瀬戸内海のイカナゴ減少。水がきれいになったのになぜ?

ざっくり言うと
海の栄養不足がイカナゴをはじめとした漁獲高の減少の理由と判明
瀕死(ひんし)の海からきれいな海へ。水質改善との折り合いをどうつけていくか
2020/04/21 NHKジャーナル 地域発「イカナゴ漁が伝える瀬戸内海の現状・兵庫」

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2020/04/21

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2020年4月21日(火)放送より

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海の栄養不足との関係を本格調査

瀬戸内で取れる小さな魚、イカナゴで作った煮物「くぎ煮」。あめ色で「くの字」に曲がった形が古いくぎに似ているのが名前の由来と言われます。早春の兵庫の味覚として、全国的にも知られるようになりました。

イカナゴの「くぎ煮」

イカナゴの生息域は北海道から九州までと広く、地域によってはオオナゴやコウナゴと呼ばれます。人が食べるだけではなく、海の中でより大きな魚のエサにもなる魚です。体は銀色で細長く、成長すると20cmほどになりますが、くぎ煮に使うのは3~4cmほどの稚魚です。

そのイカナゴが、近年減少しています。平成の初期までは年間2~3万トン取れていましたが右肩下がりで、10年程前からは1万トン前後、この4年間は1000tほどに落ち込んでいます。今シーズンは2月29日に漁が解禁されましたが、操業期間は、明石海峡大橋より東側の大阪湾では実質2日、西側の播磨灘では実質5日。資源保護のために過去最短で漁を終えました。

しかもイカナゴだけではなく、カレイ、タコ、エビなども減ってきているんです。兵庫県の瀬戸内海の年間漁獲高はピーク時には6~8万トンありましたが、ここ十数年は3~4万トンとほぼ半減しています。
背景に何があるのか。明石市にある「兵庫県立農林水産技術総合センター・水産技術センター」が研究に取り組みました。海の水質・水温などの調査や、赤潮発生予報の発表、養殖技術の開発・研究、そしてイカナゴ漁が始まる前に調査船を出して資源量を調べ、漁の期間を決めるための情報提供もしています。
研究を主導したのは、技術参与の反田實(たんだ みのる)さんです。半世紀近くにわたって、イカナゴやカレイなどと瀬戸内海の環境との関係を研究してきました。今回、焦点を当てたのが「海の栄養不足」です。

反田さん: 栄養不足と魚の減少は10年ほど前から関係が疑われていましたが、これまで現場サイドできちんとした調査と分析がなされていませんでした。そこで今回調査をしました。

結果は漁業者の経験則とほぼ一致

海の栄養とは、主に窒素やリン。海の食物連鎖の最底辺を支える植物プランクトンの栄養分です。しかし富栄養化が進むと、赤潮が起きる原因になります。
瀬戸内海は、かつて赤潮が頻発する「瀕死の海」と呼ばれました。しかし水質改善のために行われた窒素やリンの排出規制や下水の処理技術の高度化によって、窒素の濃度はピーク時の半分程度か、それ以下になりました。赤潮も、1970年代には年間60~70件発生していましたが、近年は10件を下回るほどになっています。
その一方で、漁業者は海の様子の変化を肌で感じていました。イカナゴをはじめタコ、タイなどを取っている、明石市の明石浦漁業協同組合の戎本裕明(えびすもと ひろあき)組合長です。

戎本さん: 「水が澄んで魚が取れない」という話は日々の会話でもともとあったんです。それが増えてきた。漁獲量も減っているが、それには現れない「取れているけれど小さい」ということもありました。イカナゴも量が減ってるし、時によっては痩せていると感じることもありましたね。

今回の研究結果は、こうした漁業者の経験則にほぼ沿うものになりました。窒素濃度と植物プランクトンのデータを突き合せると、歩調を合わせるように減少していたのです。透明度の上昇は主にプランクトンが減ったことによるものと考えられます。
一方、イカナゴがエサにするのは動物プランクトン。小さな甲殻類なので十分に食べたイカナゴのお腹は赤くなり、地元では「赤腹」と呼ばれます。

赤腹

青筋

保存されていたおよそ30年分のイカナゴの標本を調査したところ、赤腹の割合が年々減ると同時に、抱える卵の量も30年間で3割ほど減ったことが確認されました。「イカナゴ減少の要因は栄養不足=窒素濃度の低下と考えられる」と結論づけられたわけです。

きれい過ぎる海で魚を育むことはできない

減ったイカナゴを増やすために、海水の窒素の濃度を上げようという取り組みが始まっています。研究によると、「窒素濃度を1990年代半ばのレベルにするとイカナゴの増加が期待できる」とのことで、兵庫県は条例を改正し、「海水の窒素濃度が一定の数値を下回らないように」という下限値を全国で初めて設けました。窒素については、現在、排水処理の過程で国の基準を十分クリアする程度まで除かれているため、その基準値の中で、窒素濃度を高める調整が行われることになります。ただ、改善が続いた水質管理のいわば「逆戻り」のようにも受け取れるため、条例改正にあたって県が募集したパブリックコメントには、「環境のチェックを欠かさないでほしい」という声が寄せられました。
今回の研究と今後の水質管理方針の変化が意味するものについて、県漁業技術センターの反田實さんはこう説明します。

反田さん: 「海がきれいになっているのになぜ?」と思う人がいるかもしれませんが、今の瀬戸内海が「魚を十分に育める海」ではなくなっていることをぜひ知っていただきたい。今後、どんな海として管理すべきなのかを、「わがこと」として考えていただきたいと思います。

外海ではないとはいえ、明石海峡のように海流が激しい海域もありますし、広い海域の全般にわたって窒素濃度が効果的に管理できるのか、そして魚が増えるのかは未知数です。われわれは引き続き水を汚さないよう努めるとともに、今回明らかとなったイカナゴが鳴らす警鐘を理解して海に関心を寄せ続けること。それが、瀬戸内海を豊かな海に変えるのを側面から支えることにつながると感じました。

神戸放送局
田中崇裕アナウンサー

趣味・特技:車、バイクの運転、旅行、カメラ

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2020年4月21日(火)放送より

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