なるべく働かずに生きていく。石井あらた『「山奥ニート」やってます。』

ざっくり言うと
暇あり、けんかなし、時々バイト。これぞ人類の夢の暮らし。幸せにならなきゃ申し訳ない!?
ボランティア、ニートがやらなきゃ誰がやる。ニートは社会の余力です
2020/06/21 マイあさ! 著者からの手紙 『「山奥ニート」やってます。』石井あらたさん(自称「山奥ニート」)

文学

2020/06/21

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2020年6月21日(日)放送より

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山奥の廃校で暮らす15人の“ニート”なひとたち。かつて“立派なひきこもり”だった石井あらたさんもそのひとりです。「なるべく働かずに生きていく」日常を描いた『「山奥ニート」やってます。』について、お話を伺いました。


僕から社会を捨ててやる

――石井さんが、ご自身が言うところの“立派なひきこもり”から、山奥で暮らすニート、「山奥ニート」に至った経緯を教えていただけますでしょうか。

石井さん: 僕は、大学浪人、留年、中退という三重の親不孝ものでして……。バイトをやってもすぐにクビになったし、2年ぐらい、ひきこもりになって部屋からほとんど出なかったんです。社会から「必要のない存在だ。邪魔な存在だ」と言われているような気がしてました。そんなとき、山奥にニートやひきこもりを集める計画があると知って、「山奥ニート」の第1号になりました。「社会が僕のことをいらないと言うなら、僕から社会を捨ててやる」っていう気分でしたね。

――石井さんのプロフィールを紹介します。自称「山奥ニート」の石井あらたさんは1988年生まれ。自宅でひきこもり生活を経験した後、2014年に「NPO共生舎」を頼って和歌山県の山奥に移住。ところが移住3日後に、NPOの代表が亡くなってしまいます。石井さんは現在、共生舎の理事を務めながら、限界集落の木造校舎でネットを通じて集まった「山奥ニート」の男女14人と共同生活を送っています。

のんびり暮らせば病気も予防

――この本は、私たちの「こうでなくてはいけない」という思い込みを激しく揺さぶっていきます。共生舎にはたくさんの見学者がくるそうですが、一番よくされる質問が「お金はどうしてるんですか?」だそうです。ここでの生活費は1人、月1万8000円で、皆さんぜいたくをしているわけではありませんがとても豊かにみえます。石井さんも「貧乏だとは感じない」とお書きになっていますね。

石井さん: 自分たちのことを「ニートだ」と言っているんですけど、全く働かないわけではなくて、お金がなくなったら花切りとかキャンプ場の掃除、温泉旅館の手伝いに行きます。僕の稼ぎは月に数万もないですけど、廃校になった木造校舎に住んでいて家賃はゼロ円ですし、共同生活なので固定費も節約できます。
「ケガや病気になったらどうするんだ」とも聞かれますけど、ケガや病気の一番の原因は働きすぎだと思うんです。仕事に追われて病院に行く時間すらない生活より、お金がなくてもストレスがなくてのんびり暮らすほうが、病気の予防にもなって楽しく暮らせるんじゃないかと思っています。普通の人は、たくさん働いて貯金をして老後に悠々自適な生活を目指すと思うんですけど、僕らはその老後の生活を前借りしているんだと、冗談でよく言っています。

みんな暇なら世界は平和だ

――山奥で15人が共同生活というと人間関係が難しそうですが、けんかはないそうです。一方で皆さんは、それぞれが「友達と呼べるほど、親しい間柄ではない」ということです。気まぐれが歓迎されるという一節も出てきますが、互いに価値観の押し付け合いがないことでトラブルが起こらないということでしょうか。

石井さん: 仲がいいのは、みんなに時間があるからだと思っています。例えば仕事を終えて帰ってきて、あした出なきゃいけないのにお皿が洗っていないとなったら、「なんでだよ」って怒ると思うんです。でも、1日ゴロゴロしていてあしたも予定がないときは、お皿が洗われてなくても、「しょうがない、暇だから代わりに洗ってあげるか」みたいに思えるんですよ。そういうふうに、世界中の人間が暇だったら、世界平和はできるんじゃないかなと思うんですけど。「あしたも仕事だ……」って思うと、他の人がちゃんとしてないことが気になるんだと思います。

ニートがやらなきゃ誰がやる

――石井さんは、ニートの社会性にも言及しています。被災地で活躍するボランティアにはニートが多いそうですが、「ニートがやらなきゃ誰がやる」とも書いています。とかく社会はニートを労働力として考えませんが、そんなことはないと、お考えでしょうか。

石井さん: 僕は、ニートは社会の余力だと思っています。社会の全員が忙しい会社員として働いていたら、災害とか緊急事態に対応する人がいないと思うんですよ。僕らの集落でもお祭りを毎年やるんですけど、僕らみたいな暇なニートが準備の手伝いをするんですね。毎日忙しくきちんと働いている人はなかなかできないことなので、社会にちょっと暇を持て余している人がいるというのは健全なことだと思います。

――石井さん自身も東日本大震災のときにはボランティアに行っていますね。なぜ行こうと思ったんですか。

石井さん: 「ニートがやらなきゃ誰がやる」という感じで、暇をしている自分が何かの手助けにならないかなと思って、行きましたね、福島に。

ゆっくり何かを準備する場所

――「山奥にニートを集める」という発案者でNPO共生舎の発起人であり、石井さんがその遺志を受け継いだ、山本さんの発言が印象的です。「人にはそれぞれ、自分に合った履き物がある。なのに、今は既製品の靴に、無理に足を押し込んで履いている」。だから、足が痛くなる。そうならないように、「自分専用の履き物をじっくり作る、そのための時間と場所が必要だ」。石井さんはこの言葉を聞いたとき、どのようにお感じになったでしょうか。

石井さん: 本当に山本さんはおもしろい人で、もっともっと、しゃべりたかったんですけど……。
例えば子どもに将来の夢を聞くと、ほとんどの子どもは職業を答えるんですけど、僕はおかしいなと思っていました。なにかの職業に就くことが夢ではなくて、「こういう人になりたい」とか、その子だけが目指すものがあると思うんですよ。職業に就くということは、その職業に合わせて自分を変えていくことなので、「あらかじめ型が決まっているものに自分をはめていくことが、夢なのかな?」って、思っちゃいますね。
山本さんが言うとおり、ゆっくり何かを準備するという場所が、今の世の中、あまりないと思うんです。

資本主義社会“最強”の存在

――作品の大詰めに、「ニートが社長より強かった」という一節が出てきます。石井さんがテレビ番組に出て、ある社長から事業の誘いを受けたとき、「週1でいいなら……」と返事をしたら社長が絶句したそうですね。

石井さん: 今の社会は普通、お金をもらって自分の時間を渡すわけですけど、僕らは、「自分の時間を安く売るくらいなら、お金なんか別に要らない」と思っているんです。これは資本主義社会では“最強”の存在だと思うんですよ。

――はははは。

石井さん: だって、お金では命令できないわけですから。どんなに札束ではたかれても、「嫌なものは嫌」と言うことができる。僕らみたいな「山奥ニート」はそれに縛られていない。好きなことができるし、好きなことを言える存在なんだと思います。

“自分の部屋”を広げよう

――外に出ることができなくて引きこもり、「働け」「社会から逃げるな」と言われてつらい思いをしている方がいます。石井さんからアドバイスをいただきたいのですが、作中にある「持続可能なニート」「一流のニート」がポイントになるでしょうか。

石井さん: 偉そうにアドバイスをする立場ではないんですけど……。
僕は今も自分のことを引きこもりだと思っています。ただ、昔は自分の部屋に引きこもっていたんですけど、今はちょっと範囲を広げて集落の中で引きこもっているという感覚なんですよね。単に引きこもる範囲が少し広がっただけ。この集落は、僕にとって外ではなくて自分の部屋の延長線上なんです。
そう考えていくと、「外って一体なんだろう。外と中を区別するものってなんだろう」と思うんです。中とか外というのはグラデーションみたいなものだから、そういうことをあまり気にせずに、“自分の部屋”を広げてみるのもおもしろいんじゃないかと思います。

“持続可能なニート”は社会の希望

石井さん: 僕はニートというのは、幸せになる義務があると思っているんですよ。いろんな事情があるにせよ、ニートは今、働かずに暮らすことができているわけですよね。そういうのって、今まで人類が追い求めてきたことだと思うんです。それを達成したニートが幸せじゃないとしたら、過去のすべての人に対して「申し訳ないな」と僕は思っていて。ニートが楽しくなかったら、人間ってもう、楽しくなることができないと思うんです。
ニートになったからには、なるべくたくさん楽しいことを見つけて、毎日楽しんでいかなければと思うんですよね。将来、もしニートをやめることになったら、毎日「嫌だ、嫌だ」と思っていた人よりも満喫して楽しくニートをやった人のほうが、なんかこう、いい人間になれるんじゃないかと思うんですよね。だから思う存分、ニートを楽しんだらいいと思います。僕は、“持続可能なニート”というのは、これからの社会を変える希望じゃないかと思っています。

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2020年6月21日(日)放送より

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