薬物依存を考える① 社会復帰支援施設「ダルク」の取り組み

ざっくり言うと
共同生活で回復を目指す民間施設「ダルク」。未来に希望を持つためのプログラム
施設周辺にはびこる偏見。依存症は病気であるとの理解を深める対話も欠かせない
2020/02/10 NHKジャーナル 特集「薬物依存を考える① 社会復帰への長い道のり」

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くらし・健康

2020/02/10

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覚せい剤や大麻、危険ドラッグなどで検挙された人は、平成30年でおよそ1万4000人。特に覚せい剤の再犯率は高く、6割を越えています。なぜ薬物に手を出したのか。依存症から立ち直るにはどうすればいいか。薬物依存症から回復し、社会復帰を支援するための民間のリハビリ施設「ダルク」の現場を、ラジオセンターの荒木美和アナウンサーが取材しました。


共同生活で依存症からの回復を目指す民間施設「ダルク」

今回、数日間かけて収録に伺ったのは、八王子ダルクです。JR八王子の駅前から繁華街を抜けて、歩いて10分程度の場所にあります。

八王子の街並み

薬物やアルコールの依存症の当事者たちが共同生活をしながら、依存症からの回復を目指します。病院や裁判所に通いながら、掃除・洗濯・食事の準備など基本的な日常生活のトレーニングを行い、自立に向けた準備をして過ごしています。ときには、ダンスや球技を楽しんだり、みんなで料理を作ったり。同じ依存症という病気を抱える人たちが助け合いながら共同で生活していく中で、次第に抱えていた悩みを打ち明けて、お互いを信じ、思いやり、再び社会に戻るための大切なステップを踏んでいきます。

八王子ダルクの施設長の加藤隆(かとう たかし)さん(52歳)も、かつて10年近く覚せい剤を使っていました。

中学校時代にいじめられていた原体験が、加藤さんを非行や薬物に向かわせました。15歳のときに先輩に誘われて覚せい剤に手を出した経験を、こう振り返ります。

加藤さん:
断ったら、俺は「ダサい奴だ」って多分思われてしまう。僕が暴走族やったり悪いことをすごくたくさんしてきた原因には、昔のいじめられっ子、ダサい奴には、もう絶対なりたくなくて。

加藤さんは、昔から自分に自信がなく、再びいじめられる恐怖を紛らわせるために、覚せい剤にはまり込みました。その結果、恋人、友人、まわりの人たちの信頼を次々に失っていきました。「やめろ」と言われれば言われるほど、お金がなくなればなくなるほど、覚せい剤への欲求は強まっていきます。うそをつき、盗みを働くようになり、地元にもいられなくなり、各地を転々とします。

25歳のときに捕まり、懲役2年・執行猶予5年の判決を受けますが、拘置所から出てすぐに覚せい剤に手を出してしまいます。実家に戻り、家具や家電を質に出して覚せい剤を買う姿に、ついに家族から、親子の縁を切るか、覚せい剤をやめるか、決断を迫られます。

加藤さん: もう自分でも、どうしていいか分からなかったし、使えば使うほど僕に問題や苦しさばかりを与えてました。クスリを手放す勇気とか、クスリをやめるイメージが全く持てなかったし。でも、「どうにかしなくてはいけない」っていう背中を押してくれたのが母親と保護司の先生で、「自分で決めてください。やめたいんだったら一緒に病院に行きましょう」って。

病院に行ってダルクに入ることを家族に約束しますが、病院内でも体力が回復してくると再び隠れて薬物を使い、ダルクに行く前にも、「これが最後の1回」と薬物を使ってしまいます。加藤さんは、自分自身の努力では覚せい剤を止めることができなくなっていました。
嫌々ながらダルクで寮生活を始めた加藤さんですが、プログラムをこなす中で、次第に覚せい剤を使わなくても生きていけることに気づき始めました。大きかったのは、ダルクの職員から、薬物をやめることを強制されなかったことだと言います。「やめたい? やめたくない? 自分で選びな」「やめたいなら、一緒にいようよ」。だれに強要されることもなく、初めて心の底から、「『やめたいです』と言えた」と言います。

先輩の姿に自分の未来を重ねて希望を持つ「ミーティング」

回復プログラムの中でも、「ミーティング」が最も大きな効果があったと加藤さんは考えます。ミーティングの中心となっているのが、ひとりひとり発言する機会です。毎回テーマを決めて、薬物の話だけでなく自分の過去の体験や今感じていることを話します。ルールは、相手の話を否定しないことと、その場で聞いたプライバシーは他では話さないこと。自分が依存症という病気であることを認め、少なくとも、きょう1日だけは、薬物やアルコールに依存せずに生きていこうと、仲間とともに誓いを立てます。

国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター、精神保健研究所、薬物依存研究部長の松本俊彦(まつもと としひこ)医師は、ミーティングの効果をこう分析します。

松本さん:
依存症って、一種の忘れる病気で。「もう酒やめた」と思っても、しばらくすると喉元過ぎちゃう。でも、そこにかつての自分、初心を確認することができる。さらにミーティングの場合には、自分の未来もあるんですよ。具体的な未来の自分があって、先輩たちの姿を見ることによって、「この方向で間違いないんだ」っていうことを確認することができる。つまり、希望が持てるんですよね。ミーティングはそういった要素で、回復を手助けするのかなと思っています。

加藤さんも29歳から2年間、ダルクの施設に住み込んで、毎日欠かさずミーティングを続け、自立して生活できるようになりました。以来、23年間、薬物とは無縁の生活を送っています。一緒に薬物をやめ続けている仲間だけでなく、医師や家族、支援してくれる人たちの存在が、再び薬物に手を出さない大きな動機になっていると言います。

加藤さん: クスリをやめると、本当に体の一番大切なところに大きな穴が開いてる状態だと思うんですよ。そこを何か、1つや2つで埋められるものでもないし、物やお金で埋められるものではなくて。いろんな人が僕たちを支援してくれて、いろんな人たちが僕たちを理解してくれるようになって、クスリの代わりになっているのかなって思います。

周囲の偏見。「薬物依存は病気」と理解してほしい

一方で、地域からの理解を得られずに反対運動が起きている施設もあります。
京都府京都市伏見区にある、京都ダルクです。同じ伏見区内に新しく寮を建設しようとしましたが、地元の住民たちから激しい反対運動が起こりました。建設現場の周りには断固反対の看板が掲げられ、抗議の人たちが毎日詰めかけます。
反対している住民の女性は、「私らは怖いから。子どもらのこともあるし」と、治安の心配をしていました。また反対住民を取りまとめている男性は、「怖いと思ったら、『どうして怖い?』と聞かれても人それぞれ違うと思うんですよね。基準がないですから」と、反対する気持ちは理屈ではないと言います。1時間半ほど反対派の皆さんのお話を伺いましたが、薬物以外の犯罪も含めて、過去の犯罪の情報が混ざり合って、「薬物依存症患者=凶悪犯罪者=怖い人たち」というイメージができ上がっている印象でした。

京都ダルクはこれまで説明会を3回ほど開催していますが、理解を得られていません。地域の人たちに少しでも自分たちについて知ってほしいと、地域のお祭りに参加したり、町内清掃を行ったり、施設での生活を紹介する演劇を上演したりしてきました。それでも溝は埋まりません。
施設長の太田実男(おおた みのる)さんは、「僕たちを見てほしいので、『いつでもダルクに見学に来てくれ』ということは言ってます。つらいですけど、つらいって言ってられないんですよ。これが現実。そこからのスタートなんです」と、現実を淡々と受け止めていました。取材のあとも、あきらめずに対話を続けていくと言います。

依存症となっている人たちの根底には、加藤さんのようにいじめにあって深い孤独を感じたり、家庭環境によってトラウマを抱えていたり、社会から差別を受けたり、心の苦しみを抱えている人が多くいます。
国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦医師は、「薬物依存症は病気であるという前提で理解してほしい」と言います。

松本さん: 使うことが犯罪にあたるということが分かっていても使う方たちっていうのは、もはや、快感を求めてクスリを使ってるわけではありません。実は、かねてよりずっと抱えていた痛みや悩みや苦しみが、それを使うことによって一時的に紛れる。この苦痛が緩和されることが報酬となって、依存症になってしまってる。単に薬物をやめさせることだけが支援ではなくって、根っこにある心の問題に対してケアをすること。そういう意味でも、これは健康問題であるってことを改めて強調しておきたいと思います。

私が今回取材したのは、依存症に陥って、自分の一番大切な人たちを傷付けて、仕事も人間関係も失い、何より自分自身を薬物によって痛めつけてしまった人たちです。それでも、みなさん過去の自分を後悔して、何を言われても歯を食いしばって、人生をやり直そう、回復しようとしています。
薬物依存症は病気です。
番組で紹介した、八王子ダルクの加藤隆さんも最後に薬物を使ってから23年経っていますが、今でも毎週ミーティングに通い続けています。加藤さんは、「依存症は一生治らない病気です。僕のアイデンティティは依存症なんです。だからゴールはないんです」と冷静に自らの病気を受け止め、一生回復に向けた努力を続けていく覚悟をしています。

今回の取材を通じて、薬物に苦しむ人たちが自ら助けを求めやすい社会、そして、罪を犯した人が立ち直ろうとしたときに、手を差し伸べられる社会でありたいと感じました。

<薬物依存を考える②>

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