高橋源一郎が、あの滝沢カレンのカレン節を切る!

ざっくり言うと
滝沢カレン著『カレンの台所』はレシピ本ではない、ものがたりだ!
人が物事を理解するためには物語が必要だ!
2020/06/19 高橋源一郎の飛ぶ教室 「ひみつの本棚」

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2020/06/19

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2020年6月19日(金)放送より

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作家・高橋源一郎が夜開く学校<高橋源一郎の飛ぶ教室>。センセイの源一郎さんが気になる1冊をテキストに授業を展開する「ひみつの本棚」。今回は、モデルの滝沢カレンの『カレンの台所』。いつもの文学作品ではありません。カレンさんが、独自のコトバを使い、30の料理のレシピを物語のように紹介します。源一郎センセイは、この本から何を解読し、どんなメッセージをおくるのでしょうか。

【出演者】
高橋さん:高橋源一郎さん(作家)
小野アナ:小野文恵アナウンサー


前代未聞!? レシピ本でロールキャベツの結婚式!

高橋さん: きょうの本は滝沢カレン著『カレンの台所』です。
小野アナ: 著者の滝沢カレンさんは1992年、ウクライナ人のお父様と日本人のお母様の間に生まれました。2008年にモデルデビュー以降、MCや女優としても活躍中です。トーク番組で飛び出す独特の「カレン節」でも人気の滝沢カレンさんが書いた料理のレシピ本が『カレンの台所』です。
これまでの「ひみつの本棚」とはかなり変わった感じ…。
高橋さん: 結構ヘビーなやつが多かったんですが、今回ガラリと変えました。僕、この本を出る前から楽しみにしていたんです。
小野アナ: そうなんですか。
高橋さん: 滝沢さんはよくテレビにも出られている。独特の言葉遣いで、言語感覚のいい人だと思っていた。料理のレシピの話もされていたことあったんです。「早く本にならないかな」と思っていたら出たので、読んだ。期待をはるかに超える傑作ですね。取り上げて読んでみましょう。
とりあえずレシピ本なんで、全部作り方です。ロールキャベツのところを、若干飛ばしながら読んでいきます。

本日は包まれたい欲の強い乙女なひき肉と、包みたい欲が強いキャベツの男気溢(あふ)れるロールキャベツを作りました。
ラッキーな出会いをした5つ包みの話をします。

男気キャベツは男試しに、まずは1枚1枚丁寧にキャベツを剥がしていき、熱湯で茹(ゆ)でられている真っ最中です。
どの葉がいちばん男として強いかを、見定めていきます。
おっきな包容力がありそうなキャベツ男には率先して先に乙女な豚ひき肉と一緒になる権利を与えましょう。

高橋さん: 材料もあるんですね。

ひき肉には、玉ねぎ粉々、マヨネーズをお賽銭(さいせん)程度、卵を1個、お麩(ふ)の粉々を鈴が2回なるほど、そして頼りっぱなしの塩胡椒(こしょう)をみなさんにふりかけるようにお願いします。
マッサージを惜しげなくしたら、綺麗(きれい)な形に整えていざロール時間です。

両手をバサッと大袈裟(おおげさ)に開いたキャベツ男の胸元に、豚ひき肉乙女は飛び込みます。
そして両手をそぉっと右、左と包んだら、下から上にと巻き込んでロールします。

豚ひき肉乙女が完全に私たちの目からいなくなったら両想(りょうおも)い確定ですので、結婚指輪がてらに爪楊枝(つまようじ)などの棒をぶっ刺して離れないように誓ってもらいます。
ロールしたときに横から豚ひき肉乙女がはみ出ていたら包容力オーバーですので、少しひき肉の形を変えるか、ほかのキャベツ男をお選びください。
まだまだたくさんキャベツはいるはずです。

それぞれ自分に合ったキャベツに出会えて、幸せなキャベツ男の背中しか見えなくなったら、お鍋やフライパンに式場を用意します。

先に薔薇(ばら)の床のようにトマト缶を流し入れ、コンソメカサカサをひとつの花束くらい添えて、部屋を整えていきます。

愛の赤が足りないよと神父様から怒られるので、赤を足すためのケチャップを濃い赤にするまで入れます。
と、いった割には不安になったのか、水も1人で飲むくらい入れます。

最後に客入れの塩胡椒をしましたら、いざロールキャベツの入場です。

合同結婚式はロールキャベツ界では当たり前です。
できあがった全てのロールキャベツで式場がピチピチになるまで詰め込みます。

そうしましたら、あとは若いもの同士で煮詰まってくださいと言うように蓋(ふた)をして、私たちは知らん顔です。せめて弱火でお願いします。

30分くらい知らん顔したら開けてください。
「おいおい、こんなに仲良くなって」とロールさせた私たちはキューピッドですから嬉(うれ)しくなるはずです。

染み込んだ愛(トマト)をそっとお皿に乗せ、ヴェールのような生クリームを差し上げたらできあがりです。

高橋さん: 拍手!
小野アナ: 『結婚行進曲』が聞こえてきました。
高橋さん: ね? ぶっちゃけ、読んで楽しいですね。これが料理のレシピだということを忘れてしまいます。
小野アナ: <文学的な料理レシピだなあ>とつぶやいてらっしゃる方がいます。そして別の方は<なるほど、わからん>
高橋さん: 分からない方もいらっしゃるかもしれません。

めくるめく料理の物語の数々で、いつの間にか調理法を習得

高橋さん: ではもう1つ、麻婆豆腐(マーボー豆腐)の作り方です。

みなさん、こんにちは。
今回はちょっぴり名前が派手派手しい麻婆豆腐の物語です。

豆腐をお婆(ばあ)さんにしていくことではありません。
麻婆豆腐は知っておいたら必ず損はさせませんので、安心してください。

私はすぐには揺るがない固い気持ちを持った木綿豆腐が好きですが、ゆるっとさがたまらない綺麗系絹豆腐でもお好きにしてください。
[……]
まずは油を引いたフライパンににんにくと生姜(しょうが)をレディーファーストしてあげ、[……]

高橋さん: 「レディーファースト」ということは、ニンニクとショウガは女性なんですね。

なんだか匂(にお)ってきたらひき肉塊を入れ、まな板で千切りにするかのように、ガツガツとヘラで刺激してあげてください。

ある程度の男子学校になるなという分までバラけさせたら、また刻むだけ刻んだネギを入れ共学にさせます。

高橋さん: ネギは女性ということですかね。

男子という名のひき肉は喜びに変わりどんどん男らしくなっていきます。

男になったひき肉を見たら、水を1杯分入れ、鶏ガラスープの素(もと)をお小遣いで500円玉もらった程度入れ、お酒を全員にサラッとあげる程度、そしてお醤油(しょうゆ)と甜麺醤(テンメンジャン)という兵器を一部しか気づかない程度に、こっそりと。最後にお砂糖をさらにひっそり忍ばせます。

全体を校長先生になったつもりで安心したら、強い意志をもった教育実習の先生のような木綿豆腐を、なんと自分の手でむしり取りながらおっきめに入れてきます。

高橋さん: 少し飛ばしますね。

教育実習の先生と生徒たちをしばらく眺めたら、今まで中火だった火の力をギリギリまで弱め、先ほど作った片栗粉(かたくりこ)水を入れ、ゆっくりヘラで背中を押すように丸く追いかけっこするようにすれば、徐々にまた速度を失っていきます。

高橋さん: 終わりの部分に行きましょう。

最後に赤髪のやんちゃなトウガラシを乗せますが、気の乗らない豆腐たちがいたら、見た目からは誰も気づかないが、口に入れれば爆発度が味わえる山椒(さんしょう)をふりまけてもいいです。

またもやサボテンのような形でびっくりな生姜を上手(うま)く千切りいわく二十切りくらいして、体の体温を負けじと上げたっていいです。

それでも気の乗らない方は、絶対になんの味のブレも出さない見た目命の小ネギたちを優しく散らしたっていいです。

高橋さん: これが、カレンさんのレシピということになる。
小野アナ: 学校の風景が浮かんできました。
高橋さん: ほかのところも、ちょっとだけいい? もう時間がないんで、僕が読みたいピーマンの肉詰めのところを読ませてください。終わりのほうです。

空き地になったフライパンにケチャップと中濃ソースに少しの酒を足し全てを煮詰め、筒ピーマンたちに敷金返すつもりでお塗りください。

そんな引っ越しが成功したピーマンの肉詰め物語でした。

高橋さん: つまり、肉がピーマンの中に引っ越すわけですね。

ピーマンしか住む家を選べない選択の無さにうつむくひき肉たちがいるのなら、椎茸(しいたけ)のように床のしっかりした住居だっていいです。

ナスの身を縦に半分にして身をくり抜き、皮だけの空間にまるで海賊船に乗るようにひき肉を入れたっていいです(くり抜いた身はどこかにお使いください)。

レンコンを薄く切り、集合住宅のように窓がたくさんあいた場所にひき肉を埋めたっていいです。

ひき肉の住居を探してあげる不動産屋は私たちだということです。
しっくりくる食材にお試しください。

高橋さん: こんな感じです。
小野さんも読みましたよね?
小野アナ: 私、実は作りました。
高橋さん: え!?
小野アナ: 豚のショウガ焼きを作ってみたんですよ。おいしくできました。
高橋さん: それはよかったです。役に立ったんですね。
小野アナ: それだけじゃなくて、発見がありました。
私は今までレシピの分量を覚えるのが苦手で、同じものを毎週1回必ず作っているのに、必ずレシピ本を開かないと気が済まなかったんです。でも、このショウガ焼きは、何も見ないでも、今晩でもあしたでも再現できる気がするんです。
高橋さん: 覚えちゃった?
小野アナ: 覚えちゃったんです。
おしょうゆは「お肉の足湯くらい」。お酒は「肩まで入る」。お風呂に入るストーリーなんですよ。そしてハチミツは「潤いクリーム」。だから「乳液を手に取るぐらいの量」。みりんは「入浴剤を入れる感じ」。
高橋さん: 暗記してますね。
小野アナ: 覚えてます。絶対作れる自信があります。「こんなに身に付くことがあるんだ」という発見でした。

始原の「物語」の作用を再生させる、滝沢カレンの恐るべき才能

高橋さん: これは、基本的にはレシピ本です。家事をするときに役に立つもの。家事をするとき、ふだんはただ黙ってやっていますよね。
人間は有史以来、ふだんやっているような仕事をするとき、単調でつらい場合は歌を歌ったんです。労働歌もそうですし、機織り歌もあります。子どもを寝かしつけるための子守歌もそうなんですよ。
単調な仕事でも、歌を歌うことで楽しくできる。今はそんなことしなくなったでしょ? 仕事はただただするだけ。
そういう意味で、この本は機織り歌と一緒なんです。覚えられるところがあるでしょう?
小野アナ: そうなんです。しみ込んでくるように、気が付いたら覚えてしまっている。
ツイッターでこうおっしゃっている方がいます。<食材に愛情が持ててくるんです♬>
高橋さん: カレンさんの言葉感覚のシャープさは以前からすごいと思っていたんだけど、今回これを読んでビックリしたのは、さっき読んだところにも「物語」という言葉がありましたよね。
レシピって、単にハウツーじゃない? そこには物語も何もない。ところが、物語というのはとても大事なことです。人間は、何かを理解するときに、物語の形で理解すると体に入ってくるんです。しかも、楽しく。
「めだかの学校」という歌があるでしょう。「めだかの学校は川のなか~♪」。客観的にいうと、あれは単にめだかが並んでいるだけなんです。
小野アナ: そうか。
高橋さん: 「学校」や「(めだかが)そこに通っている」という物語を当てはめたときに、風景が違って見える。
小野アナ: ああ…!
高橋さん: 自分が学校に行くときはいつも、小さい川にめだかがいた。「僕らと一緒に学校に行くんだ。一緒に楽しく行こう」と。
物語はそもそも何のために生まれたか。いろんな説があるんです。人間って、普通に生きていると、生きている意味はないでしょう。「なぜ生きるのか?」と言われても困るじゃないですか。
ところが、そこに…例えば誰かとの出会いがあります。好きになって結婚する。「この人は生まれがお金持ちだよ。あなたは王子様を見つけたのね」と言われる。昔から王子様がいる物語はもともとあるんです。「そんな物語の中に生きているお姫様と、自分は同じ運命にあったんだ」と思うと、幸せになるじゃないですか。
小野アナ: この本は物語で書いてある。そして分量は書いてない。数字は出てこない。
高橋さん: 数字は暗記するだけだから。
人間は古代から、楽しみがなかったころにどうしたかというと、その集落に伝わる古いお話を、集落のおばあさんが火の周りに集まった子どもたちにしてくれた。これがいわば「物語の起源」といわれているんです。
お話を聞くことで、「こういうお話の中に、自分も生きているんだ。その仲間なんだ」と思って、喜びを感じる。そうやって人間は生きてきたんです。
これも、小説の世界でよく言われるんです。明治維新のあとに、日本の近代小説を森鴎外や夏目漱石が書いた。主人公の帝大生が海外へ行ったり、彼らが出世して女の子と恋愛して大体失敗する、という話がいっぱい書かれたんです。
なぜかというと…いろんな理由があるんですけど…新聞ができて、みんながお話を読むようになった。新しい時代になって、自分たちはどう生きていいか分からないでしょう。そんなときに、例えば学校へ行く。行くといろんな人に会えるから、そこで恋愛して…と行くのが一番楽しい、そんな「憧れるケース」を作ったんです。
小野アナ: 悲劇でも?
高橋さん: 悲劇になったら、悲劇の主人公になるわけ。つまり「ドラマ」が欲しいんですよね。そういうときにドラマを与えてあげるのが小説の役割だった。それはどの時代でもそうです。自分がそういうものを体験してみたいけど、できないから。
小野アナ: 「何に憧れていいか?」という…。
高橋さん: 今はどういうのがモデルか分からないですよね。
小野アナ: 今はどんな人に憧れたらいいんですか。
高橋さん: そんなことを、小説家は考えているんです。
カレンさんの場合は、物語を新しい場所に提供したんです。
小野アナ: 場所?
高橋さん: レシピや料理本に。「こういうところにも物語はあるよ」ということなんです。すごく新しい何かを見た、という感じがしますね。「やられちゃった」という感じです。
小野アナ: 「ひみつの本棚」。きょうは滝沢カレン著『カレンの台所』から引用させていただきました。

放送を聴く
2020年6月19日(金)放送より

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