中江有里さんのブックレビュー 大林宣彦『最後の講義』監督の惜しみないメッセージ

ざっくり言うと
「映画とは、フィロソフィー」。「流行りそう」ではなく、自分にとって切実なテーマを描く
「表現はリアクション」。美しい花を見て笑う。緑がきれいだから絵に描く。表現とはそういうこと
2020/05/01 NHKジャーナル 「マンスリー・ブックレビュー」 ゲスト:中江有里さん(女優・作家)

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2020/05/01

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本に関わりのある4人の専門家が「今、おすすめの本」を紹介する「マンスリー・ブックレビュー」。女優で作家の中江有里(なかえ ゆり)さんが選んだのは、大林宣彦『最後の講義 完全版』(主婦の友社)です。大林監督は4月10日、肺がんのため82歳で死去されました。『最後の講義』は、NHK-BSで放送された番組を、未放送部分も含めて書籍化したものです。
中江有里さんは、大林監督の新・尾道三部作の第1弾『ふたり』や、監督の遺作となった『海辺の映画館―キネマの玉手箱』(公開日未定)にも出演。小説『残りものには、過去がある』『トランスファー』などの著書もあります。関東甲信越向けのNHK<ひるまえほっと>では、「中江有里のブックレビュー」に出演中です。

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毎週月曜~金曜 午前11時30分(一部地域)

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――大林監督にまつわるエピソードを教えてください。

中江さん: 監督はお話が本当に上手で、完成披露試写会といった関係者の集まる場所、あるいは観客を前にした舞台挨拶でも、しばしば予定時間を超過して話されました。監督は自身の持つ時間や内容を出し惜しみしない方で、その場にいる人たちに驚くほどのメッセージやエピソードを話してくださいました。『最後の講義』も、そんな空気が伝わってくる1冊です。

――『最後の講義』について、くわしくご紹介いただけますか。

中江さん: 早稲田大学で行われた<最後の講義>は、監督の幼少時代の話から始まります。監督は昭和13年(1938年)、日中戦争の最中に生まれ、物心ついたころには太平洋戦争が始まっていました。知っている人が次々に亡くなっていく、そんな環境に育ち、常に死は隣り合わせ。いつも「最後」を意識していた。監督の作品は反戦への想いがあるとよく言われますが、常に平和な世の中を望んでおられて、その願いは映画を通じて表しておられたように思います。

本書には「映画とは、フィロソフィー」とあります。フィロソフィーは哲学と訳されますが、私なりに解説すると、「自分の心」だと思います。私自身、小説を書いていますが、書き始めるテーマは自分の心が動いたものを設定します。「おもしろそう」とか「世の中で流行(はや)りそう」という理由では書けなくて、テーマが自分にとって切実なものでなければ完成しません。
監督は、映画会社に所属しない、いわばインディーズ、フリーの立場を貫きました。その根底には、自身のテーマを映画にするというこだわりがあったのではないかと思います。

――『最後の講義』には、大林監督の多くの印象的な言葉がありますね。

中江さん: 表現者として刺激を受けるのは、「表現はリアクション」という言葉です。これは、監督自身からは聞いたことがない言葉でした。表現というと「アクション」、動くこと、行動すること、あるいは俳優の演技を指したりしますが、監督いわく、「表現は、美しい花を見て笑うこと。緑がきれいだから絵に描こう、そういうこと」。この言葉にはハッとさせられました。
リアクションとは、「気付き」ではないだろうか。現状、人類は感染症という脅威を前にしていますが、ここでもリアクションという言葉は通用するのではないでしょうか。1つの出来事に対し、どう思い、どう行動するか。人に言われてするのではなく、自分の頭で考える……。そんなことを考えました。

――最後に、リスナーの方から寄せられた声をご紹介します。
<大林監督のメッセージが、読みやすく凝縮している『最後の講義』。特に「表現はリアクション」というのは重みがありますね>
<リアクション。コロナウイルスも、「早く終息して欲しい」ではなく「終息させる」という、他人ごと、ひと頼みではない積極性がより大切と感じました>

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