のん×片渕須直監督 ふたたび「すずさん」と ①

ざっくり言うと
1000日以上のロングラン作品に吹き込まれた新たな息吹
のんさんによみがえった「すずさんの皮膚感」
2019/12/09 ラジオ深夜便 インタビュー 「さらにいくつもの片隅を描く」

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2019/12/09

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【出演者】
片渕さん:片渕須直さん(映画監督)
のんさん(俳優)


『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』は、2016年の大ヒット映画『この世界の片隅に』の続編やロングバージョンではありません。新たなエピソードが追加されたことで、主人公の「すずさん」を含む登場人物たちの機微がより細やかに表現されています。
多層的に進展する作品世界について、監督・片渕須直さんとすずさんの声を演じたのんさんにお話を伺いました。

3年ぶりの『この世界の片隅に』

――今回の作品と3年前の『この世界の片隅に』との違いは、どういったところにあるのでしょうか。

片渕さん: 『この世界の片隅に』をご覧いただいた方から、「主人公の“すずさん”という人が本当にいる人みたい」と言っていただいたんです。「本当にいる人だったら、1人の人間にもいろんな面がある」と思って、前の映画では描かれなかったすずさんの側面も描いている。「すずさんって、前はこんなことをしゃべっていたけど、あれはこういう意味だったのか」という新しい意味が全体に行き渡る。
続編でもないし、ディレクターズ・カットでもない。新しい映画だと思っていただけるといいと思います。

映画は2時間ぐらいで作るのが、興行としては望まれることなんです。でも、2時間でこうの史代さんの漫画『この世界の片隅に』を描くと、どうしてもどこかの部分はおろそかになってしまう。おろそかになってしまうぐらいだったら、まるごとカットしてしまって別の機会に委ねようと思っていた。
改めて作り足し始めると「違う映画だ」と思ったので、題名も違うものにしました。
『この世界の片隅に』は『この世界の片隅に』として相変わらずあって、『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』という新しい映画を作って、2本あることにしようと思ったんです。

――のんさんは、3年ぶりにすずさんを演じられましたね。

のんさん:
最初はファンみたいな感じで、観る側の方たちと同じように「新しいシーンが付け足される!」って喜びであふれていたんです。だけど、いざやるとなったとき、期間を置いて同じ役に挑むのが初めての経験だったので、「大丈夫かな?」って緊張しました。
最初は3年ぶりだということで気を張っていたんですけど、何度も作品を観たり原作を読み直したりして、新しいシーンに対してすずさんをどう考えるかを構想していくうちに、なんとなく「すずさんの皮膚感」がよみがえってきました。
スタジオに入って監督のお話を聞きながら演出を受けているうちに、監督への信頼が強くなっていく。前回録音したときに受けた演出と、作品を観てから「こういうことだったんだ」みたいなものとを、すり合わせていくことができたんです。落ち着いて「監督を信じればいい」みたいな気持ちでいることができました。

――3年前は片渕監督を質問攻めにして役作りをされたと伺いました。今回はどうでしたか。

のんさん: 今回は質問攻めにはしてないです。監督から脅されたりして、それで「気合入れなきゃ」みたいなことはありました。

――監督からは、どのようなお声がけがあったんですか。

片渕さん: すずさんの夫・周作さんを先に録音していたんで、「周作さん、今度はこんな声を出してるぞ」とだけはあらかじめ伝えていました。「すずさんはそれにどう受け答えするのかな?」と現場で楽しみに待っていた感じです。

――『この世界の片隅に』は、2016年のキネマ旬報日本映画ベスト・テン第1位、第40回日本アカデミー賞の最優秀アニメーション賞などを受賞しました。1000日以上のロングヒットという大きな反響を、監督はどのように振り返られますか。

片渕さん: アニメーションではあるんだけれど、のんちゃんの演じたすずさんという人が本当にいる人みたいで、すずさんの周りの時代も、映画をご覧になる方がそこに行ったみたいに体験できる。そこにいるすずさんという人が何回も会いに行きたくなるような人だった。それがうまく作り出せていたんじゃないかと思うんです。何回もこの映画を観て、「またあの場所に行って、すずさんと一緒のときを過ごそう」と思う方が増えてくださった。
それから、実際に戦時中の時代を体験していた70代・80代の方々が映画館に足を運び、アニメーションの観客層としてはあまりないんですけれど、「確かに、あの時代はあんな空気だった」「自分たちもあそこにいた」と思ってくださった。そういう方々がたくさんいらっしゃったことが、この映画が今まで…「この映画」じゃないな。前の映画になるんですね。『この世界の片隅に』が、ずっと映画館でかかり続けていられたことの理由だったんじゃないかと思います。
のんさん: ここまで上映が続く映画に関わるのは初めてだったので、すごくうれしかったです。
公開されたときは、すずさんの声のことを褒めていただけました。私にしかできなかったと言っていただけることもあったし、「広島弁がうまい」って褒められたときは一番誇らしい気持ちになりました。
片渕さん: 広島弁に違和感がないだけじゃなくて、今の広島弁じゃないんですよ。昔の広島弁なんです。おばあちゃんのしゃべり方がちゃんとそこにある。
映画を観ていると、若いすずさんがおばあちゃんのしゃべり方をしている。そうすると、「うちのおばあちゃんにもあんな娘時代があったんだ」ということが思い浮かべられます。それくらいのものをのんちゃんが演じてくれていた。僕もその感想を聞いて、誇らしい気持ちになりました。

――今回3年ぶりに一緒に仕事をされて、のんさんの印象や成長を感じましたか。

片渕さん: 3年間、のんちゃんのお芝居を観に行ったり、ライブで音楽をやるところを観に行ったり、ずっとのんちゃんと触れ合いながら来ていた。3年ぶりという感じもあまりなかったし、「改めて」という感じもなかった。ずっと一緒に来たその末に、マイクの前に立ってもらっているんだと思えました。
逆に、すずさんの声を全部録り終えたときのほうが、「3年かかったけれど、すずさんの声はもう録らなくなっちゃうのか…」と心に来たものはあります。

<ふたたび「すずさん」と ②>

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