実践!マインドフルネス② 「歩く瞑想」

ざっくり言うと
2018/07/17 ラジオ深夜便 「からだの知恵袋」ぶれない心を育む② 川野泰周さん(精神科・診療内科医)
歩く瞑想=「歩歩是道場(ほほこれどうじょう)」
歩行に集中することでイライラの連鎖を断ち切る

くらし・健康

2018/07/17

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こころと体を整えて、新しい年をスタートしませんか? <ラジオ深夜便>「からだの知恵袋」でお送りしているシリーズから、日常のさまざまな場面で実践できる瞑想(めいそう)法をご紹介します。教えてくださるのは、ご実家のお寺で住職のお務めをされながら週2日精神科医・心療内科医として治療にあたっていらっしゃる川野泰周さんです。


行いのすべては修行!

川野さん: 今回は少しステップアップして「歩く瞑想」。元になっている禅の言葉に、「歩歩是道場(ほほこれどうじょう)」というものがあります。日常のどんな物事でも、一瞬一瞬集中して取り組むことこそが禅の修行そのものであることを説いた言葉です。
禅の修行というと、ひたすら禅堂で身じろぎひとつせずに坐禅を続け、少しでも動いたり、うたた寝したりすると、怖い先輩の修行僧がやってきて、警策(けいさく)で背中をバシっと叩くイメージを持たれる方が多いのではないでしょうか。
私も鎌倉にある臨済宗の大本山、建長寺の道場で3年あまりの修行生活をさせていただきましたが、実は禅の修行は「生活の中の行為すべてである」と、厳しく指導を受けました。つまり食事をいただいたり、歩いたり、畑を耕したり、トイレを掃除したり、庭を掃いたり、板の間を雑巾がけしたり、全てです。
「臨済宗中興の祖」と呼ばれる白隠禅師は「動中の工夫は静中の工夫に勝ること、百千億倍す」と言っています。つまり、坐禅だけしている静かな修行だけでなく、毎日の生活の中の行動、その一つ一つの行いの全てが修行であり、ひたむきに取り組みなさい、ということを教えているんですね。

――「一つ一つの行いが修行となる」。その実践として、「歩く瞑想」を教えていただきます。

川野さん: 「歩く」という、日常生活の中で当たり前のように行っている行為にあえて注意を向け、足の感覚を味わってみるのが「歩行瞑想」です。場所はどこでも構いませんが、なるべく静かで安全な場所、例えば自宅の廊下やテーブルの周り、公園の芝生とか体育館の中などが良いでしょう。車や人の往来には十分に気を付けて下さい。スポーツジムに通っているという方は、プールでの水中歩行が絶好の実践機会です。

■実践! 歩く瞑想■

① 立った状態で背筋を軽く伸ばし、手を前か後ろで組んで、目線は数メートル先の地面にぼんやりと向ける。
いちど深呼吸をして、頭の中をリセット。
右足・左足いずれか片方の足のかかとをゆっくりと上げる。この時、かかとが床との圧力から解放されるのを感じる。
ふわっと足が地面から離れた感覚。

② つま先も床から離れるので、同様に足のつま先の指が体重から解放される感覚に注意を向ける。これで片方の足は完全に空中に浮いた状態に。

③ ゆっくりとその足を前へ少し振り出す。空中をスーッと移動するのを感じながら、無理のないところで着地させる。
足の裏に再び床の感触が戻ってくるので、それを感じるようにする。

④ こうして、片足の一歩を「かかとが上がる」「つま先が上がる」「移動する」「着地する」の四つのキーワードを黙想しながら、足の感覚に注意を向けて歩く。


川野さん: ここで大切なのは、片方の足が完全に床に着いたことを感じたら、その瞬間に反対の足のかかとが上がり始めていることに気付くこと。歩行瞑想のポイントの1つは、この片足からもう片足への「注意の切り替え」にあります。注意を切り替えるという訓練こそがマインドフルネスには大切です。これは例えて言えば、前回の呼吸瞑想で、途中で雑念が出てきたときに一度雑念を認識して、「よし戻ろう」と切り替えた、あの訓練と同じことです。

歩行瞑想は「集中して取り組みやすい」

――実際に動いて行う歩く瞑想のほうが、地面に着いた・離れたの感覚がわかりやすく、集中しやすいかもしれないですね。

川野さん: そうなんです。「感覚がわかりやすい」というのが、歩く瞑想の良いところです。呼吸瞑想ですと集中することが難しいタイプの方や、心を落ち着けることが難しい心理状態にある方にも取り組みやすい方法なのです。歩く瞑想も呼吸瞑想と同様、実践する時間の長さは問いません。数十秒でも結構ですし、極端な話、立ち止まった状態でたった1歩でも足の感覚に集中して踏み出せば、それもれっきとした歩行瞑想になるんです。

私の勤めるクリニックでも、多くの患者さんが歩く瞑想に取り組んでいらっしゃるのですが、ある70代の女性の方は、同居する娘さんとの関係で大きな悩みをかかえていらっしゃいました。娘さんは近ごろ仕事が忙しく、夜に会社から帰ってくると、イライラした口調で母親であるこの女性に、色々な不満をぶつけてくるようになった。「トイレのチリ紙は少なくなったら交換してって言ったでしょ!」「ゴミは収集日の前日にまとめて玄関に置いておいてくれないと、朝出せないじゃない!」といった具合です。女性の方は自分が責められたと感じて、「私だって忙しいんだからしょうがないじゃない」と言い合いになってしまう。そのためにイライラが就寝時まで続き、寝付けないまま数時間も布団で過ごすようになってしまったんです。
お悩み・ストレス・不安の症状に対して、初めは抗不安薬といって、不安やイライラを和らげる安定剤のようなお薬を処方したのです。でも効果は一時的で、根本解決にはなりません。そこで呼吸瞑想を指導しましたが、この女性の場合、イライラや不安な気持ちが頭のなかをグルグルと回っていて、とても呼吸に集中できない状態でした。
治療に用いたのが「歩行瞑想」です。食事の片付けが終わったら、毎日ダイニングテーブルの周りを2~3周、ゆっくりと集中して足の感覚を感じながら、グルグルと歩いてもらいました。すると最初の数回で、足の感覚に注意を向けることで頭の中のイライラの連鎖を一旦断ち切る・リセットすることができました。さらに毎日続けたところ、数か月がたったある日、娘さんに愚痴や嫌味を言われてもイライラしていないことに気付かれた。それどころか「会社でよほどストレスがたまっているんだろうな。自宅でくらいはワガママ言わせてあげようかな。」と、思いやりをもって娘さんと接することができるようになったのです。

この方が素晴らしいのは、根気よく数か月続けたことです。マインドフルネスはどの瞑想でもそうですが、毎日の変化はごくわずかです。しかしコツコツと毎日続けたおかげで娘さんの気持ちを受け止めるだけの心の基礎の部分ができていたんですね。その後はしだいに娘さんの心も穏やかになり、マインドフルネスが伝播(でんぱ)すると言いますかね、笑い声が家庭内に戻ってきたと報告してくださって、私もたいへんうれしく思ったエピソードなんです。
皆さんにもぜひこの歩行瞑想を用いて、毎日「丁寧に歩く」ということを体験してほしいです。

「実践!マインドフルネス③」につづく

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