インフォデミックには“知のワクチン”を。新型コロナウイルス関連デマに学ぶこと

ざっくり言うと
惑わされないためのキーワード「善意/権威付け/かこつけない・こじつけない」
自分はどんなネタに釣られやすいか? 思考の癖に気付いて “知のワクチン”に
2020/03/09 三宅民夫のマイあさ! 三宅民夫の真剣勝負! ゲスト:神庭亮介さん(BuzzFeed Japan 記者)

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安心・安全

2020/03/09

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2020年3月9日(月)放送より

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【出演者】
三宅キャスター:三宅民夫キャスター
神庭さん:神庭亮介さん(BuzzFeed Japan 記者)
大久保キャスター:大久保彰絵キャスター


三宅キャスター: 「新型コロナウイルス」の感染拡大。不確かな情報による混乱や不安に巻き込まれたという方も少なくないと思います。私もその1人です。店からトイレットペーパーなどが売り切れたり、「ウイルスにぬるま湯が効くらしい」とのうわさが流れたり、SNSなどでデマや誤った情報が伝わって社会に混乱が起きています。一体何が起きているのか、混乱に巻き込まれないためにはどうすればいいのか、突き詰めて考えていこうと思います。
ゲストはネットメディア「BuzzFeed Japan」記者の神庭亮介(かんば りょうすけ)さんです。見えない敵と向き合っていますから不安な気持ちは起きてくると思うんですけど、ネットの世界に詳しい神庭さんはこの状況をどう見ていましたか?
神庭さん: 新型コロナウイルスの流行に伴ってネット上にさまざまなデマが飛び交って、これはやっぱり社会不安が高まって根拠のない情報が流布した東日本大震災直後の状況とすごく似ているなって思います。「トイレットペーパーがなくなる」というデマで振り回された人も多いと思うんですけれども、合理的に考えると、トイレットペーパーはコロナウイルスに関係がないのは明らかですよね。日本で作っているものですし。だけれども、自分以外の人間が同じように合理的に行動することを信頼できなければ、「きっとみんな買い占めに走る」という予想が成り立って、それで多くの人が“合理的に非合理的な行動”を選択してしまう。結果、スーパーマーケットからトイレットペーパーがなくなってしまったわけですよね。
三宅キャスター: えっ、それはおもしろい。つまり私個人としては「そんなことがあり得るわけはない」と思っていても、「ほかの人はみんな信じて買うぞ」と。
神庭さん: そうなんです。頭から信じている人は少数派だと思うんですよ。ただ、「そうは言っても、みんな買いに行くんでしょ?」っていうことで、そうなってしまうんですよね。
三宅キャスター: 分かる……。ただでさえマスクがないのを実感していましたから、そうなったのかもしれないですよね。
不確かな情報を元にした混乱がネットで拡散される時代に、具体的な対応が求められていると思うんですけれども、注目すべき動きはあります?
神庭さん: そういうデマを打ち消す「カウンター情報」も積極的に発信されています。ある製紙会社は「トイレットペーパーはいっぱいあるよ」と潤沢な在庫の写真をTwitterに投稿してアピールしたんですね。これが13万回以上転載・リツイートされて多くの人に見られたと。スーパー大手のイオンもあえてトイレットペーパーを山積みに陳列して「これだけあります」と。バンと用意して見せることによって、実際には品薄じゃないことを印象づけたわけですね。みんな頭では分かっているんだけれども、直感レベルで「大丈夫だ」と思うことがこういうときには大事だったりするので、いい取り組みだったと思います。
三宅キャスター: 確かWHOも2月の早い段階だったと思いますが、情報について注意喚起していましたね。
神庭さん: デマや誤情報の拡散は、パンデミックならぬ「インフォデミック(情報の大流行)」と呼ばれて、WHOも警鐘を鳴らしています。これから感染の拡大が懸念される中、どうしていったらいいかということですけれども、「安心」と「安全」に分けたときに、安全はもちろん大事ですけど、安心したいために買い込んだりしている部分があるので、そこはきちんと「安心」と「安全」を区分けして、安心のためのお守り消費、「とりあえずトイレットペーパー買っておこう」みたいなのは控えてほしいなと思います。
三宅キャスター: おもしろいキーワードが出てきました。「安全と安心は違う」と。
神庭さん: 「安心・安全」とひとまとめで言いがちですけど、「安心=安全」ではありません。トイレットペーパーを買い込むと気持ちが落ち着いてお守りみたいに安心はするかもしれないですけど、コロナウイルスが防げて安全かと言うと全然関係ない。安心と安全はきちんと切り分けて考えたほうがいいと思っています。
三宅キャスター: 情報の洪水に溺れないためにひとりひとりが取り組めるポイントは何か。3つに絞ってお話しいただけるそうです。早速、第1のポイントからお願いします。
神庭さん: 誤情報にだまされないためのキーワード、1つ目は「善意」です。
先日の<マイあさ!>でも取り上げていましたけれども、私のもとにも知人から「新型コロナはお湯を飲むと予防できる」という主旨のチェーンメールが回ってきました。もちろんデマなんですけれども、「多くの人に伝えてください」「参考になればと思ってお知らせしました」というようなことが書かれていて、このメッセージを回した人自身は善意で送ったと思われるんです。けれども自覚症状がない分、善意は悪意以上にやっかいで、疑いなく拡散されてしまうんですね。「拡散希望」って書いてあるものほど拡散しちゃいけないし、リツイートボタン1つ、ラインの送信ボタン1つで指先の達成感は得られるかもしれないんですけれども、肝心の情報の根拠が不確かであると逆効果になるので、役に立ちたいとか、よかれと思ったときほど注意して欲しいなと思います。
三宅キャスター: 第2のポイントは何でしょうか。
神庭さん: 2つ目のキーワードは「権威付け」です。
先ほどのチェーンメールにも「武漢の研究所に派遣されている米国の友人からのメッセージ」と書かれていたんです。でもその友人の名前を検索しても信頼に足るソースは見当たらないわけですが、「武漢の研究所」とか言われちゃうと一瞬、「ん?」と引っかかっちゃいますよね。
三宅キャスター: 信頼できそうだなと……。
神庭さん: そんな気がしちゃいますよね。荒唐無稽(こうとうむけい)な話でも「医師や看護師から聞いた」とか「政府関係者」「知人の社長の話」、あるいは「マスコミの誰々から聞いた」とか書かれていると、ついつい信じてしまう人も多いんですが、デマの常とう手段なので注意してほしいんです。「知り合いの記者から聞いた」というのも怪しいんですけれども、真逆の「マスコミが報じない真実」っていうのも眉唾であることが多いので、これも注意していただきたい。
それと、例えば肩書きで「医師」っていうふうにあったとしても情報が正確であるとは限らないんですね。本当に感染症の専門医かどうかにもよりますし。ショッキングな情報に接したときほど、本当にその人は感染症の専門家なのか、根拠となっている論文があるのかどうかといったことを、よく確認してほしいなと思います。
三宅キャスター: 情報が確かかどうか。これはもう記者の人たちも格闘している、なかなか難しい課題だと思います。
神庭さん: ちょっとハードルが高いかもしれないんですけど、政府なのか公的機関なのかとか、ソースをきちんと確認してほしいなと思います。
三宅キャスター: 3つ目のポイントは何でしょうか。
神庭さん: 3つ目のキーワードは「かこつけない・こじつけない」ということなんです。
人間には、信じたいものを信じる、見たいものを見ようとする性質があるんですね。災害やパニックのときほど、差別や偏見をまき散らかしたり、陰謀論にすがったり、ここぞとばかりに政権批判の材料にしようとする人たちが出てくるんです。非常事態になったことでもともとの地金が現れただけとも言えるんですけれども、こうした「かこつけ」や「こじつけ」が情報判断の目を曇らせて、冷静さを失わせてしまうことがあります。「新型コロナウイルスは中国政府が作った生物兵器である」「来日した中国人が検査を受けずに逃亡した」「韓国に比べて検査数が少ないのは日本政府が感染者数を少なく見せかけたいからだ」とか、真偽不明の情報や陰謀論、デマっていうのが典型なんですけれども、ネット上では流布しやすいんですね。
ネットでは、個々人に最適化された情報が提供される「パーソナライズ」や、自分に最適化された情報ばかりを受け取る「フィルターバブル」というものがあります。一方で、「エコーチェンバー現象」というのもあります。これは、SNSで自分の傾向と似た人ばかりをフォローすると自分が思っていることを強化する自説強化の材料ばかりを集めてしまうので、「信じたいものを信じる」という傾向が加速していくということなんです。
三宅キャスター: いろんな情報がネットにはあるけど、不安な状況になると結局は自分の信じたいものだけを信じて、そういう情報だけ取るという……。
神庭さん: それでもう、安心したくなっちゃうんですけれども、そこはやっぱり要注意なんです。
三宅キャスター: デマや不確かな情報による社会の混乱。東日本大震災でも課題になりましたよね。私たちはどう捉えればいいんですかねぇ。
神庭さん: デマが発生すること自体は避けえないと思うんですね。「3.11」はおろか、オイルショックでトイレットペーパーが枯渇したころから何も変わっていない。もっと言えば、アメリカとかオーストラリアとかシンガポールでもトイレットペーパーの買いだめが起きていて、日本特有の現象でもないわけです。なので、それ自体は変わっていなくて、SNSの浸透によって拡散の速度が上がったっていう面はあると思います。いい面としては、打ち消す情報も盛んに出てくるようになったので、ここは希望が持てるなと。
デマをゼロにするのは無理なんです。ですからデマは必ず出てくるという心構えでいて、自分もだまされるという前提のもとで、自分はどういうネタに釣られやすいのか、だまされやすいのか、という傾向を知っておくことが大事だろうと思うんです。
三宅キャスター: デマは必ず来るものだ、あるものだ。それをまず認識すると。
神庭さん: そういうことですね。そして自分もだまされるかもしれないと。
新型コロナウイルスのワクチンはまだ生まれていませんけれども、先ほどの「インフォデミック」という感染症になぞらえた言葉で言うのであれば、インフォデミックに対抗するための“知のワクチン”を、「だまされるかもしれない」ということで準備しておくのが大事で、そうすることによって、自分たち個人が被るダメージ、社会全体が被るダメージを最小限にとどめることができるのかなというふうに思います。
三宅キャスター: “知のワクチン”。
神庭さん: 繰り返しになりますけども、「自分もだまされちゃうかもしれない」ということを頭の片隅に置いておくということ。あとは、自分が心地いい情報、気持ちいい情報がごちそうのように差し出されたときに、「ん? これはおいしすぎるな」と注意してほしいんです。いいにおいがする情報ほど注意して1拍おいて、リツイートする前に深呼吸して、情報の出どころをしっかり確認してほしいなと思います。
三宅キャスター: とにかくデマっていうのはこういうときにあふれてくるものなんだと。ちょっと疑ったり考えたりして行動するように、ということですね。
みなさんからの声が届いています。
大久保キャスター: <トイレットペーパー、ティッシュペーパーがうわさによって店頭から消える事態が起こりましたが、私は「店頭に並んでいなくてもあわてないぞ」と思っていつもの薬局に行きました。すると、いつも購入している薬の棚が空になっていました。その瞬間、「あっ、この薬は何か口コミで広がったの?」と、とたんに背中が寒くなりました。よく見れば売り切れていたのはお得なサイズのものだけで、そのほかのものはあったので、冷静に考えればたまたまだったのかもしれませんが、その瞬間は「残っているものを余分に買っておこうか」と思ってしまった自分がいました。正しい情報を知って、あわてて判断しないように気をつけたいと思いました>
三宅キャスター: 何か物がなくなっているだけで不安になるって……。
大久保キャスター: それでつい、「余計に買っちゃおうか」と思ってしまうんですね……。
神庭さん: この方はわれに返れたのでよかったなと思いますけれども、先ほど申し上げた「安全」と「安心」のうち、自分はどっちに反応しているのか。「安心のために消費しようとしていないだろうか」というのを、問いかけてもらうといいのかなって思うんです。自分の中にどういう偏りがあって、どういう言説にひかれやすいのかという傾向を知っておくと、それが“知のワクチン”になって、デマやインフォデミックの洪水に溺れないで済むと思うんです。とにかく、そのものずばりのおいしい情報が目の前に流れてきたときには、「ちょっと待てよ」と思ってほしいですね。
三宅キャスター: 「情報」というのをどう受けとめるかということを、かなり意識して行動しないといけない時代ということですかね。
神庭さん: 自分の思考の癖に気付いておくと、有事のときに役に立つだろうなと思うんですね。
三宅キャスター: ありがとうございました。

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2020年3月9日(月)放送より

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