合奈保子さん、吉川晃司さん、浅香唯さん、瀬能あづささんと作品提供が続きます。

<金田一秀穂×三浦徳子 「謎解きうたことば」②>

<金田一秀穂×三浦徳子 「謎解きうたことば」④>

Related Articles関連

Latest新着

トップページへ戻る