追悼・兼高かおるさん④ 「旅は自分を試す“テスト”」

ざっくり言うと
2019/01/26 ラジオ深夜便 「深夜便アーカイブス <"世界の旅"から見えてきたこと④>」 旅行ジャーナリスト 兼高かおるさん
能力を生かすためには、未知の場所で驚きに出会い「もっと知りたい」と感じる
若い時に習っていくものは、この地球上で生きていくためのもの

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2019/01/26

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2019年1月5日に亡くなった旅行ジャーナリスト・兼高かおるさんのインタビュー後半です。
旅先でさまざまな危険に遭遇してきた兼高さんですが、80歳代になっても社会活動などを続けていました。それは、「お世話になった世界のために恩返しをする」という、地球規模で活動してきた兼高さんのユニークな哲学に基づくものでした。


海外で最も気をつけたことは「安全」

――最近は危険な地域にもずいぶん出ていきますけれど、気を付けないといけないことはありますか。

兼高さん: 暗闇の中を外国人が歩くことすら、よくないことだと思います。

――暗い所を歩かない。

兼高さん: 「何でもやっていい」っていうことじゃないんですよ。日本でもやらないようなことを外国でやってみると事件を起こすかもしれません。その人の認識の程度によりますね。

――兼高さんが海外に行って気をつけていたことは、どんなことですか。

兼高さん: いろんな人と知り合いますけど、車の中で知り合っただけとか、道で知り合っただけの人に、私の名刺渡すとか、「ホテルはどこに泊まってる」「日本に来たら遊びに来て」なんてことは言いません。

――どういう人かまだ分からないからですね。

兼高さん: どの国にいても同じことだと思いますけど。
あまりよく知らない人に食べ物を誘われた時。これも要注意です。何が入っているか分からない。

――そういう危険もあるんですね。

兼高さん: 昔はそんなに心配しなかったんですよ。だんだん地球全体的に人が変わってきているのでね。自分が注意するぐらいで、本当はいい人かもしれないけれど、分からないから。

――ともかく身を守るのは最低限しなきゃいけない。

兼高さん: ええ。取材の時に何が起きるか分からないですからね。「いつどうやって逃げるか」をちゃんと頭に置いてましたね。

――逃げ方も想定して取材されていた。いろんな所へ入り込んでらっしゃいましたから。

兼高さん: 南米のコロンビアで、森の中のある種族を取材したんです。その種族を取材したいために、「あなたの村に連れてってください」って言って知り合いましてね。
その知り合いの1人が、連れてってもらうのに、お土産にお酒を1本買って、その彼の住んでる森の中の村に行ったんです。「村」っていうより、ちょっと何軒かある程度ね。森の中を歩いて丸木橋も渡って…「森」っていっても、茂ってなかったから明るいんですね。
撮影をして、お酒を飲んでるわけですね。だんだん怪しくなってきたんですよ。
それで私は、まずわれわれのスタッフの道具。「この道具を早くしまって」って言って。しまって、パッと逃げる用意して。私はその間ずっと話をして、カメラマンたちは片づけて。
それで、「それ」ってわけで、カメラマンとスタッフの2人を先に出して、それから私が出て、「さよなら」って言って出たんです。ところが、森の中って四方同じ景色なんです。どの道から来たか分からなくて。「来る時に丸木橋を渡った。こういうふうに右に来た、左に来た」って覚えていたけど、反対側になったら、みんな同じに見えるんですね。
これは大変だと思いましてね。まあ、無事には出てきたんですけど。向こうの人が追っかけて来たらもう大変だと思ったけど、酔い潰れたらしくて大丈夫だったんです。
まず、お酒をあげちゃいけない。

――いけないんですか。

兼高さん: いけません。節度がないから。

――何かが起きる可能性がある。

兼高さん: 可能性がありますね。

――ほうほうの体で逃げ帰ったっていう。

兼高さん: 一応は帰り道をちゃんと見てたつもりなんですけど、振り返ってみたら違うんですね。

ソロモンの毒草に触る

――ほかにもそういう危険なこともあったんでしょうか。

兼高さん: 失敗として申し上げると、そんな感じ。森の中によく入りますけれど、森の中の一本道で来た時はいいんですけど。
私の場合、今も生きてますから、全部無事に済んできたんですけど、「毒の草」があるんですよ。そういうのを知らないで触ったりすると、ひどい目にあいますね。
ソロモン(諸島)に行った時に…私、大抵素足なんですね。素足で、いつでも脱げるようなもの履いている。棒や傘とかを持っていて、草なんかを払って歩く。茂みに入った時は草に触らないつもりでやってきたのに、翌朝の夜明けあたりからすごく脚が痛くなってきて。
「草で切ったのかな」と思って、少し明るくなるのを待って見たけども、傷はない。赤くもなってない。全く普通の状態なの。だけど猛烈に痛いんですね。
さっぱり分からなくて、夜が明けてから医者に行ったんですよ。行ったら、炭団(たどん)のような色をした方でね。白い上着を着てるから、薄暗い部屋でその白い上着だけがイスに座ってるような感じ。
ちっちゃい声で、「これは毒の葉に触った。生きてるからいいじゃありませんか」って言われましてね。村人たちは裸で入りますでしょ。死人が出るぐらいの毒の葉ですって。

――そんなものがあるんですね。

兼高さん: あるんです。ソロモンだから、アメリカ兵も日本兵も入って。トイレをして紙がないからうっかりその葉で拭いたりして、あとで七転八倒した人たちがいるんですって。

――現地に行ってみないと入らない知識がいっぱいありそうですね。

兼高さん: いっぱいあります。知らないことだらけです。初めのうちは「知らないのがみっともない」と思いましたけどね。知らなくて当たり前。だから、そうやってどんどん知識を吸収していくのがまた面白い。この仕事はやめられない。

旅は「自分を試すテスト」

――危険な思いまでして世界の旅を楽しむ。旅の魅力は何ですか。

兼高さん: 「自分をテスト」することにあるかもしれませんね。それを上手に切り分けてくるという。
やればやれる。人間ですから。旅は「若さの泉」って言いましたけど、「自分が何をできないか、何ができるか」を知るのにもいいんです。誰も助けてくれませんからね。自分の頭で行動して処理する。

――その時には男も女も肩書も関係なく、自分が試される。

兼高さん: でも、私はいつもカメラマン一緒ですからね。お互いの…何て言うんですかね、助け合う気持ちも大事なんですね。

――頼りになる人がそばにいるかいないかで、全然違うでしょう。

兼高さん: そうですね。頼りになるかどうか、わかりませんけどね。人間がそばにいればね、なんとかできることありますでしょ。

――旅が嫌になったことはないですか。

兼高さん: ないですね。それは全然ないですね。

――帰ってくると、「また次に行きたい」という気持ちですか。

兼高さん: もちろん。旅に行ってる時、取材してる時に、「もう少し日にちがあったら」と思うし、「また来よう」と思いますね。それほど取材するものはいっぱいある。

――若い世代、中年世代、それからリタイア後。世代によっておすすめの旅は違いますか。

兼高さん: もちろんです。まずは人それぞれ違いますね。
私の知ってるご夫婦で、旦那様は野生の動物が見たいけど、奥さんは嫌いで、パリのファッションを見たいって。夫婦でもこのぐらい違いますし。ですから、人それぞれの旅行の仕方があると思います。「こういうふうにしなさい」って言われた通りにやらなくていいし。ご自分の好きなようになすったら。今、世界はそんなに怖い所じゃないですからね。

――行きたい所に行けばいいということですね。

兼高さん: そうです。自分で自分にテストしてみるんですね。

――どの世代も、旅は行くべきだと思いますか。

兼高さん: もちろんです。特に、日本の都会に住んでると、非常に狭い社会ですね。同じような建物で、同じようなものを売ってて、特徴がないですね。
いろんなものを知るほうがいいと思います。そのほうが頭の刺激になって、年を取らないと思いますよ。

――旅をすれば年を取らない。

兼高さん: 若さの泉。

――兼高さんの元気の秘密は旅ですか。

兼高さん: 旅で得る刺激と知識と、それから欲でしょうね。「もっと知りたいという」とか、「もっとしたい」とかね。

能力を生かすには「見て発奮する」こと

――兼高さんが今の人々を見ていて、どんなことを思ってらっしゃいますか。

兼高さん: 若い人と、年配の人では違いますもんね。
今若い人は、何か…気分がない。新聞を読んでたら、昔は若い男は車を欲しがってた。今、車も欲しくないんですってね。

――それは、エネルギーが少なくなったということですか。

兼高さん: それが発奮の力になるんですけどね。今の人は欲しいものがないっていうのか、欲しいものは考えるまでいってないぐらい、余裕がないんじゃないかしら。とにかく時間がなさすぎますね。若者たちが行って何かしたい望みを持っていかないと、日本が滅びちゃいます。

――多分海外に行ったこともなければ、その魅力も知らない。国内でも同じですけれども…。

兼高さん: 国内でも、見たことないものを見ていく。そして知っていく。理由を知ったり、「こうしたほうがいいんじゃないか」と考えたり。
自分の能力をどんどん生かすことを考えないと。能力を生かすのは、自分が見た所から発奮するんですね。

――兼高さんは、いろんなとこへ行って自分を発奮させてきたのですか。

兼高さん: アメリカに初めに行って、驚きと、「もっと知りたい」となってくるわけで。
あまり勉強してないのも、とてもいい経験でね。勉強してないから、「自分の無知」を知っているから、「知らなきゃ」と思う。いい刺激になったんです。

――今の人はほどほど豊かだから、意欲を失なわせているのかもしれません。

兼高さん: そうだとすると非常にもったいない話ですね。同じ生きるなら…説教くさくなりますけど、地球上に現れた以上は、地球のためというか、地球上のすべてのために、自分がいるから。「何かしているんだ」っていうものがあったほうがいいと思うの。

「人生の3分割」とは

――兼高さんは、「人生の3分割」を唱えてらっしゃると伺いました。

兼高さん: それはね、3分の1は若い時。何にも知らないですね。だけど、いろんなものを習っていくわけでしょ。その習ったものは結局、この地球上で生きていくためのものを習うわけ。生きてくことは、いろんな人やいろんなものに厄介になるわけですから、それに尽くせるものを習う。
そして3分の第2段階は、今まで習ったことでそれに尽くす。人のため、地球のためなるようにまで尽くす。
それからあと、最後の3分の1は、自分の好きなようにする。「3分の1」じゃなくて、「1・2・3の段階」ね。

――期間の3分の1ではないんですね。

兼高さん: 期間じゃなくて。どれが長くなるか分かりませんけど、結局真ん中が一番長くなりますね。最後の方は、年取ってくるし。自分の経験を生かしてずっと働きたかったら働ければいいし、ようやく自分の時間になるから俳句やピアノがやりたいなら、それをなさればいいし。旅行なさりたければ旅行すればいいし。最後はご褒美ですよ。

――兼高さんご自身は、今はどの段階だと思ってらっしゃりますか。

兼高さん: 本当は最後の所に来てるんですけど、仕事が好きですね。だから、ちょこちょこと仕事の続きをやっています。

――さまざまなことされていますよね。兼高かおる旅の資料館の名誉館長さんもされていて、時々海外に行ってらっしゃる。日本旅行作家協会の会長さんでもあるし、東京都港区の港区国際交流協会の会長さん。結構お忙しそうですね。

兼高さん: まだあるんですよ。鳥。日本鳥類保護連盟の理事をしてます。それから、UWC(ユナイテッド・ワールド・カレッジ)っていう国際学校があるんです。これは英国で始まった学校で、国際人を育てる学校なんです。日本からも毎年送ってます。

――まだ社会に尽くす段階で、自分だけのために楽しく時間を過ごす段階には入れそうもないですね。

兼高さん: 自分だけのはまだね。でも、好きで楽しんでるんだから、第3部に入ってるっていえば入ってるんですよ。

――今、人生は楽しいですか。

兼高さん: 楽しいですね。あと、丈夫でいないとね。丈夫でいれば、楽しめますね。

楽しく生きるコツは「蓄積」

――人生を楽しく生きるコツは何でしょうか。

兼高さん: それまでの蓄積があると大きいと思いますね。自分の蓄積で、あまりつまらなくないと思う。

――まだ蓄積できる段階の時は、なるべく自分の中に吸収するのですか。

兼高さん: 蓄積があれば、それを生かして楽しめる。知識だけじゃなくて芸事でも。
今年の初めぐらいまで私、旅行の学校の校長もしてたんですね。入学する人に、「学校に入ったんだから、しっかり勉強しなさい。だけど勉強だけじゃなく、芸も少し、きちんとね」と言ってました。
例えば、お茶でもお花でもピアノでも、何か芸を1つ持つ。そうしたら学校だけの友達じゃなくて、学校以外の友達もできる。大人になった時でもそういうものができれば、また違うサークルで新しい人脈もできますし、楽しみもあるでしょ。ですから必ずそういう芸を持つ。ほかのこと、スポーツでも音楽でもいいし、勉強以外に何か持つように。
今の社会人も仕事以外にそういう時間を持つようにして続けていれば、第3部に入った時も、時間を十分に使えて楽しめると思う。

――世界を巡るだけではなく、いろんな世界を持つ。

兼高さん: そうです。いろんな違う社会の人たちと付き合えば、またお話も面白いでしょうし。

――気分を変えて、ほかの世界を見て、今の流れを変えることは大事かもしれませんね。

兼高さん: どうやって変えます?

――兼高さんの今までのお話を総合すれば、海外に出てみようかっていう気にもなりました。多分時間の流れが違うでしょうから。

兼高さん: でも問題は今、日本の人に余裕持たせないとね。あんまり忙しすぎるのはよくないですね。人間らしく生きれば、ほかの人への貢献ができるんです。
ほかの人っていうのは、日本だけじゃなくてもね。
日本の人は優秀な人間が多いでしょ、幸いなことに皆さん教育があるんですしね。伸ばそうと思えば伸ばすことはできるんですよ。それには余裕を与えなきゃいけませんね。

――余裕を持って自分を生かす。

兼高さん: 自分を生かせば人様へも役に立つ。

――旅だけでなく、生き方の根本まで教えていただきまして、ありがとうございました。

追悼・兼高かおるさん おわり

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