カラスに蹴られたい動物行動学者・松原始の生態観察記『カラスは飼えるか』

ざっくり言うと
答えは「基本、飼えません」。飼い方を述べた本ではないので念の為
「カラスは悪だくみなんてしてません」。ただ生きている姿を知ればかわいく見えてくるかもしれない
2020/06/28 マイあさ! 著者からの手紙 『カラスは飼えるか』松原始さん(動物行動学者)

文学

2020/06/28

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2020年6月28日(日)放送より

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カラスを中心に動物の魅力について熱弁を振るった生態観察記。著者の松原始(まつばら はじめ)さんは、「カラスを食ったことはあるが、飼ったことはない」そうです。カラス先生にお話を伺いました。


カラスは基本、飼えません

――松原さんは、私の脳内は基本的にカラス、25年間カラス漬けの日々、と書いていますが、「松原さん-カラス=ゼロ」ということでよろしいでしょうか。

松原さん: ゼロにはならないと思うんですけどね(笑)、カラスを抜くと大部分が減るのは確かだと思います。

――カラスのない人生は想像できなかった、ということでしょうか。

松原さん: 想像できなくはないですけれど、味気ないのであまり想像したくはないですね。

――それだけカラスがお好きということですね。
松原さんのプロフィールを紹介します。動物行動学者の松原始さんは1969年、奈良県生まれ。京都大学大学院理学研究科博士課程修了。研究テーマはカラスの行動と進化です。現在、東京大学総合研究博物館・特任准教授をお務めです。著書に『カラスの教科書』『カラスの補習授業』『カラスと京都』など、カラス本が多数あります。
この作品のタイトルは『カラスは飼えるか』ですが、松原さんは「基本、飼えない」と宣言しています。すると読者は、この本をどのように読めばいいのでしょうか。

松原さん: 実は若干タイトルに“偽り”がありまして……。カラスの研究者なので何を話しても最後はカラスになるというクセはありますが、カラスとカラスではないいろんな生き物にまつわる雑学と言いますか、いろんな生き物の本当の姿、あるいは、「カラスは実際こうですよ」といったものを紹介した本と言えばいいでしょうか。
一番知ってほしいのは、そもそも動物は邪悪なものでもなければ聖なるものでもない、ただ生きているだけなので、そういうニュートラルな偏見のない目でカラスを見てみると、ちょっと違って見えてくるかもね、とは思いました。

なんでカラスだけ悪者になるかなぁ

――松原さんは、カラスはかわいいのに嫌われるのが謎だ、としています。カラスといえば「ゴミを荒らす」「人をつつく」「鳴き声が不気味」などあまり良いイメージがありませんが、カラスのどんな部分をかわいいとお感じになっているでしょうか。

松原さん: 「カラスは真っ黒で目がどこにあるのか分からなくて怖い」という人もいらっしゃいますけれど、双眼鏡で見ると、文鳥なんかと同じで、なかなかつぶらな目をしています。首をかしげていると実にかわいいですけどね。

――そうですか!?

松原さん: はい。電線に止まっているところに近づいていくと、チラチラ人を見ているんですけれど、立ち止まって「通り過ぎると思ったでしょ?」ってフッと上を見上げると、慌てて足を踏み外したりしています。

――作中でカラスの特性をさまざま解説しています。一般的にカラスは賢いイメージがありますが、松原さんは、「ドジでマヌケで死ぬほどヘタレ、何でも食べるし態度がでかい」。ただ、「悪だくみをしているわけではない」と指摘しています。つまり“悪者”ではないということでしょうか。

松原さん: 動物に対して“悪者”と定義をすることがそもそもおかしいと思うんですけれど……。動物って、身を守るためだったりえさをとるためだったりはしますけれど、悪意を持って何かをすることはほぼほぼないですよね。それが人間には都合が悪いということはあるんです。カラスがツバメの卵を食べるのが良くないっていうのも、鳥の卵はみんな食べるし、鳥同士食い合いしていますし、ツバメだって虫を食べちゃっていますし、なんでカラスだけ悪いのかなって、すごく不思議に思っているんです。

カラスは固くてレバーの味

――松原さんは、カラスを飼ったことはないが食ったことはある、とし、カラス料理のレシピ本も紹介しています。その料理法は、焼き鳥、竜田揚げ、カラスジャーキー、ローストクロウ……と多岐に渡り、「カラス味」と表現しています。いったいどんな味なのでしょうか。

松原さん: 一番近いのはレバーですね。すごく血のニオイがします。歯ごたえはガチガチです。

――固いのですね。

松原さん: 固いですね、野生なので。ただ焼いただけのものは、おいしくなかったですね。野生でこれならまあ許せるかなと思いましたけれど。

――世界中にこれだけカラスがいても食べられていないのは、それなりの理由があるということですか。

松原さん: 料理はなくもないんです。フランス料理にレシピはありますし、日本の郷土料理にもなくはないのですが、たくさん薬味やみそを入れるので食べたくない感があるんですよね。

カラスに1度は蹴られてみたい

――カラスは“悪者”ではないような気がしてきましたけれども、人をつつくことがあります。ただ、人をつつくときは決まって背後からだそうです。松原さんは、「カラスに背中を向けてはいけない」と世に警告を発しつつも、ご自身は「カラスに蹴られたい」と告白しています。どういうことでしょうか。

松原さん: 「カラスがつつく」とよく言われますが、あれはつつくのではなく、足で蹴飛ばしています。人の頭の上を飛び越えながら足を下ろして当てていくか、飛び降りてきて頭を踏み台にして蹴り飛ばしていくか、どちらかですね。
それと、年がら年中襲ってくるように思われているかもしれませんけれど、それも間違いです。5月、6月ぐらいは、巣立ったばかりのヒナがほとんど飛べないので、地面にうろうろしていたりするんです。そこに人間が近づくと、親鳥としては気が気じゃないのでまずは音声で威嚇(いかく)してきます。蹴り飛ばされることもあります。ただ、ヒナを守るためなので、訳もなく追いかけてきてつつき回して血まみれにされることはないと言っておきたいです。

――松原さんご自身は「蹴られたい」と告白していらっしゃいますけれども。

松原さん: カラスを研究している身としては、1回くらいカラスに蹴り飛ばされてみたいと思うんです。攻撃されるというのを身を持って知りたいんですけど、ん~、なかなか攻撃される機会はないですね。

カラスのフンが命中するのは年に平均11回!?

――カラスは人にフンを落とすことがあります。ただ、狙って落とすのではなく、落としどころに人間がいるだけということです。松原さんは計算式を駆使しながら、人がカラスのフンに命中する確率を「1年に平均11回」とはじき出しましたが、松原さんご自身は50年で1回だそうですね。この食い違いをどう理解すればいいでしょうか。

松原さん: 計算式は条件しだいでいくらでも変わるので数自体に意味はないんですけど、カラスはよく電線とか看板に止まっていて、そういうものって大体歩道の上にありますよね。
ですからまず人間が歩道を歩いているだけで、カラスに“爆撃”される所を歩いちゃっているんです。さらにカラスは人が近づくとソワソワして飛び立ったりしますけれど、鳥は飛び立つ直前とか直後にフンを落とすことがよくあります。人に落とすつもりはないけど人が来たので飛んだらフンが出ちゃうということはあるんです。この2つが重なると、結構な確率で人の近くにフンが落ちてくることはありえます。

――松原さんには50年で1回しかフンが落ちてこなかった。これはどうしてですか。

松原さん: 僕はカラスが居るとついジロジロ見ちゃうので、どちらかというとカラスのほうがよけていきますけどね。

カラスも普通に鳥だよね

――カラスの研究で重要なのは、カラスと「分かり合うこと」ではなく、お互いの身体感覚でカラスとの間合いを把握する、つまり「渡り合うこと」だと書いています。研究者でない私たちは、これからカラスとどのようにつき合っていけばいいでしょうか。

松原さん: カラスについては、“悪いやつ”“モンスター”みたいなイメージが先行して、どんどん頭の中で膨れ上がっている感じがするんです。だからまず「カラスってこんなものだよね」という実像を知ってもらうといいかなと思うんです。そうすると、スズメやツバメと同じでその辺にいる野鳥の一種にすぎませんから、そういう目で「カラスも普通に鳥だよね」と思って見ていただくと、少しはカラスが怖くなくなるかなという感じはしているんです。

――お話を聞いていると、カラスは意図していろいろなことをやっているわけではないことが分かってきた気がします。

松原さん: カラスに限らないですけれど、動物はそもそも人間の社会を分かっていませんよね。例えば「仕返しで車にフンを落とされた」という話を聞きますけれど、そもそも動物は「車を所有」なんてしませんから、所有物という感覚はないはずです。それを考えると、人間が勝手に自分の感覚を当てはめて「悪だくみだ」と思っているだけで、動物は悪だくみなどほぼほぼしないと思うんです。

――カラスのイメージが少しずつ変わってくるかもしれませんね。

松原さん: はい。その辺は、お祈りしています。

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2020年6月28日(日)放送より

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