将棋AIで腕を磨く平成生まれ初の名人 棋士・豊島将之三冠

ざっくり言うと
研究相手はAIのみ。勝負の勘は多くの公式戦・実戦で養う
超人レベルに到達する可能性のある藤井聡太七段は同郷。「自分も努力を続けていく」
2019/06/10 NHKジャーナル 特集「将棋の豊島将之三冠に聞く」

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2019/06/10

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2019年6月10日(月)放送より

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平成生まれの棋士として初めて名人位を奪取し、去年獲得した王位・棋聖のタイトルと合わせて、将棋界史上9人目の三冠保持者となった豊島将之(とよしま まさゆき)さん(29歳)。高校生でプロ棋士になり、20歳でタイトル初挑戦と将来を嘱望されていました。人間との研究を止め、自宅でAIを相手に技術を磨く独自のスタイルによって棋界のトップに立った豊島さんに、ラジオセンターの大澤祐治ディレクターが聞きました。

――豊島新名人にお越しいただきました。宜しくお願いいたします。名人を獲得されて実感はいかがでしょうか。

豊島さん:
名人になると免状を書いたりもしますし、新しいこともたくさんあるので実感も少しずつ湧いてきています。かなり忙しい毎日ですね。

――今回の名人戦、佐藤天彦さんとの対局は、4連勝・ストレートでの決着となりました。振り返っていかがでしたか。

豊島さん: 佐藤さんとは、棋士になる前の養成時代の奨励会というところで、10代のころからずっと切磋琢磨(せっさたくま)してやってきました。重要な対局でも勝ったり負けたりを繰り返して今に至っているので、本当に難しい戦いになるだろうと思っていましたので、4連勝という形で名人をとれたのは、意外だったと言うか、自分の力以上のものが出たり、いろいろな幸運が重なった結果かなと思います

――決着局となった第4局は、意識されるところはあったんですか。

豊島さん: あと1勝となって結果を意識するようになっていたので、なんとなく重圧みたいなものはありました。佐藤さんの地元でもありましたし、前夜祭のスピーチを聞いていても、名人戦がまだまだ続くのを見たいというようなことを、まあそこまではっきり言わなくても、そういうところを感じましたので、やっぱりアウェイな感じだなと思いましたけど。そこでもやはり自分なりにベストを尽くしていこうとは思っていました。

――これまで4回タイトルに挑戦して4回失敗という中で、去年からの1年は一躍ブレイクの年になりましたが、その要因は何だったんでしょうか。

豊島さん: 1つとるまでがすごく大変で、1つタイトルがとれたあとは気持ちに余裕が生まれたのか、その後、立て続けに王位、名人ととることができました。そこはやっぱり気持ちの部分が大きかったと思います。

20歳の時に初めて挑戦したんですけど、上のレベルまで来るとちょっとした実力を積み上げることがすごく大変になってくるので。20代前半までの間にそこまで大きく棋力を伸ばすことができなかったというところで、羽生先生であったり渡辺二冠であったり、自分より技術が上でその辺りの方に勝つのが難しかったので、タイトル獲得がなかなかできなかったというところかと思います。でも地道にやっていって、ちょっとずつ、本当に少しずつですけど技術面が積み上がっていって、1つとれてからは気持ちが楽になったので、2個3個といけたんだと思います。

――もう自分にはタイトルはとれないんじゃないかと、自信を失ってしまったり、モチベーションを高く維持するのも難しかったりしたのではないかと思いますが。

豊島さん: 確かに結構難しいところはありましたけれども。まあやっぱり、将棋で負けたら将棋で取り返すしかないので。何回ダメでも、諦めずにやっていける自信はありました。元々将棋が好きでずっとやってきているので、日々の練習の中でも楽しさみたいなものを見つけるようにして、それでもやっぱり負けが続くと嫌になってしまうこともあるんですけど、応援してくださる方もいらっしゃるので、辛い時はそういった方に目を向けて、また頑張るといった感じで続けていました。

――初タイトルを獲得した棋聖戦(昨年6・7月)の時に、何かやり方を変えたことがあったんですか。

豊島さん:
いや、そんなにやり方を変えたわけではないんですけどね。ただ、王将戦と順位戦の、失敗といえば失敗なんですけど、昨年の3月頃にものすごい忙しい期間に入りまして、日付が変わるような対局を半月の間に5局ぐらい指して、なおかつ2日間かけて指す対局を、その期間にさらに2局指したということで、すごい忙しい期間だったんです。

順位戦が6者プレーオフになって、5回連続で勝たないと挑戦できないというふうになった時は心が折れそうにはなりましたけど、それでも諦めずに頑張っていくことはできました。最後まで戦い抜けたというのが、結果は出ませんでしたけど、体力的な面でも精神的な面でも自信になりましたし、そこが大きかったかもしれません。体力的な不安がなくなったことによって、長期戦であったり、1回終盤になってから中盤に戻るような戦いとかでも、苦にしなくなったというか、そういうことも受け入れて戦えるということで、幅が広がったと思います。

――豊島さんのキャリアの中で大きなものの1つとして、2014年に将棋ソフトと対局して勝ったことがありますが。

豊島さん: 自分の棋力の伸びが停滞している感じがあったので、このまま普通にやっていてもなかなかタイトルをとるのが難しいのではないかなと思って、挑戦した感じでして。将棋ソフトとの対局は世間的にも注目されますし、大きなチャレンジではありました。それによって自分の棋力が伸びたというよりは、ソフトのことが少し理解できたかなという程度です。その後、どういうふうに将棋ソフトと付き合っていく、というか、将棋ソフトを使ってどうやって自分の実力を伸ばしていくか、というところで。

約20年くらい、ずっと人とだけ指して将棋をやって来て、パソコンはほとんど使っていませんでした。使ったとしても棋譜を管理するくらいだったので、試行錯誤というか失敗の連続という感じがあって。将棋ソフトも、当時は人間を超えるか超えないかというところで出始めたばかりだったですし、始めのころはやり方がうまくいかなくて調子を崩したりしたこともありましたし、なかなか難しいんですよね。

人間と研究会とかをすると、例えばこちらが何か手を示した時に「その手は全然ダメな悪手です」ということははっきりと言われないわけで、それをソフトは、はっきりと点数で、こちらが悪い手を指したら「悪い手」というふうにはっきり言ってきます。いいところでもあるんですけど、反面、それを気にしすぎるというか影響されすぎてしまって、自分の将棋が崩れていくところもあるので、これからも試行錯誤しながらやっていくんだろうと思います。

――AIって、絶対的な正解を示してくれるんじゃないかと思われる方もいるかもしれないですが、そうではないところが難しさになっているのでしょうか。

豊島さん: そうですね。AIの示す手は、自分が考えた手に比べて精度は高いっていうのはあるんですよ。ミスは少ないですし。ただ、それが絶対的な正解ではなくて、ソフトも全部の手を読み切れているわけではないですから、何年かしたらそれよりも強いソフトが出てきて、そのソフトにかけるとまた違った手を示したり、同じソフトでも何手か進めるとまた違った評価を示します。自分が思いつかないような手を示してもらえるのはいいところでもある反面、そういった手まですべてカバーしようとして対局に臨むと、時間が足りなくなってしまうというか、思考が拡散しすぎてしまうところにもつながります。

ソフトは、局面を点でとらえるところがあります。人間だと、それまでの流れであったり、自分自身の好みとか相手の好みとかいろいろなものを総合的に考えて手を選んでいくんですけど、ソフトはその局面だけを見て、手の流れとかは無視して指し手を示すので、そこが違いというか、取り入れる難しさかなと思います。

――今は人との研究会はもうやめて、人とは全然研究していないっていうことですよね。それのデメリットっていうのは逆に何かありますか。

豊島さん: 人間同士の戦いで結果を出せるかっていうところなので、やっぱり勝負勘みたいなのも大切なので、まあ、そこですかね。対局も、自分の場合は結構多い年が続いていて、平均すると週1回かそれ以上のペースで指していて棋士の中でも多い方なので、練習で指すよりも、公式戦・実戦で戦った方が棋力も磨かれていくので、対応できているかなというところです。

――8つのタイトルのうち3つを持つ第一人者となられたわけですけれども、豊島さんといえば、序盤中盤終盤、隙がないと将棋ファンの中では有名なんですけれども、これから豊島時代を作っていくために、何が必要だと思われていますか。

豊島さん: 序盤中盤終盤というか、プロになってからは自分の弱点を克服するっていうテーマでやってきたところが大きかったので、やってきたことを評価されたような気もして嬉しかったというのもあります。これからは、元々攻めるのが好きで積極的な将棋で子どものころからやってきたので、鋭さみたいな部分をもっと出して、技を決めて勝てるような実力を磨いていきたいと思います。

三冠になったのは、ずっと無冠で1つとれるかどうかっていうところでやって来たので、自分でも予想外というか出来過ぎている感じはあるんですけれど、挑戦して獲得したというだけでまだ防衛したわけではないので、防衛戦でも結果を出していくことが大事になってくると思います。

――最後になりますが、同じ愛知県出身の棋士として、藤井聡太七段にどのようなイメージを持ってこれから戦っていこうと思われているのでしょうか。

豊島さん: 彼は本当に素晴らしい才能の持ち主で、最大の長所は終盤の詰む、詰まないのところでものすごく手が見えるというところなんですけれども、それだけではなく中盤の判断であったり、序盤のセンスとか知識、感覚とかいった部分もしっかりしていて。16歳でここまで強い人はこれまでいなかったわけですから、まだ10代ですし、どんどん伸びていって、これまで人間がなかなか行けなかったようなレベルまで到達する可能性も大いにあると思っていて。

普通、棋士の全盛期みたいなころは20代半ばとか後半ですけど、そういうころになってくると自分も30代から40代になってくるので、彼と戦えるとしたら自分が相当頑張らないといけないと思いますし、年齢的なところも克服して、努力を続けていかなければならないと思っています。

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2019年6月10日(月)放送より

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