虐待を受けた少女たちの「居場所」

ざっくり言うと
集団生活で自立を促す女子寮を備えた更生保護施設
仕事探しに伴走し、就職後も「居場所」となって見守る
2019/07/16 NHKジャーナル 地域発「地域で支える少女の更生」

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2019/07/16

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2019年7月16日(火)放送より

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全国唯一、女子寮のある「田川ふれ愛義塾」

子どもへの虐待が大きな社会問題です。虐待を受けた子どもたちを一時的に保護し、自立を後押しする施設を取材しました。施設内で夕食をとっているのは、17歳から20歳の女性たちです。みな、親などから虐待を受け、家庭に居場所をなくし、非行に走った過去があります。彼女たちが暮らすのは、福岡県田川市にある更生保護施設「田川ふれ愛義塾」です。住む場所や食事を一時的に提供し、集団生活をすることで自立を促します。こうした更生保護施設は全国に103ありますが、若い女性だけの女子寮は、全国で唯一です。

3年前に地元でこの女子寮を立ち上げた、施設長の工藤良(くどう りょう)さんに聞きました。「一時保護とかいろいろ含めて約30人の女子を預かりました。9割以上は虐待じゃないかと感じますね。親からの暴力もそう、お母さんの彼氏から性的虐待を受けたりしたら、居場所自体が家からなくなりますよね。根底には愛情不足があって、そこを緩和するために、女性スタッフが、信頼関係を作るというところに時間をかけて細かいケアをしていただいています」

工藤さんは法務省から委託を受け、NPO法人として施設を運営しています。入所者1人あたり、国から1日およそ5000円の委託費を受けています。定員4人の女子寮には、専門のスタッフとして女性3人をあてています。

規則正しい生活習慣のために

去年3月、福岡県出身の女性が施設に入りました。「親の足音にビビる生活だから家に入れなくて、階段で、寝る場所ないから家の玄関の前で朝が来るの待つ。帰りたくても帰れん。誰かに頼るしかない」。幼いころから両親に日常的に殴られていたと言います。女性は居場所を求め、夜の街をさまよい、暴力団関係者と知り合います。覚醒剤に手を出し、17歳で少年院に入りました。少年院を出た後も家を頼れない女性は、同世代の女性たちとの共同生活を自ら望んだと言います。

女性: 同年代だからこそ同じ悩みとかきつさとかあるし、どうやってこの人たちは更生したのか、どうやって人に認められるようになったのか、私はそういうやり方を、言い方変えると、盗みたかった。自分のものにしたかった。

施設が、少女たちの自立に向けて大切にしているのは、まず規則正しい生活習慣を身につけることです。朝9時、全員で掃除を始めます。昼食は正午からの1時間で、調理から片づけまでを行います。午後4時半から夕食と入浴。その後再び掃除をし、午後11時に消灯します。

さらに工藤さんは少女たちひとりひとりに、自分に合った具体的な目標を立ててもらいます。達成可能な目標を常に自らに課すことで、自立に向けて気持ちを切らさない効果があるからです。女性は、「昼間の仕事に就いてお金の使い方を覚える」ことを目標にしました。金遣いの荒かった、夜の世界にいた自分と決別するためです。当時の暮らしをこう話します。「1か月働くと80万は手元に絶対ある。めっちゃ背伸びしてましたね。見栄張っていい車乗っていい服とか靴とか髪型、ネイルとか全部そろえて、そうすると金のありがたみが分からんのですよ」

仕事を見つけるための伴走役

そして、自立に向け大きな一歩となるのが、就職です。施設のスタッフと一緒にハローワークに行き、どんな仕事をしたいのか、求人票を見ながら話し合います。工藤さんたちは、履歴書のチェック、面接指導など、慣れない就職活動をサポートします。

去年5月、女性は、田川市の高齢者の介護施設で働き始めました。ヘルパーとして、食事の介助や、ひげそりといったお年寄りの世話を担当したのです。しかし、働き始めて2か月後。女性は仕事を休まざるを得なくなりました。保護観察中にもかかわらず、女子寮でのけんかで仲間にケガを負わせてしまったのです。女性は、もう一度少年院に戻ることも覚悟したと言います。しかし工藤さんたちは、「更生の余地があり、面倒を見る」と訴え、家庭裁判所や職場に理解を求めました。職場では、もう一度チャンスを与えようと雇用の継続を約束しました。女性に寄り添い続けてくれる工藤さんたちの姿は、彼女にとって初めての経験でした。

女性: 裁判所とかに一筆書いてくれたり、すいません、と頭下げに行ってくれたりとか。最初は戸惑いですよね。なんでここまでするの?みたいな。ある意味怖かった。そういう大人が周りにいなかった。こういう人間もおるんやけん、私がここでへこたれたらいかんな、みたいな。もう1回チャンスください、って気持ちにならせてもらいました。そういう対応で。

就職しても見守り続ける

工藤さんは、就職後も職場の様子をたずねるなど、女性の背中を押し続けます。

女性: 仕事は主任がえらくかわいがってくれよるんで、免許取ったら私の実家行こうねとか、ステーキおごっちゃるとか。
工藤さん: おまえ自身ががんばっとるから、その反応してくれるんやろ。
女性: してもらった分、何かもっとこういい形で返せんかなって思う。

女性が施設を出たあとも、24時間いつでも相談に乗るといいます。そこから本当の付き合いが始まると考えているからです。「この子たちは今まで虐待を受けて、出たときに頼るところがないし、自分たちがしっかりつながっておいて、何かあったらすぐ相談しなさい、そして明日を乗り越えさせるというか、そういったサポートをしながらずっと見守ってる。そういう人がいる、ってことですよね」と、工藤さんは言います。

施設のスタッフや職場の人などが、いわば「親代わり」となり、女性たちにとっての安心した居場所を作るこの取り組み。そうした環境をもっと社会に広く作っていく必要性を感じました。

北九州放送局
藤重博貴アナウンサー

趣味・特技:ギター、弓道、中国語、中古レコード店でのレコード探し、音楽鑑賞映画鑑賞(加山雄三さんや植木等さんの映画が特に好きです)。

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2019年7月16日(火)放送より

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