「パパかママか」ではなく「パパもママも」 離婚後の「親権」を考える

ざっくり言うと
先進国では日本だけ 「単独親権制」の問題点
現実的なアプローチとして注目 「共同養育」「共同監護」
2019/04/18 Nらじ 特集「単独親権と共同親権」

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2019/04/18

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2019年4月18日(木)放送より

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【出演者】
畠山キャスター:畠山智之キャスター
黒崎キャスター:黒崎瞳キャスター
百瀬解説委員:百瀬好道(ももせ よしみち)解説委員
宗像さん:宗像充(むなかた みつる)さん(ジャーナリスト)
上野さん:上野晃さん(弁護士)


「単独親権制度」の問題点

畠山キャスター: 日本では1日あたりに換算すると毎日500組以上が離婚をしています。これは平成30年のデータです。それに伴って一人親家庭も増えている中、離婚した後に子どもを養育・教育する「親権」のあり方が議論されています。
日本は、夫婦が離婚すると片方の親だけが親権を得られる「単独親権制度」を採用しています。しかしこのために、親が子どもに会えなくなる、また子どもが親に会えなくなる、親が子の成長に関わることが難しくなる、といった状況が生まれているという指摘もあります。
近年は、海外で先進国を中心に主流である「共同親権」の導入を検討する動きもあります。引き離される親子の現状や、共同親権とはどんな仕組みなのかについて考えていきます。
黒崎キャスター: 会えなくなった親子の相談や支援をされているジャーナリストの宗像充さん、そして離婚や婚姻など家族法に詳しい弁護士の上野晃さんをお招きしました。
単独親権で起きる問題について教えていただけますか。
上野さん: 日本では単独親権という制度が採用されています。単独親権制は離婚後の話であって、結婚している間は共同親権、お父さん・お母さんどちらも親権者です。
離婚した後、どちらかが親権者になり、親権者でなくなった人は法律的に子どもと他人になってしまう、という状況に置かれます。ですから、当然のようにお父さんもお母さんも親権者になりたい。そんな人たちがたくさんいる結果、この制度でもって、子どもの右の手・左の手それぞれをお父さんお母さんが引っ張り合う争いが生まれています。
畠山キャスター: 今の制度では、親権を得るか失うか、どちらかにならざるをえないのですね。そういう状況で、どんな問題が起きていますか。
宗像さん: 子どもに会えない親が毎年増えている、という問題があります。もちろん、親に会えない子どもも同様です。
私も子どもに会えなかった時期があります。裁判所に申し立てても、2年半子どもに会えなかったんです。それはとてもつらいことです。私たちは子どもに会えなくてつらくて自殺してしまう方のお話を聞いています。
さきほど上野さんがおっしゃったように、「親権を取りたい」あるいは「子どもに会えないことについてどうにかしたい」と裁判所に申し立てる人が増えています。この数年間、離婚件数は横ばいか減少ですが、申し立て件数は15年で3.9倍。すごい量で増えています。
相談に来る人の多くが、「自分の子どもの居場所がわからない」と訴えています。例えば、ある日突然家に帰ったら奥さんと子どもがいなくなっている。慌てて「誘拐かもしれない」と探し回り、その状況で警察署に行くと、「奥さんは安全な場所で保護されています」と言われる。
どうしてこんなことが起こるかというと、DVや虐待の場合、配偶者や子どもたちの保護が優先されます。そのために住所を知りようがなくなってしまう、といったことが起きています。
畠山キャスター: DVの場合はやむをえない措置だと思いますが、DVではない場合もそういったことが起きてしまうと聞いたことがあります。
宗像さん: 会えるかどうかは、子どもの世話を見ている側が事実上決めてしまうので、DVがあっても会わせる人もいますし、DVがなくても会えない人もいます。
畠山キャスター: そういう状況も起きてしまうんですね。

「会えない」心理的負担 進まない「面会交流」

黒崎キャスター: 親が子どもに会えない、子が親に会えない状態は、子どもにとってどういう影響を与えるんでしょうか。
宗像さん: 心理的な影響が調査され、会えない子どもに対して心理的発達・成長において影響があるとわかって共同親権に変わっていった、という流れが海外ではあるのは事実です。
黒崎キャスター: 子どもから「お父さんに会いたい」「お母さんに会いたい」とは言えないんですか。
宗像さん: 最初に話し合って子どもを連れていくのではありません。突然お父さんやお母さんが都合で子どもを一緒に離れていく。連れていった側は(もう一方と子どもを)会わせようとは思ってなくて連れていくわけですから、その時点ですでに子どもは「会いたい」とは言えない状況にはなっています。
黒崎キャスター: 子どもが親の気持ちをはかって「会いたい」と言えなくなっちゃうんですか。
宗像さん: そうですね。
畠山キャスター: 子どもにとってみれば、片方の親と会えなくなるだけじゃなくて、その関係者とも会えなくなることでもありますよね。おじいちゃんに会いたいのに会えなくなることも起きてしまうんですね。
宗像さん: そうですね。
別れるときは、感情的な対立があって離婚に踏み切ろうとするものですから、もともと相手に対していい感情を持っていないのは当然です。その相手方の親御さんとも会わせる理由はなくなる。
畠山キャスター: 親は仲たがいによって離婚をする。親は理解できますが、子どもはそれを理解した上で片親につくわけではありません。子どもにも影響がある気がします。
親が子どもに会えないだけではなく、ほかにどんな影響が考えられますか。
宗像さん: これは私の経験ですが、私には親権がなかったんです。子どもに会いたいと思って学校に行くと、「あなたは親権者ではないじゃないですか」と言われる。「でも父なんです」と説明をしても、「子どものことは教えられません」と言われる。あるいは、子どもに会いに行こうとしたら警察に通報されてしまう。
畠山キャスター: 親権がないことだけで、社会的にそういう立場に追いやられてしまうんですか。
宗像さん: 「会えないのは、もともと会えないような原因があるんでしょう」という先入観があるんです。
百瀬解説委員: 法律で親権がない親、それから夫婦の間で対立化していて親権がどちらにいくかわからない間は、子どもとの面会交流は絶対できないほど厳しいのでしょうか。
上野さん: ここ数年、裁判所も面会交流を進めていこうと努力を見せてはいます。それでも進んではいない。そして結局、裁判所は思い切った判断が出せてない。「宿泊付きで面会しなさい」といった判断はまず皆無です。なので、離婚をする前の別居中であってもなかなか会えない、まったく会えない人もいますし、会えたとしても月に1回、2~3時間ということが多いです。
それだけではなく、別居した直後に子どもが心身に大きい衝撃を受けます。話し合いが始まっても調停がなかなか進まない。そして月に1回話し合いをやって、「また来月期日を入れましょう」となる。そしてなかなかまとまらず、「また来月」となって、半年や1年なんてあっという間にたってしまう。この会えない間に子どもは育ってしまう。子どもの態度や気持ちが変わってしまい、別居親と子どもとの関係が子どもの成長とともにぎくしゃくしたものに変わっていく。面会交流がうまく進まない1つの原因になっています。
百瀬解説委員: 親の間で面会交流を決めてあっても、それができないことも聞きます。その原因はどこにあるんでしょうか。
上野さん: 夫婦間の関係性があるので一概には言えませんが、裁判所での救済手段や取り決めを実行できなかったとき、「取り決めどおりやりなさい」というように軌道修正して正常な方向に持っていく力を裁判所は法的に持っているのですが、周辺環境に法的な整備ができていないがゆえに、裁判所が思い切った判断ができずにいる、という実態があります。

先進国では日本だけ 進まない共同親権導入

畠山キャスター: 日本は単独親権という立場を取っていますが、共同親権の導入の可能性について話題になっています。この背景は何だと思われますか。
上野さん: いくつか要因があります。
1つは、社会的に男女共同参画が進み、家庭での男女共同参画も叫ばれるようになった結果、日本の男性も家庭に多く関わるようになりました。すると子どもに対する愛着も湧くので、愛着のある両親による紛争が生じやすくなった。お互いに「子どもと会いたい」「親権を得たい」という思いが強くなっているのが1つの原因です。
もう1つが、国際結婚・国際離婚の増加。これによって「海外の常識」がダイレクトに日本に伝わったため、日本の現状と「海外の常識」とのギャップが白日の下にさらされたことも要因としてあります。
畠山キャスター: 海外ではかなり共同親権にかじを切るところが多いそうですね。今は先進国の中で日本だけが単独親権になっていると聞きました。
上野さん: お隣の韓国も共同親権を採用しています。
畠山キャスター: なぜ日本は単独親権にこだわっているんですか。
上野さん: もともと諸外国でも単独親権制度が主流だったんです。単独親権は、前提として「父親が親権者であること」があったんです。この考え方の背景には、「子どもは家の所有物、家に属するものだ」という考え方があった。
それに対して、「子どもには1人の人格があり、その人格を尊重して育てていかなければいけない」という考え方が広まっていき、当たり前として受け入れるようになった。その流れで、児童の権利に関する条約が各国で批准され、「父親と母親両方の愛情にはぐくまれて育つこと」が子どもにとって大事だという考えが根ざしたために、共同親権が世界に広まりました。
ただ、日本はその波に乗り遅れている。父親が親権者である時代から、母親が親権者になるのが多い時代にはなっていますが、今なお「子どもは家の所有物だ」という考え方が法的には残っていると評価・指摘する人もいます。
畠山キャスター: 宗像さんは、その辺りの背景はどのように考えていらっしゃいますか。
宗像さん: お父さんとお母さんと子どもがいるのが「普通の家族」だという、日本の家族観が影響しているのもあると思います。
それが一般的なのかもしれませんが、離婚した場合、その家族は壊れますよね。すると「子どものことは忘れて、再婚したほうがいいんじゃないか」とか、同居親の場合は「子どものために再婚したらどうだ」とかよく言われます。そういった家族観が「離婚後の家族のあり方」を左右しているんじゃないか、というのが私の考えです。
畠山キャスター: 親子という関係性があるにもかかわらず、家族の理想像に縛られて、そちらが優先されてしまう、ということですか。
宗像さん: 私は「影から見守るように」と言われました。

現実的なアプローチ「共同養育」「共同監護」

黒崎キャスター: 共同親権では、単独親権との違いは「会える」ということが大きいですか。
上野さん: 「共同親権になる」=「会える」とはならないと思います。別居後離婚前は、今の日本でも共同親権なんです。離婚が成立するまで別居している間は、両親ともども親権を持っている。にもかかわらず、親が子どもに会えていない実態があるんです。共同親権制度を導入したからといって、子どもと会えるようになるとはならない。
ただ、共同親権とはまた別の「共同養育」「共同監護」という別の概念も最近主張されています。親と子どもとを会わせるべきだ、という意識を強く促すきっかけにはなるとは思います。
黒崎キャスター: 共同親権のよさは、何だと考えていらっしゃいますか。
上野さん: 当然のように子どもは父親と母親によってはぐくまれるべきものだと私は思うし、それを制度として担保することは必要だと思います。
ただ、親権は子どもの面倒を見ること以外に、「どこの学校へ行かせるか」「各種の手当の手続きをどうするか」といったような、法的な仕事も権利にはあるんですね。この部分は、共同親権をやると争いを生みやすい。
ですから、「ここは除いて、一緒に面倒を見るところだけ切り取ろう」というのが共同養育や共同監護の考え方です。こちらも現実的なアプローチだと最近注目されています。
黒崎キャスター: 宗像さんは、共同親権のよさはどういうところだとお感じですか。
宗像さん: 共同親権がいいかどうかというより、そもそも子どもはパパとママから生まれますよね。子どもにとって、離婚は「家が2つになること」です。これは、単独親権であっても共同親権であっても変わらない。
単独親権から共同親権に変わるのではなく、ほかの国が子どもの視点に立って「家が2つになることを認めてあげましょう」と気づいたので、制度が変わるきっかけになったんじゃないでしょうか。
百瀬解説委員: お話を伺っていると、「共同親権になればすべてがハッピー」になるのではない、とはわかりましたが、それにもかかわらず、世界の流れが共同親権に向かっている原因はどこにあるのでしょうか。
上野さん: 価値観の変化だと思います。
男女のあり方について時代の流れや変化も大きいと思いますが、児童の権利に関する条約、「子どもの権利条約」が法的には大きいと思います。
これは1990年に発効して、日本も94年に批准しています。ここで、「お父さんとお母さん両親に愛情を注がれることこそが、子どもの最善の利益である」と高らかにうたっているんです。この条約は非常に意味が大きかった。これで世界各国が共同親権に大きく舵(かじ)を切っていった、という時代の流れはあります。
百瀬解説委員: つまり、親の利害よりもまず子どもの立場を尊重することを考える。そういう共同親権的な考えでやっていくほうがいい、ということですか。
上野さん: 現場の家庭裁判所では、対立している人間、調停員、裁判官、みんなが「子どもの福祉」「子どもの利益」を言うんですけども、そう言いながら全然違うベクトルの話をするんです。「子どもの利益」が何なのか、難しいと思います。
子どもの利益はいろいろあるけれども、一番重要なのはお父さんとお母さんの両方に関わること。お父さんとお母さんの愛情に接しながら育っていくこと。これが最重要の子どもの利益だ、というのが世界各国で共通認識とされています。
畠山キャスター: 離婚した後も、ということですね。

「パパかママか」ではなく「パパもママも」

畠山キャスター: 子どもにとって、「親とともに暮らす」とは「会う」ということですよね。どうやって会うんですか。共同親権になると、親が完全に籍が分かれても、親同士が話し合って会う日程や方法などを決めていくんですか。
宗像さん: 日本の場合は、離婚するときに親権だけを決めて役所に提出すれば離婚できます。
共同親権の国では、面会・養育の時間、養育費を決めて裁判所に提出し、初めて離婚できるんです。その取り決めは裁判所命令となって、守らなかったら犯罪になってしまう。
畠山キャスター: 仲たがいした親が養育日数や養育費を決める場合、いつ会うのかを話し合って決めるわけでしょう。その親同士の話し合いの場はうまくまとまるんでしょうか。
宗像さん: 共同親権の国であればガイドラインがあって、半々の養育時間を分け合うことができない場合は、週末や夏休みの過ごし方のモデルといった具体的な例を離婚する親に対して提示して、両親が2人で話し合います。最初からすべて手探りで決める、という話にはならない。
畠山キャスター: 子どもの権利を優先することが、日本でできるでしょうか。
上野さん: 絶対できると思いますよ。ほかの国がやっているのに、なぜ日本だけできないのか。
畠山キャスター: お互いに考え方の相違で離婚したわけでしょう。でも、もう1回「子どものために」気持ちを合わせるわけですよね。できるのでしょうか。
上野さん: よく共同親権で懸念される例をご紹介します。お母さんは「A学校に行かせたい」と言う。でもお父さんが「絶対B学校だ。ハンコは押さない」と言って、子どもが学校に行けなくなる、という問題です。
こういう場合、外国の一例だったら、「この部分の意思決定についてはお父さん」「この部分の意思決定についてはお母さん」というように、共同親権だからといってすべて2人で決めるのではなくて、分属させる。「学校について決めるのはお母さん、これについてはお父さんが決める」というように決定権を半々にする。その部分についてはそれぞれ1人で決めていい、というようなことで乗り越えているケースもあります。
畠山キャスター: なるほど。
日本の今の制度には問題点もある。でもずっと続いているのだからメリットもある、と考える方もいらっしゃると思います。今後、子どもの権利を第一に考えるとすれば、どういったことが課題になると思われますか。
宗像さん: 今の制度は、お父さんかお母さんを「子どもに選ばせている」と思うんです。これからの制度は、「パパかママか」ではなく「パパもママも」という制度にしないといけない。
今の制度だと子どもが苦しむし、両親も子どもから離れて苦しむことになる。私も子どもの世話を見ていた時期がありますので、会わせたくない親の気持ちもよくわかるんです。
「パパもママも」というあり方だったら、ためらう親も会わせるようになると思うんです。そこに期待したいと思います。

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2019年4月18日(木)放送より

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