実践!マインドフルネス③ 「食べる瞑想」

ざっくり言うと
2018/07/24 ラジオ深夜便 「からだの知恵袋」ぶれない心を育む③ 川野泰周さん(精神科・診療内科医)
食べる瞑想 「冷暖自知(れいだんじち)」
一口に集中することでとぎすまされる感覚

くらし・健康

2018/07/24

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こころと体を整えて、新しい年をスタートしませんか? <ラジオ深夜便>「からだの知恵袋」でお送りしているシリーズから、日常のさまざまな場面で実践できる瞑想(めいそう)法をご紹介します。教えてくださるのは、ご実家のお寺で住職のお務めをされながら週2日精神科医・心療内科医として治療にあたっていらっしゃる川野泰周さんです。


生活に取り入れてこそ意味を成す「冷暖自知」

川野さん: 皆さんは、今日の夕食、何を考えながら食べていましたか? ご家族とテレビを観ながら、あれこれと昔のこと・先のことを考えながら、あるいはスマートフォンを見ながらでしょうか。会社の接待で会食していたかもしれません。目の前の食べ物を心から味わい、わき目もふらず集中して食事をしたという方は、おそらくほとんどおられないのではないでしょうか。
実は、以前アメリカで行われた調査で、現代人は起きている時間・活動している時間のなんと46.9%も「心ここにあらず」の状態で、目の前のことに集中しない状態で過ごしていることが分かったというんです。およそ半分の時間、心ここにあらず、なわけですから、食事中もあれこれ考えたり、ながら食べをしたりして、食べることに集中できていない人が多いんです。

禅語に「冷暖自知(れいだんじち)」という言葉があります。これは、水が冷たいか熱いかは、実際に飲んだり、触ったりして初めてわかるという教えを通して、禅の神髄はただただ修行の実践を持って体得することができることを示しています。
つまり、マインドフルネスを精神療法として考えていく際、実際に行動して取り組んでみることが大事なんです。習って、学んで理解することも大切ですが、それだけでは十分でなく、実際に生活の中で取り入れてこそ初めて意味を成すものです。

■実践! 食べる瞑想■

今日は食事がテーマなので、実践編は「食べる瞑想」といきましょう。食事はするのが当たり前。その「当たり前のこと」にあえて全身全霊で注意を向けて大切に味わってみるというのが「食べる瞑想」です。

普段の食事の最初の2口か3口だけで結構ですから、まずは目で料理をじっくり観察し、次に目を閉じて、立ち上る香りを堪能してみてください。それからゆっくりと口に入れ、味が染み出してくるのを十分に楽しみながらひとかみ、ひとかみと咀嚼(そしゃく)するのです。
これ以上細かくかめないというくらいにかんでから、ゆっくりと飲み込みます。喉元を食べ物が通って胃に落ちていく感覚すら体験していただきたいと思うんです。これを最後まで続けていたら、もちろん食事は1~2時間かかってしまうでしょう。でも最初の2口か3口なら数分間かければできるはずなんです。

口に入れて飲むという行為であれば、どんな食べ物でも使うことができます。海外のマインドフルネス実践講座では、レーズンを1粒、ゆっくりと堪能して食べるというのを基礎の導入として使ってるんです。


川野さん: 実はこれは体にも良いということがいろいろな研究の中でわかっています。「食べた」という感覚で、お腹も心も満たされるために、普段よりも少ない量の食事で済むんです。減量に成功した事例もたくさん報告されてるし、糖尿病を患っていらっしゃる患者さんにおいて血糖値のコントロール状態が改善したとか、必要なインスリン注射の単位数が減ったという報告も臨床研究において発表されています。

修行の場でも大切な「食事」

――川野さんはお坊さんでもいらっしゃいますが、食事についてはとても厳しい修行があるんだそうですね。

川野さん: 禅の修行道場では「三黙堂」といって、「食堂(じきどう)」「禅堂(ぜんどう)」「浴室」の3つの場所では決してしゃべってはいけないという厳しい規則があります。食事の作法も、箸の置き方・持ち方からおわんのあげ方まで、一挙手一投足が細かく決められています。このような規則によって、修行僧は食べているときに、食べることにしか集中できない状況をつくって、自然にマインドフルネスを体現する。マインドフルネスが古(いにしえ)より続く禅の伝統に基づいていることがよくわかります。

――今、非日常の環境に身を置いてマインドフルネスを体験するツアーが人気だそうですね。

川野さん: 「修養(しゅうよう)」、これは「リトリート」という海外の言葉で訳されるので、私もそう呼んでいます。修行と言うと厳しそうですが、リトリートのねらいは、普段の生活を離れて自分自身の存在と向き合う時間を持つことです。男性女性問わず、ビジネスパーソンからシニア層まで幅広い年齢層の方が興味を持って下さっていて、長野県の飯綱高原や瀬戸内海に浮かぶ美しい小豆島で2~3日間、泊まりがけで行ってるんです。大自然の中、坐禅とかヨガを行うだけでなく、食事の時間には今お話した、食べる瞑想をやりますし、お散歩の時間にも自然の中を歩く瞑想で体験いただいています。
食事中一切声を出さずに沈黙を保ったまま、その味や香りに集中することで、普段感じたことのないご飯粒の甘さ、おみそ汁の温かさと野菜のおいしさをしみじみと感じた、といった方も少なくありません。大量の情報が飛び交う現代では、私たち人間が本来持っている五感という素晴らしい能力が、マスクされてしまっている・封じ込められてしまっている気がします。

――香りやあたたかさに鈍感になっている、ということですか?

川野さん: 五感、「見て・嗅いで・感じて・聞いて・味わって」ということになりますけれども、それが鈍感になっていることで、6つ目の感覚としてよく言われる「意識」、心のありようというものにも鈍感になってしまっていると言われてるんです。ですから改めてそういうことを意識して、普段いかにこの感覚を発揮できないでいるかを知ることが大事なんです。食べる瞑想で大切にご飯をいただくことでも、感覚がとぎすまされて、香りやあたたかさや食感などを豊かに得られるわけです。

食事という行為は、まさに私たちが自然の恵みをこの身体でいただく、感謝に満ちた営みであるはずです。明日の朝食からでもランチからでも結構です。日々の食事においてほんの最初の1口か2口でもいいから、マインドフルに食べるという行いを実践し、食べる行為を通して心が整ってゆくことを体験していただきたいと思います。

「実践!マインドフルネス④」につづく

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