聞こえているけど聞き取れない「聴覚情報処理障害」

ざっくり言うと
聴力検査では「異常なし」。症状を周囲に理解してもらうのがむずかしい
専門の検査を行う病院は全国でも10施設ほど。富山の耳鼻科でも
2019/12/24 NHKジャーナル 地域発「聞こえているのにわからない聴覚情報処理障害・富山」

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2019/12/24

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2019年12月24日(火)放送より

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聴力検査では「異常なし」なんだけど…

「APD(聴覚情報処理障害)」。聞き慣れない障害ですが、「雑音の中で人の声が聞き取れない。聞き返しや聞き間違いが多い。早口や小声が聞き取りにくい」といった症状があります。難聴と似た症状に思われますが、聴力検査を行っても異常がみられないのが特徴です。声として聞こえてはいるけれど、「それが何なのか分からない。理解できない」ということです。なかなか理解されないがゆえに対人関係がうまくいかず、学校の退学や仕事を辞めるケースにつながった例もあります。
当事者が互いに悩みを共有して不安を取り除こうと、12月下旬、東京で交流会が開かれました。福岡や埼玉など全国から、20代~50代の12人が参加して、日常生活で困っている経験を話し合いました。1年半前から開かれ、今回で14回目です。

参加者Aさん: コンビニでアルバイトしてますけど、最初はお客さんの言葉が聞き取れなかったり、店員さんの指示が聞き取れなかったりっていうのはありました。
参加者Bさん: ざわめきがある中で電話を取ると、もう無理。名前がまず聞き取れない。受話器をコードごと廊下に引きずり出してピシンとドアを閉めないと、聞き取れない。
参加者Cさん: ずっと自分は出来の悪い人間なんだと思っていた部分もあったので、同じような人がいるんだな、私だけじゃないんだなっていうのが、一番、安心感が大きかったです。

北陸地方初、富山の耳鼻科でAPD診察

国内の現状について、APD研究の第一人者、国際医療福祉大学准教授の小渕千絵さんに聞きました。

小渕さん: APDに関する講演や話をすると、100人くらいに1人か2人、自分もそうじゃないかっていう方がいらっしゃったりします。その症状を持っている方はかなりの割合いると思っています。

小渕さんが把握するかぎり、APDの細かい検査を行っている病院は全国で10施設ほど。医療機関でもまだ認識が広まっておらず、診察を受けても「異常がない」と診断されることが多いのが現状です。
そんな中、富山市に北陸地方で初めてAPDの診察に取り組む耳鼻科があります。APDの検査で訪れていた富山市内の男子中学生に話を聞きました。

中学生Dさん: 自分が今どういうことで困っているかを言っても分かってくれる人がいないっていうか、支えになってくれる人がいないから、結構つらい時もありました。友達に対しても家族に対しても、聞き返すことがちょっと申し訳ないなと思ってました。

テレビの音が邪魔をして家族の言葉が聞き取れなかったり、教師の声が聞き取れず授業についていけなかったり。そうした悩みをひとりで抱え込んでいたそうです。当初は近所の耳鼻科で検査を受けましたが、医師から「異常はみられない」と診断されました。その後インターネットで自分と同じような症状の人たちがいることを知り、APDの検査を受けることになったのです。
早口の文章が聞き取れるか、両耳から別々に流れる単語を聞き取れるかなど、およそ1時間かけて検査をしました。後日、雑音があるなかで単語を聞き取れるかなどを調べ、結果を見極めることになっています。

「いつも聞き返されるけど、もしかして…」

APDの診断基準はまだ国内で定まっていません。APDの原因がはっきりしていないからです。脳機能の障害や発達障害、心理的要因など、人によってさまざまだと考えられています。今のところは、通常の聴力検査は正常にも関わらず、APDの聞き取り検査で一定の基準から外れた場合に、APDと診断します。
富山市の中学生の診察にあたる耳鼻科医・麻生伸さんは、APDの診断や対策はまだまだ手探りの状態だと言います。

麻生さん: 薬をのんだら治るというものではありませんので、心理的なサポートも含めて周囲の人に理解を深めてもらう努力をするしかないかなと、今のところ思っています。

国はどう考えているのか。厚生労働省に見解を求めたところ、「APD(聴覚情報処理障害)に関しては、今のところ認識していない。今後は国民の声をふまえて、対応を検討していきたい」とコメントしています。今後、医療機関や国に求められることについて、小渕千絵さんに改めて聞きました。

小渕さん: 国内にどれくらい困っている方がいらっしゃるのかという把握であるとか、障害認定であるとか、補助の問題であるとか、いろんな課題があふれていると思います。相互に研究している方、臨床している方が協力してチームを作って、問題解決に向けた動きをしていくことが大事だと思います。

取材を通して、「当事者にとっては、まず家族や友人が理解して接してくれるだけでも安心する」とおっしゃるのを聞きました。皆さんの身近にも、「いつも聞き返されるけど、もしかして」と思う人はいないでしょうか。本人の意思とは別に聞き取れないだけかもしれません。当事者が暮らしやすい社会になるうえでは、周囲の理解が必要不可欠だと感じました。

富山放送局
齋藤湧希(さいとう はやき)アナウンサー

趣味・特技:野球、漫画

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2019年12月24日(火)放送より

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